文化

天文学から歴史を見る 京都千年天文学街道 「京大花山天文台ハイキングコース」

2015.12.16

11月29日、NPO法人花山星空ネットワーク主催のイベント、京都千年天文学街道「京大花山天文台ハイキングコース」が開催された。十数人の参加者が、花山天皇ゆかりの元慶寺から花山天文台まで歩き、ガイドと「天文博士」から天文学と歴史のつながりや天文台の歩みについて話を聞いた。

元慶寺

参加者は地下鉄東西線の御陵駅に集合し、ガイドの梅本氏と、天文台職員の「天文博士」・青木氏(博士(理学))に引率されて出発。20分ほど歩くと、花山天皇が出家した元慶寺に到着した。この寺の前で、花山天皇退位事件を例に、天文にまつわる歴史の話を青木氏と梅本氏が語った。平安中期に即位した花山天皇は、孫の懐仁親王(後の一条天皇)を即位させようとした藤原兼家の陰謀で、兼家の息子道兼に騙されて宮中を密かに抜け出し、わずか19歳で出家してしまったと言われる。当時の歴史書『大鏡』には、天皇が元慶寺に向かう途中、陰陽師安倍晴明の家の前を通ったとき、晴明が「帝が退位するという天変があったが、すでに実現してしまったようだ」と叫んだと記されている。「星の異常な動きである天変は天子の失政に対する天帝の警告と考えられていて、これを観測して対策をとる必要がありました。その観測を担当したのが陰陽寮です」と青木氏。陰陽寮の中で特に天体の観測を司ったのは天文博士で、安倍晴明もこの役職を務めていた。では花山天皇退位の際に晴明が見た天変とは何だったのか。候補は2つある。1つは、木星と天秤座のα星の「犯(=異常接近)」。しかし、この日木星は22時過ぎに沈んでおり、天皇が宮中を抜けだしたのは真夜中頃であることから、晴明の見た天変には該当しないと思われる。もう1つの候補は月がすばるを隠す「すばる食」だ。こちらは時間的矛盾はないものの、それほど珍しい現象ではないため、晴明が気付かなかったとは考えにくいという。実際には晴明は事前に天変を観測していたのに天皇には告げず、藤原氏の陰謀に荷担したのではないかと推測されている。

花山天文台

次に元慶寺から花山天文台に向かう。花山天文台は京大大学院理学研究科附属の天文台で、1929年に設立された。ハイキングコースの名にふさわしく、傾斜のきつい坂や階段、舗装されていない山道を歩くこと約40分、やっと天文台にたどり着いた。ここからは花山天文台の各施設、本館、歴史館、別館、太陽館を見学する。

まず、天文台本館のドームで45㌢屈折望遠鏡を見学。1969年に設置されたこの望遠鏡には2つ特徴がある。まず、鏡を使った特殊な構造をしている。以前に設置されていた口径の小さい望遠鏡に合わせてドームが設計されているため、通常の構造ではドーム内に収まらないのだという。また、時間と共に移動する星を観察し続けるため、現在は通常モーターを使って望遠鏡を少しずつ動かすが、この望遠鏡ではおもりが下がる力を利用する重力時計を使っている。この望遠鏡は現在、主に観望会などのイベントで使用されている。

その後、参加者は二手に分かれて歴史館と別館を見学した。

歴史館は数人が入るといっぱいになるほどの小さな建物で、天文台の歴史に関する写真や展示物が見られる。ここで、花山天文台の歩みについて青木氏から話を聞いた。京大の天文台はもともと吉田キャンパス内にあったという。天文台の施設のうち小ドームが本部構内の尊攘堂の裏手あたりに設置されていた。しかし、すぐ傍の東大路通に市電が開通する際、震動により観測が困難になることから花山天文台に移された。

歴史館は本来時刻を合わせるために子午線の方向の天体を観測する施設で、かつては子午線館と呼ばれていた。観測機器・子午儀や、それを使って合わせた時計なども展示されている。

別館には、1910年にハレー彗星観測のために導入され、現在も太陽の観測に使われているザートリウス18㌢屈折望遠鏡がある。現役の望遠鏡では日本最古で、地球に大きな影響を及ぼす太陽の活動を監視する役割を担い、最新の研究に貢献しているという。天気が良いとリアルタイムで太陽の観察ができるが、この日はあいにくの曇り空のため、以前に撮影された画像で太陽フレアなどを観察した。

最後に太陽館を見学。望遠鏡と建物が合体したような特殊な構造をしており、太陽光を分解して分析する施設だ。建物の先端にあるシーロスタットという合わせ鏡から取り入れられた太陽光は建物内の複数の鏡で反射され、最終的に建物の奥の部屋にある回折格子という装置で虹色のスペクトルに分けられる。太陽の彩層にある物質が光を吸収すると、スペクトルの中に吸収線という黒い線が現れる。吸収線の位置は物質によって決まっているため、それを見れば彩層にある物質の種類が分かるという。この日は太陽が出ておらず太陽光のスペクトルを見ることができなかったため、代わりに懐中電灯の光を使った。真っ暗な部屋の中で回折格子に光を当てると、虹色の光の帯が壁に広がった。

花山星空ネットワークは、京大に所属する天文台の施設や知的財産を活用して宇宙や科学について普及活動を行う団体。天文学と京都の歴史の関わりを市民に広く知ってもらうため、京都千年天文学街道と題してハイキングツアーをはじめ様々なツアーや、講演と3D映像上映をするアストロトークなどのイベントを定期的に開催している。(雪)