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プログラム医療機器のこれから PHR利活用 産官学で議論

2022.11.01

10月18日、プログラム医療機器の実用化をテーマとする講習会『京都大学SaMDセミナー PHRを巡るビジネスの最前線』がオンラインで開催された。登壇者には、渥美坂井法律事務所の落合孝文(おちあいたかふみ)氏、京大病院先端医療研究開発機構講師の池田香織(いけだかおり)氏、KDDI株式会社ヘルスケア事業推進部の田口健太(たぐちけんた)氏が招かれた。

心電図機能を用いた診断支援や治療用アプリなど、医療に情報通信技術を用いたものはSaMD(Software as a Medical Device;プログラム医療機器)と呼ばれ、英米やドイツ、インドが日本に先駆けて開発を進めてきた。日本も2020年以降、厚労省を中心にSaMDの早期実用化に向けた制度作りを行ってきたが、個人情報の取り扱いや事例ごとの薬事承認の審査などにおいて今なお課題が山積している。今回のセミナーでは、患者個人が生涯保持する電子カルテPHR(Personal Health Record)の利活用を軸に、法曹界・医療界・通信業界の三者がSaMDの最新動向を語った。

最初に、落合氏はPHRやSaMDに関する制度整備の現状について述べた。PHRの利活用については、20・21年の個人情報保護法改正の概要を踏まえ学術研究・公衆衛生の目的の適応範囲やその例外を示し、PHRの用途を広げるため総務省や厚労省にて法制度の検討が行われている過程を紹介した。SaMDについては、医療・健康アプリの社会実装を促進すべく規制改革実施計画会議が内閣府にて進められている。

次に京大病院の池田氏は、糖尿病治療にSaMDを必要とする背景および開発過程の困難を、過去複数の研究例や実体験から語った。薬物療法や運動療法にまさり重視される食事療法において、患者の体重管理は難しい。その背景には身長や年齢、基礎代謝量の個人差が大きく影響することや、患者の食事量と活動量の管理が厳密にできないことなどがある。医療者による指導介入内容の測定が難しいことも相まり、糖尿病食事療法の検証例に乏しいのが現状である。食事療法に関するPHRの収集・蓄積をすべくSaMDを開発する際、治療効果の指標やエビデンスの不足が「医療機器」認可の手続きにおいて障害になっており、難航しているという。

3人目にKDDIの田口氏は、自社のPHRサービス『auウェルネス』を例に、民間でのPHRサービスの事業機会とSaMDの社会実装にあたってKDDIが行う今後の取り組みについて話した。予防から医療までの患者体験の最適化にPHRサービスへの需要があり、医療に関わる情報技術の活用に制限がある中で、KDDIは健康状態の可視化から受診支援までを可能にするSaMD『auウェルネス』を提供している。今後この範囲をオンライン診療や服薬指導まで広げつつ、23年にはPHRサービス事業協会(仮称)を設立し、民間事業者同士が連携してルール策定を行う展望を示した。

最後に行われた質疑応答では、行動変容の評価指標は明確化しにくく薬事申請のボトルネックになっていることや、産官学医の協働において健康・未病・病気の境界など共有すべき意識がまだあることを議論した。附属病院医療情報企画部の黒田知宏教授は、国家規模の支援や制度作りを待つ中で、研究者や事業者は各々のプログラムやサービスの実用化に向け準備する必要があるとして、セミナー全体を総括した。

今回セミナーを主催したKAHSIは、京大オリジナル株式会社のもとデジタルヘルスに関する定期的な勉強会を無料で行っているほか、社会人や企業向けに医療用ソフトウェアの事業化を支援する相談窓口を設けている。