文化

食に探る日本の持ち味 セミナー『日本の食とプラットフォーム学』

2022.03.16

2月24日、第8回プラットフォーム学連続セミナーがオンラインで開催された。プラットフォーム学とは、農業や医療、防災といったさまざまな分野ごとに収集・解析され現場に利用されている情報を、他の分野に横断的に応用することを目指すものだ。今回は、アメリカのIT企業が席巻する情報通信分野で日本が力を発揮する道筋を探るため、「食」を通して日本独自の精神性を見出すことをテーマとした。

セミナーでは、「食」を専門とする登壇者3名がそれぞれの見解を述べた。料理研究家の土井善晴氏は、食事をお金で容易に入手できる今、本来は生きることに直結する料理を不要だと考える人々が増えていると述べた。そのうえで、食べることには「自然」「料理する人」「食べる人」の三者が関わっているとし、料理は自然の恵みをもたらす地球と他者を大切にする行為であること、料理という少しの苦労によって人は初めて本当の安らぎを得られることを主張した。さらに日本の食文化の特徴として、食材全てに神が宿るとみなしそのひとつひとつを丁寧に味わおうとするきめ細かさ、水が豊かで手を洗う習慣が古くから根付いたゆえの清潔さ、経験の蓄積から身につける、自然の変化に対応する能力を挙げた。

続いて、堀河屋野村の十八代目当主・野村圭佑氏が自身の活動を紹介した。堀河屋野村は、元禄期に創業した廻船問屋を起源とし、伝統的な手作業で醤油と味噌を生産している。野村氏は酒や酢など日本の伝統食品やその製法を後世に伝えるため、職人6名のユニット「HANDRED」を結成し活動しているほか、仮想空間で堀川屋の蔵を見学できる「蔵人船」というサイトを開設したと述べ、作る側同士と食べる側との交流の重要性を語った。また、日本の食文化の特徴として自然への適応力を挙げた土井氏の主張に賛同し、経験で培った感覚ではなく、機械で測る温度といった数字に頼ろうとしていると危機感を示した。

次に、農学研究科の田尾龍太郎教授は日本国内の果樹生産に目を向け、りんごの着色を促すための袋掛け栽培など、手間をかけ高品質で高価格の果物を作る手法が重視されていることを述べた。加えて、梨に似た食感をもつ「太秋柿」など、日本で生み出された新品種の多くが世界的に注目を集めているとし、手数を惜しまない日本の職人気質が、世界標準との差別化に繋がるという見通しを示した。

以上3名の主張を情報学研究科の原田博司教授がとりまとめ、それぞれの見解について意見が交わされた。議論の中では、果物で「甘さ」ばかりが重視されるように、人々の「美味しさ」の価値観が狭くなっているという問題意識が共有された。農家が経済的理由から大衆に好まれる味のものを生産せざるを得ないという田尾教授の指摘をうけ、土井氏と野村氏は、自然の中にある多様な「美味しさ」とそれが育まれる過程を理解することで、食への感性を培うことが必要だと主張した。

当セミナーは月に一度、京大プラットフォーム学卓越大学院が開催している。次回は3月30日の16時45分から『資産化するコンテンツとプラットフォーム学』をテーマに、東映の白倉伸一郎氏や、KADOKAWAの井上伸一郎氏が登壇する予定だ。(凡)