文化

アイデアの素はどこから? 未来フォーラム 小松純也氏(演出家)

2021.07.01

6月11日に第78回京都大学未来フォーラム「わからないものとの戦い ~「気分」と「イノベーション」の狭間で~」がオンライン形式で開かれた。未来フォーラムとは京都大学で学生時代を過ごし各界で活躍する卒業生が、在学生に向けてメッセージを送る企画で、広く一般にも公開されている。今回の登壇者はテレビプロデューサー・演出家の小松純也氏。1990年に京都大学文学部を卒業し、フジテレビに入社する。過去にはバラエティ番組「トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜」や「IPPONグランプリ」の制作に携わり、同社退社後は株式会社スチールヘッド代表取締役を務める。現在は自らが企画したNHK総合テレビジョンのバラエティ番組「チコちゃんに叱られる」にプロデューサーとして携わっている。

講演の中で小松氏は、ヒット作品を生み出す秘訣について、過去の成功体験の反芻・分析からは創造は生まれないとしたうえで、ヒットした番組に共通すると考えられるものとして「自分が感じた「ときめき」」を挙げた。ここで言うときめきとはなんだろうか。

小松氏は、フジテレビの先輩社員との喫茶店での会話を振り返った。「「新宿の百貨店で伊勢丹だけ紙袋が大きい理由」を教えてもらった。その時私は「へぇ~」と思った」そこから着想を得て作られた番組が、「トリビアの泉」だ。
現在放映されている「チコちゃんに叱られる」についても制作秘話を語った。小松氏はある時、アイスクリームの賞味期限がいつかという疑問を持ったという。「アイスクリームは好きでよく食べていたのに、その賞味期限が実はないということを知らずに生きていたことに気づき愕然とした」それがきっかけで、この番組を思いついたそうだ。かかった時間は10分ほどだった。

番組「チコちゃんに叱られる」では5歳の女の子「チコちゃん」が「ぼーっと生きている人」を叱りつけるが、その起用理由も話した。「母親が亡くなったとき、火葬場でキャッキャッと騒ぐ5歳くらいの女の子のおかげで、場が和んだ」という。難しい場を和ませることが出来るのはそんな存在だと思い、番組に組み込んだと明かした。
さらに続ける。「チコちゃんに叱られる」は、「人間のフロー体験(没頭)を欲求する部分に訴えかけるようにしている」という。小松氏はフロー体験の例として、歩けるようになった小さな子どもが、自分のできる限界にまで挑戦したいと思うようになって、道路の縁石に登ってバランスを取りながら歩こうとすることを引き合いに出した。ここで重要なのは、人は自分から全くかけ離れたことには興味を持てないということだという。小松氏は「例えば日本人は教科書で見たようなタージマハルを見てみたいと思っても、全く接点のないアジアの仏教寺院に行きたいとはなかなかならない」と話す。ときめきの正体は、「身に覚えのある限界を乗り越えるフロー体験だ」と小松氏は説明した。

このときめきを多くの人に共有しなければヒット作は生まれない。ではどんなものに多くの人がときめきをおぼえるのか? 小松氏は自らの直観で目星を付けるという。「ただし、」小松氏は忠告する。「ここでの直観は決してヤマ勘と言われるものではない。ヒトの潜在意識の中から生まれる正しい思いつきなのだ」

続けて小松氏は、我々はインターネットから膨大な量の情報を取得する作業につい没頭してしまうが、その作業から離れ、世界を自分の目で見ることこそが直観を磨くことに繋がると説く。最後には「人がときめきを感じるかどうか判別する一番のセンサーは自分自身だ。複雑怪奇な世の中を生きている私たち自身は高性能なセンサーを持っている。自分に正直になればなるほど、その気持ちは普遍性を帯びる。目指すべきは世界一普通の人間だ」と結んだ。

スピーチの後は事前に募集していた質問や、ユーチューブライブのチャット機能で参加者が残したコメントに対する応答の時間が設けられ、約一時間に及んだ講演は終了した。講演の様子は後日、京都大学ユーチューブチャンネルにて公開予定だ。(航)

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【参加者からの質問に答える小松純也氏】