インタビュー

鱸淳一 キャリアサポートセンター長 「売り手市場の陰でうまくいかない『マッチング』」

2008.03.16

―今年は求人倍率がほぼ2倍と「超売り手市場」だといわれています。京大生の就職活動の動向はどうでしょう。

京大生の就職活動は「前後」に長いのが特徴。スタートダッシュが早い人もいるが、のんびりしている人も必ず一定数いる。就職活動は年々早期化しているといわれるが、今年はスタートダッシュ組が更に早くなった印象だ。昨年だと早い人でも10月ごろに始めていたのに対し、今年度は8〜9月の夏休みから始めている人が多い。

根強い人気のある外資系企業の活動が早く、夏のインターンシップやサマージョブあたりから採用側がつばつけを始めるからなのだが、それにつられて国内企業の採用活動も早期化している。早期化の連鎖が起こっている気がする。

ただ、全体的に京大生は他大と比べてのんびり型が多い。理学部や文学部など周囲から就活の情報が入ってこない環境だとなおさらである。

―昨年京大新聞が4月に行なった新入生アンケートでは、文学部の新入生の半数が「心配なこと」として就職を挙げていますが。

それなら早くから取り組んでほしい。4月、5月になってから内定がもらえないと言って駆け込んでくる人も少なくないから。

そもそもで言えば、4年生(M2)になってから就職支援をしていくのが一番よいのだが、世の動きからはそういうわけにも行かない。だから、前年の春、夏からじっくりと準備をして欲しいと思って、サポートしている。 面接とかの段階になると、就活ノウハウのトレーニングを積んでいる他大学の学生に京大生は圧倒されてしまうことが多く、自信を失ってしまいがちだ。京大生には京大生なりのアピール戦略があるはずなので、めげすに「なにくそ」と思って頑張ってほしい。

―関東の大学に比して京大はのんびりしているというのはよく聞きます。

京都の製造業はまだ強いものの、地盤沈下しつつある関西とあらゆるものが集中している首都圏とでは、情報や刺激に差がある。関西でも関関同立は早稲田・慶應を意識して就職活動をしているようだが、京大生はのんびりしている。そこが評価されることも多いのだが、ちょっと過剰に自信を持っているのかなと感じる時もある。

―リクナビやマイナビなど、最近の就職活動では情報が氾濫している感もあります。

インターネットは確かに情報を取りやすい。ただそれをどう咀嚼していくかが重要。以前、就職サイトを作っていた立場として忸怩たる思いはあるが、就職ナビは企業との連絡ツールとして、割り切って使っても良いのではないか。それより実際に就職した人に話を聞いて、生きた情報を獲得する「就活」をしてもらいたい。

情報が取りやすい一方で、情報武装が足りないと感じる。送り手として企業情報を作っていたときは、大きな企業も小さな企業も、それぞれの企業のいいところをみてほしいと思って作ってきた。しかしそれがなかなか伝わらない。ブランド力や知名度を確認しているだけの使い方が多いのではないか。例えば、事業所の所在地からでも企業の戦略性は見えてくるはず。そういう風に基礎データを見るだけでも、その企業が大体わかる。これから攻めていく相手に対して情報武装をするという「準備」すらできていない人が多いと思う。

情報武装という面では就活マニュアルも同様。京大生の傾向として、就職活動を始めたころは、就活マニュアルに頼らずに自己流でやろうとするが、ESや面接で失敗するとすぐにマニュアルに頼り、マニュアル通りの紋切り型でやってしまうことが多い。マニュアルも所詮は使いようなので、使いこなした上で自己流を貫くという考え方が大事。これは仕事にも通じることだと思う。

就活を成長の過程だと捉えて、自分は何になりたいのかを考え、見つけていってほしい。世の中にどういった仕事があり、自分は何になりたいのか。自分なりに世の中との対峙の仕方を学ぶことも、そもそも大学に来た意味の一つだろう。

―マニュアルという話が出ましたが、現在の就活が受験と同一視されている傾向は否めないと思います。

かつて就職は一生にほぼ一度きりのチャンスだったので、受験と同じ方法論が通用したこともあったと思う。しかし、現在のような雇用の流動性が高い世の中では、ジョブホッピングする人も多く、必ずしも就職する機会は一回きりではない。当然、企業のほうは非常に多様な観点で採用をするようになっている。 しかし、受験の方法論が通用すると思っている人はまだまだ多く、例えば不合格になった人から、「答え方のどこが悪くて落ちたんですか、直してもう一回挑戦します」と相談されることが少なくない。就職ってそんなものではない。企業は質問の答えそのものではなく、全方位的に人物を見ているということが分かってない。

―最近では転職ブームです。キャリア志向の強まりと見ることもできますが、学生と企業とのマッチングがうまくできていないのではないでしょうか。

昨年の事例ですが、4月初旬に複数の内定をもらった学生が、内定をキープしたままで秋採用の選考に行くということが結構あった。彼らは比較的早くから就職活動をやって、順調に内定をもらった組だと思うが、自分の内定先に納得できていない。

また、したたかな学生は「この企業にはこう言えば受かる」と吹聴し、実際いくつも内定をもらっている事態が生じている。学生も問題だが、ちゃんとクロージングできていないのに内定を出す企業にも問題があると思う。

順調に就職活動が進んでいく人には2通りのパターンがあり、就職活動を通して自分の落ち着き先を理解できるタイプと、テクニックはどんどん上達するのに肝心の「価値軸」が定まらないタイプだ。

後者の場合は、待遇やブランド偏差値の高さを求めて、「もっとよいところ」はないかと迷ってしまい、いつまでたっても内定先の企業に満足できない。こういう人たちを見ていると、やっとこさで一社しか内定を貰えなかった人の方が、腰が座っていて将来的にはよいのではないかと感じる。

―キャリアサポートセンターではどう取り組んでいきましょう。

もっと産業界の実態とか仕事のありかたとかを理解してもらうために、手を変え品を変えやっていく。センターの少数のスタッフではできることに限界があるが、もっと相談体制を強化していく。教室や研究室でも、世の中にどうシフトして行くべきかという、キャリア形成を意識した人材育成に取り組んでもらいたい。

―ありがとうございました。

《本紙に写真掲載》