企画

〔特集〕チョコレート

2016.01.16

来月2月14日は何の日かピンとくる人はどれくらいいるだろうか。受験を控える諸君は差し迫る試験への緊張と不安で頭がいっぱいに違いない。そう、この日はバレンタインデー。チョコレートを贈りあって互いに愛や友情を伝え合う、恒例のイベントだ。そもそも正式にはチョコレートなど扱わないとか、そんなの日本だけとか、もはや単なるお菓子産業の陰謀だとか、たくさんの批判はあろうが、ここでは気にしない。

二次試験の追い込みで忙しい人、もう合格が決まった人。受験が終わる時期はそれぞれ異なり、2月中旬は学校で顔を合わせることはほとんどないだろう。いずれにせよバレンタインデーをだれかと楽しむのは困難だ。そんな受験生に、受験生らしい、ちょっと有益なチョコレートの楽しみ方を提案したい。二次を控える人だけでなく、そうでない人にも孤独を乗り越え、これからの励みとなることを願いたい。(編集部)

〔歴史〕チョコレートのたどってきた道

チョコレートの起源は、メソアメリカで作られていたカカオ豆の飲料であるといわれる。16世紀のアステカ帝国では、カカオ豆をすりつぶして粉にし、トウガラシやトウモロコシ、アチョテ(食紅)を加えて水に溶かし泡立てたものが飲まれていた。当時はカカオが非常に貴重であったため、この飲料は高貴な人々や戦士しか口にできない贅沢品だった。

スペイン人によるアステカ帝国征服をきっかけに、支配体系の崩壊やカカオの増産によってカカオ飲料が現地の一般庶民の間に広まり、16世紀末にはヨーロッパ人の間にも普及し始めた。スペイン人は、それまで水に溶かしていたカカオ飲料を熱くし、砂糖や香辛料を入れて飲む方法を考えだした。この新しいカカオ飲料は、スペインから周辺のヨーロッパ諸国へと広まっていく。

ヨーロッパでは最初カカオは貴重品で、薬として傷病兵や貴族階級に提供されることが多かった。チョコレートを客に出すことは、権力や経済力の証しともなった。カカオの需要増加とともに生産地がメキシコからカリブ海地域、南米やアフリカへと広がり、黒人奴隷を使ったプランテーション栽培によりカカオの生産量は増加していった。ヨーロッパへの供給量が増え、チョコレートは市民階級にも普及していく。

19世紀になると、現在の固形チョコレートのもととなる発明が相次ぐ。まず1828年にオランダのヴァン・ホーテンがココアバターの抽出に成功し、脂肪分を減らした飲みやすいココアを発明した。1847年、イギリス・ブリストルの薬局経営者、ジョーゼフ・フライがカカオマスにココアバターを加えて固めた固形チョコレートを開発した。19世紀後半には、スイスのダニエル・ペーターがミルクチョコレートを発明する。さらに1880年、同じくスイスのルドルフ・リンツが、機械の改良により材料の粒子を細かくすりつぶすことに成功し、舌触りのなめらかなチョコレートが生まれた。

日本にも、18世紀末までにはオランダ人によってチョコレートが伝わっていたらしい。最初はやはり薬とされていたが、明治時代には現在のように固形のチョコレートが菓子として一般に販売されるようになる。1877年に東京の米津風月堂がチョコレートを発売したのをはじめとして、1918年には森永製菓が日本で初めてカカオからの一貫製造・販売を行った。

2月14日のバレンタインデーにチョコレートを贈る習慣は、日本では1960年代に確立し始め、1970年代に盛んになった。現在ではこの習慣が広く定着し、1年のうちでチョコレートが最も売れるイベントとなっている。(雪)

○参考資料
・八杉佳穂(2004)『チョコレートの文化誌』(世界思想社)
・武田尚子(2010)『チョコレートの世界史』(中公新書)

〔効用〕甘さと苦さが与える力

ここでは、チョコレートを食べる効用を考えよう。

受験生にチョコレートはとても有益だ。というのは、チョコレートに含まれるブドウ糖が脳のエネルギーとなり、カカオ成分がやる気を引き出し、不安を緩和するので、大いに勉強がはかどるからだ。より効果的な勉強を祈念して、効用のメカニズムと効用最大化の秘訣、チョコレート摂取における注意点を簡潔に示しておきたい。

冒頭でふれたように、チョコレートはブドウ糖とカカオ成分という、甘さと苦さの両輪で成り立っており、基本的には2種類の効果を期待できる。一つはやる気の喪失やストレスを回復する精神面の効果で、もう一つは記憶力や集中力を高める認知面の効果である。勉強をすれば頭を使うし、受験生は緊張や不安が多いので、どちらの効果も大変重要に違いない。

はじめにブドウ糖だが、周知の通り、脳のエネルギー源はブドウ糖だけなので、この摂取が認知面に大きな効果をもたらす。チョコレートはこのブドウ糖を多量に含むので、こうしたエネルギー摂取には都合がよい。次にカカオ成分だが、概ね5種類の成分が精神面によい効果をもたらすと考えられている。まず、アルカロイドの一種であるテオブロミンが中枢神経を覚醒させるのでやる気をもたらし、また、エンドルフィンが気分の高揚、幸福感を与え、他にはセロトニンの増加により不安が取り除かれ、気分の低下が防止されるなど精神の安定に寄与する。血流をよくするフラバノールや脳麻薬物質の一つであるアナンダミドは認知面と精神面の両方の疲労を緩和する働きがある。さらに、チョコレートの香りは集中力や記憶力を高めるのに効果があるともいわれている。ここまで簡単に見てきたように、チョコレートは知力と意欲を高める優れものなのだ。

