文化

ルネベスト 『ローマ人の物語』のお手軽ダイジェスト+α

2008.10.16

著者は『ローマ人の物語』で有名な塩野七生さん。『ローマ人の物語』は1992年から2006年まで、全15巻刊行されたもので、ローマ1000年の歴史を克明に書き綴っている。塩野さんはこの功績でイタリアから国家功労賞を授与され、日本では07年に文化功労者に選出されている。ここまでとことんやれば評価は後からついてくるということを示した、歴史マニアの手本のような人。

今回紹介するのはそんな塩野さんの最新作『ローマから日本が見える』。端的に言ってしまえば、これまで15年かけて著してきた『ローマ人の物語』の簡略版だ。とにかく著者がどれだけローマ人を、ローマ史を好きなのかが伝わってくる。

ロムルス、レムスによる建国神話から、リキニウス法の制定、ポエニ戦役、カエサルによる独裁、パクスロマーナ時代など、扱う事象は一部を除いて有名なものばかり。しかし出来事の経過の説明に終始することなく「なぜ」という疑問に逐一答えていく。なぜローマ軍は強かったのか、なぜ階級対立は解消できなかったのか、なぜラテン同盟は失敗したのか…等々。

また、「サビーニの女たちの強奪」「左利きのムティウス」「相続税の発明」など著者自身が「ディテールこそ歴史の醍醐味」と文中で語っているように、所々で挟み込まれるマニアックなエピソードも豊富で面白い。

『日本が見える』の部分は最後の章と各章の話の端々で、現代日本とローマ人国家の姿を重ね合わせるという形で、申し訳程度に顔をだすのみ。単なるダイジェスト版では芸がないので無理矢理にでもなんらかの付加価値をつけようとしたのか、あるいは著者自身が実際に本気で「歴史から学んで現代社会の課題を乗り越える」という考えを打ち出したかったのか。いずれにしろとにかく、一々日本のことを持ち出してはローマ史を教訓にしたがる点はあまり好きになれなかった。ローマ人の興亡を物語っていくだけで十分面白いのだから小細工はいらなかったように思う。

特に歴史が好きでない人でも『物語』として読めば面白い。手軽に読めるので『ローマ人の物語』本編の方を読もうにも時間がない、という人にはおすすめの書。(義)