文化

京都大学アクションプラン 意義・価値・重要性を診る

2007.06.01

この度公表された「アクションプラン」は、今後数年間にわたる事業計画を示したものである。現在、他大学を含め、同様の計画を策定する動きが広がっているが、その背景には何があるのか。アクションプランの意義や課題について探ってみた。

京都大学は、5月22日、「重点事業アクションプラン」と題した事業計画を発表した。2006年から2009年にかけての4年間で特に積極的に取り組むべき課題を示したもので、既に着手しているか、今年度中に着手が見込まれている25項目の事業に加え、今後検討を行う事業として13項目が挙げられている。

アクションプランとは、ある組織が自らの抱く目標を効率的に達成するために策定されるものである。省庁などの行政機関から民間企業に至るまで幅広く実用例が見られるが、ここ数年、大学でもアクションプランを策定する動きが急速に広まってきている。

とりわけ目立つのが国立大学法人の動きだ。昨年の7月に東京大学で05年から08年までの4年間を対象とするプランが公表されたほか、九州大学、東北大学、一橋大学など全国各地の大学でいずれも今後数年間の目標が策定されている。

背景にあるのは、04年度より導入された国立大学の法人化である。それまでは「国立大学」として国の運営制度に等しく委ねられてきたが、法人格が付与されたことに伴い、基本的に運営は大学各自の裁量に任せられるようになった。これにより、大学はこれまで以上に独自色を強く出していけることになったが、一方で研究費調達は各大学の自助努力によることになるため、財源確保が喫緊の課題となることは避けられなくなる。

現在、毎年政府から交付される運営費交付金は、効率化係数が適用されて漸減することとなっているため、大学側から積極的に行動しない限り、財政状況はどんどん悪化していく。また、苦しい財政状況にあっても、大学の価値を高め続けていくためにはすべてを一様に行っていたのでは足りず、多数ある候補の中から優先的に行うものを抽出し、特に意義のある事業に多く配分するほうがよいという考え方がある。

このようにアクションプランは今や大学運営において重要な役割を担うものになりつつあるといえる。しかし、運営に不可欠だからといって掲げられた項目すべてを当然に疑念なく受け入れることはできない。アクションプランは通常の目標とは重みが違うのである。

アクションプランは多くの場合、目標達成のための中核的位置を占める。単なる計画であればプロセスに影響は出ようとも全体にはさほど影響は与えないが、アクションプランが崩れると事業そのものが頓挫してしまう。それだけに提示された項目や着手期間などは入念に確認する必要があるといえる。

京大の分類によると対象となるのは「教育」、「研究」、「学生支援」、「医療支援」、「広報・社会連携事業等」となっている。これは目的による分類だが、実際に着手される活動に焦点を当てると、そのほとんどは「施設の整備・拡充」、「制度・環境の整備」、「調査活動」の3つに帰着する。そして最も多くの割合を占めるのは施設の整備・拡充といったハード面である。

大学側によれば、新建物の建設として、西部構内のボックス立て替えや厚生施設である和歌山県の「白浜海の家」の立て替え、京大宇治キャンパスでの黄檗プラザ(今年度秋にも着工、次年度完成予定)の建設が挙げられている。それ以外にも土木総合館改修工事(耐震化)▼学生交流スペースの創設▼清風荘庭園の整備活用、今後検討を行うものとして1億円以上の大型研究設備の充実▼外国人研究者宿泊施設の整備▼文学部東館の機能改修・有効活用▼学内設備共同利用センターの設置▼人文科学研究所本館の改修▼吉田寮・室町寮の立て替え▼国際交流会館の整備、といった項目が並んでいる。

耐震化など必要不可欠なものを除けば多くの項目は作ること・実行することそれ自体に意義があるというよりも、それ以後にどのように活用がなされたかが重要である。そうであるのに、アクションプランに示されているように完成時で期間を区切るのは、作ること自体にのみ意義を見出しているとされても仕方がないと思われる。同様に「制度・環境の整備」も各種の「調査活動」も項目それ自体よりもむしろそれがどのような成果につながり、学内を変えていくのかという視点から捉える必要がある。

今回のアクションプランでは全学的資金である「重点戦略経費」を年約6億円ずつ充てるほか04・05年度に「経営努力」で得た約54億円の「目的積立金」が意味を持っている。「目的積立金」はむしろ「剰余金」としての性質が強い。多くは大学活動のさまざまな場面で切り詰めて捻出した金銭である。その意味で、今回の決定は私たちにとって決して無縁なものではない。報告によるとアクションプラン自体は今後見直していく可能性が示唆されている。事業計画が正しい方向に向いているのかどうか、これから大学がどのように変わっていくのか、ということは何よりも私たち一人一人が監視していかなければならない重要な課題である。