さて、それではどうすればそうした効用を最大化できるだろうか。ブドウ糖とカカオ成分を多量に摂取すればよいのだが、ブドウ糖はそれほど気にせずとも多量に含まれているし、毎食ごとにチョコレート以外の食品からも多く摂取してしまう。よって、普通の甘いチョコレートを適度に取れば十分だ。一方、カカオ成分はほとんどチョコレートからしか取り入れる機会はないはずなので、意識しないと多く摂取することはできない。そして、普通の甘いチョコレートには微量しか含まれていないので、カカオ成分を多く含む、苦いチョコレートを摂取すべきということになろう。例えば、カカオ○○%と高い含有量を銘打っている、ハイカカオチョコレートが該当する。ちなみに、ホワイトチョコレートにはカカオがほとんど含まれていないので注意したい。

ただし、チョコレートにもデメリットがあるので留意してほしい。特に甘いチョコレートの摂取には気をつけるべきだ。というのは、カカオ成分には虫歯や肥満を防ぐ働きがあるといわれているものの、頻繁あるいは多量の摂取は糖分過多でその原因となりうる。また、これはまずないことだが、苦いチョコレートは食べ過ぎると微量に含まれるテオブロミンやカフェインの多量摂取となってよくないだろう。いずれにせよ、勉強がはかどる効果は限定的なので、あくまで気分転換くらいに考えて活用してもらえれば幸いである。(千)

○参考資料
・化学物質の作用については以下のサイトを参考
http://fatigue.hajime888.com/f040.html ・日本チョコレート・ココア協会HP
http://www.chocolate-cocoa.com/ ・明治製菓HP
http://www.meiji.co.jp/chocohealthlife/ ・蜂屋巌(1992)『チョコレートの科学―苦くて甘い「神の恵み」―』 講談社ブルーバックス
・板倉弘重(1998)『チョコレートの凄い効能』 かんき出版

〔コラム〕『チャーリーとチョコレート工場』 チャーリーの美徳から、今、学び取ること

このコラムでは、チョコレートに関連して、映画『チャーリーとチョコレート工場』を紹介し、受験生に向けて、これにちなんだメッセージを送りたい。この作品は、イギリスの小説家ロアルド・ダール(1916-1990)の原作『チョコレート工場の秘密』(邦訳題名)をもとにして作られ、2005年に公開された。ジョニー・デップが出演したことで結構有名になったのだが、覚えているだろうか。

ストーリーの詳細はウェブで調べてもらえればわかるので、ここでは割愛したい。ここで関わってくる部分を以下に簡単に述べる。貧しくて家族思いの優しい少年チャーリーが運よくチョコレート工場への招待チケットを手に入れ、普段は閉ざされている工場を見学する。その見学というのは、実は工場の後継者を決める目的があって、招かれた5人の子供たちのうち、チャーリー以外の4人は自分の欲求をむき出しにするあまり規則に違反して退去させられてしまう。残ったチャーリーは賞を得て工場を与えられるのだが、それには「家族を捨てる」という条件が課せられていた。というのは、工場の経営者であるウィリー・ウォンカには、少年時代、自分の大好きなチョコレートを追求したが故に歯科医の父親に捨てられた経験があったからだ。チャーリーはウォンカに家族の大切さを気づかせることでその条件を取り去り、工場を手に入れながら家族とともに幸せに暮らしたのであった。

ここから受験生にもあてはまるであろう2つのメッセージが読みとれると思う。一つ目は、チャーリーがこの工場見学で一番になったのは、他の人を蹴落としたからではなかったことだ。むしろ彼は静かに他の人を見守っていたにすぎない。他の4人は精神的に幼いこともあって、自分たちの欲求の追求に一生懸命で他のことを省みられなかったため、自動的に脱落してしまったのだ。受験ではこうしたことはなくて、みな規則に従って真剣にそして誠実に勝負に挑み、それによって自制心や他者の尊重、礼儀といった美徳を意識するしないに関わらず、身につけていくと思う。貧しさという生まれついた環境によってではあるが、こうした美徳はチャーリーも備えていたと私は考える。しかし、彼は重要な競争で勝利したわけだが、その後もその美徳を捨て去ることはなかった。つまり、ここでいいたいのは、まず、勝負に勝てたか否かはいざ問わず、受験が終わってもそうした美徳を失わないでほしいこと。そして、それらを単に競争で優位に立つものとは心得ず、自分の人生をもっと広い意味で豊かにするものととらえてもらいたいことである。

もう一つは、チャーリーの家族思いの性格についてである。合格後は下宿すれば家族と離れ、自宅生でも家族と過ごす時間は少なくなり、いずれにせよ疎遠になるに違いない。それは当たり前のことなのだが、それでも時には家族の大切さに気づき、忘れないでほしい。受験生時代には私たちを気遣い、陰ながら応援してくれたはずである。そして、合格後も物質的には仕送りや学費を払ってくれたり、また精神的にも支えてくれるに違いない。これから先、合格発表後すぐは喜びあるいは悔しさでいっぱいで家族の支えにはなかなか意識がいかないし、その後も自分のことで精一杯になりがちであるが、時々はチャーリーのようにそうした家族を思いやる気持ちを抱くことが大切だと考える。

以上チョコレートとはほとんど無関係で恐縮だが、ぜひ心に留めていただければ幸いである。必死な時にこそ、本当に大切なことは何か考えるとともに、自分を支えてくれる大切な存在への感謝で思いを満たしてみてはいかがだろうか。それを自らの美徳として身につけるならば、受験やその後の進路でも、思わぬよい方向に転ぶかもしれない。(千)