文化

言葉で拓く新しい世界 第77回未来フォーラム 森見登美彦氏と藤原辰史准教授が対談

2021.01.16

第77回京都大学未来フォーラムがオンデマンド配信形式で開催されている。作家の森見登美彦氏と藤原辰史人文科学研究所准教授が対談し、同時期に京大に在学した両氏が、在学時の思い出や、現在の活動につながる出来事を3つのテーマに沿って振り返った。

まず森見氏が、自身の京大生時代を振り返った。森見氏が物語をつくることに熱中したきっかけは、小学生のときに友達と紙芝居をつくったことだという。それ以来小説家を志していた。京大農学部に入学してからは、ライフル射撃部に所属しながら、執筆活動も行ったが、結果が出なかった。4年生のときには、初めて所属した研究室になじめず、逃げ出した。留学や休学を挟みながら卒業したが、就職活動には失敗。卒業論文も書いていなかったが、訪ねていった研究室の教授が迎え入れてくれた。大学院の入学試験から入学後の5月までに書き上げた『太陽の塔』が第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。小説家になることはほとんど諦めており、「最後に一本書いて終わりにしよう」と思って書いた作品だった。

大学生を主人公とする小説を多く執筆してきた。その舞台のほとんどが、京大在学時に自身が体験した世界に想像を加えたものだ。「主人公は当時の自分よりアクティブ」と話す森見氏自身は引っ込み思案な学生で、恥をかくことを恐れて活発になれなかったという。もっと失敗しておけばよかった、という思いを原動力に書いた小説の中では、登場人物が様々な事件に巻き込まれていく。

次に話題は作品の創作に移った。森見氏は在学中、自転車で古本屋をまわることが趣味だった。とくに内田百閒の作品を読むことに没頭し、文章は事象を描写する道具であるだけでなく、素材そのものであることに気づいたという。文章をつなぎ合わせてひとつの世界をつくりあげる内田の作品との出会いが、その後の読み方や書き方に大きく影響したと振り返った。デビュー当初は構想なしに頭から行き当たりばったりで執筆しており、『四畳半神話大系』は各章を同時に書き進めたという。『聖なる怠け者の冒険』以降の作品では、一転して、予め構想を練ってから書くように努力したが、満足のいくようには書けなかった。書きながら新しいものを見つけていくことでしか、面白いものは書けないのでは、と考えるようになった。ジャンルに関しても、「自分に書けるものはほとんどない」と語り、現在も、自分に書けるものを「ギリギリのところ」で模索しているという。

最後に森見氏は、書くという営みに対する考えを語った。日常的な使い方から離れた、意外な言葉の組み合わせから連想して小説を書くことが多いという。藤原准教授が自身の著作『分解の哲学-腐敗と発酵をめぐる思考』に言及し、森見氏が「小説家として何を分解しているのか」と自問する場面もあった。読者の求める小説を書こうとすると、既存の作品の繰り返しに陥ってしまう。常に試行錯誤しながら新たな世界を切り拓くために、「読者の期待に応えない」という決意をもって作品をうみだしていると話した。

森見氏と藤原准教授の対談は3月26日まで配信される。無料で視聴可。要申し込み。(田)