企画

〈企画〉献血へ行こう!

2015.11.01

街で献血をしたり、呼びかけたりしている姿を誰しも1度は見たことがあるのではないだろうか。しかし私たちは目にはしても、血が足りないという実感がわかず、面倒だから、急いでいるからとつい敬遠しがちである。そこで今回はさまざまな角度から献血を紹介する。まだ献血に行ったことのない人も、是非一度献血について立ち止まって考えてみてほしい。(編集部)

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質問事項、これでいい?男性同士の性的接触について

献血の前には問診がある。献血をする人からできるだけ安全な血液を手に入れることで、輸血を受ける人がウイルスに感染するリスクを減らすためだ。HIVも対象の1つであり、問診の中には次のような質問事項がある。

6カ月以内に次のいずれかに該当することがありましたか。

①不特定の異性または新たな異性との性的接触があった。

②男性どうしの性的接触があった。

この文章に対して何か感じることはあるだろうか。異性との性的接触については「不特定」「新たな」と該当する範囲が限定されている一方で、男性同士の性的接触は異性間、女性同士のそれと区別されているうえ、性的接触の事実だけで献血ができなくなるおそれがあるのだ。男性同士で性的接触があったとの一事をもって、その集団を一律にハイリスクだとみなしドナーの対象から排除してしまうことは、ゲイ・バイセクシュアル男性にとって不当な扱いだと言えないか。

もちろん、この文言は何の根拠もなく規定されているわけではない。厚生労働省が発行するエイズ発生動向年報によれば、昨年の新規HIV感染者(日本国籍者)994名のうち、男性同士での性的接触による感染は736件、異性同士による感染は158件と、件数に大きな違いがあることが分かる。また、ウイルス感染の危険性は、性的接触の方法についても指摘されている。京都府赤十字センターの伊藤俊之医師によれば、HIVは基本的に粘膜を介して人体に侵入するというが、男性同士の性交渉に多い肛門性交では直腸粘膜に微細な傷ができやすく、血液や精液を介して感染する確率が高いと考えられているという。これらの防止にはコンドームの使用が有効であるが、避妊のためという認識が強いコンドームが男性同士の性交渉で用いられることは少ないそうだ。

しかしそうであるならば、コンドームなどを用いて安全な性的接触を心がけている人には一層、献血の制限を緩やかにするべきということにならないか。これに関して、問診の文言が右記のようになった経緯について触れておきたい。1999年、「動くゲイとレズビアンの会(アカー)」は当時の厚生省に、それまでの「不特定多数の異性と性的接触をもった。」「同性と性的接触をもった。」という文言を「コンドームを使用せずに異性または同性と性的接触をもった。」とするよう要望書を提出している。とはいえ、ハイリスクな性的接触かどうかを確かめるために行為の内容を詳細に確認することはプライバシーの観点から問題があるため、要望書では同時に「以下の項目に一つでも該当する人は献血できない」項目の問診を先に行い、該当した場合は署名を不要とするなどの対応をとるよう提案している。これらの影響も受けて質問事項は現在の形となっているが、アカーの求めていたものではない。

なぜだろうか。原因の1つに、コンドームを使用したとしても感染のリスクは排除できないことがあると考えられる。イギリスでも、問診ではコンドームの使用・不使用、口腔性交・肛門性交の区別をせずに、男性同士の性的接触があったかを尋ねている。どのような制限が適切なのかを正確に解明できていない部分があるのではないだろうか。他の原因としては、(署名を不要にするとしても)性交渉の内容まで尋ねられることに対する抵抗感が挙げられるだろう。

しかし、もし「ハイリスク集団」から「ハイリスクな性的接触をした人」を区分することが出来るのであれば、それをしないことは特定の人に対し不当に献血を制限していることになる。適切な方法で問診が行われているか、今後も見極めていく必要があるだろう。

アルゼンチンでは今年9月、ゲイとバイセクシュアルの人に対する献血禁止令が撤廃された。アルゼンチンのように「ハイリスク集団かどうか」ではなく「ハイリスクな性的接触をしたかどうか」で献血の可否を判断している国はまだ少数だが、これからこうした動きが活発になる可能性は十分にある。血液不足が危惧される中、安全な血液をできるだけ多くの人が提供できるようにするにはどうすればいいか、各々考えてみてほしい。(国)

参考:
厚生労働省エイズ動向委員会『平成26年エイズ発生動向年報』
http://api-net.jfap.or.jp/status/2014/14nenpo/bunseki.pdf

『アカーの提出文書』 http://plaza.harmonix.ne.jp/~y-paolo/material010302.htm

『TIME紙 2015年9月17日』
http://time.com/4038742/argentina-gay-blood-donation/


献血 なぜ必要?

献血された血液は、がんをはじめとする病気の患者への輸血に使われる。現在血液の機能を完全に代替する手段はなく、献血はそれらの病気の治療のために重要な役割を果たしていると言える。

献血をするにあたっては質問への回答や問診、ヘモグロビン濃度の測定などに応じる必要がある。献血をする人、輸血を受ける人双方の健康を守るためだ。これらによって献血が可能かどうか、判断される。質問の項目には持病の有無、特定の国への渡航履歴の有無などがあり、問診は回答の内容に基づいて行われる。

献血には血液中の全ての成分を採血する全血献血と、特定の成分だけを採血する成分献血の2種類がある。それらの献血によって採血した血液の中には保存期間の短い成分があるため、定期的に供給される必要がある。血液の需要が季節や日によって変わることはあまりない一方で、供給量は変動しやすい。インフルエンザなどで体調を崩す人の多い冬から春にかけて、また1年を通しても雨の日は献血をする人が少ないのだ。

長期的なスパンで見ても、献血の将来は安泰とは言えない。京都府における年齢別献血状況を見ると、40代以上は5年前と比べて献血者が増加しているのに対し、20歳~29歳では5年前の73%にとどまっている。少子高齢化を考慮してもなお、献血をする人は急速に減少していると言える。輸血用血液の需要は現在ほぼ横ばいで推移しており、今後供給量のみが減少すれば血液不足がより深刻な問題となる。中には将来85万人分の血液が不足するとの推計も出ている。

今後も安定的に血液を供給するためには、特に若い世代が献血をすることが必要であろう。(国)

参考:京都府赤十字血液センター平成26年年報

私の献血体験記

容易なのは確か

献血をしたことのある人は周りにいるけれど、私自身は献血に行ったことがない。献血を特集する機会に、私も献血をしてみることにした。日本赤十字社の案内を見てみると、手軽にできることが何度も強調されている。本当にそうなのだろうか。

献血ルームに入ると、まず受付へ案内される。最初の献血であることを告げると住所や生年月日などを聞かれた。カードを作るらしい。カードには指紋が登録され、次からはすぐに献血ができるようになるそうだ。続いて注意事項や質問に答え、血圧の測定に移る。測定結果を持って、医師の問診を受ける。「君の血圧だったら当分病気の心配はないね」などと軽く言葉を交わしながら質問に答える。次は献血前の血液の検査。少しだけ血液を採られ、血液型が申告した通りか、血液の濃度が献血に適しているかを確かめられた。終わったら、いよいよ採血。ベッドに寝かされて血を採られる。看護師に「終わったら飲みたいものある?」などと聞かれながら寝ていると10分もかからずに終わった。採血が終わってもすぐには帰れない。急に体調が悪くなる場合に備えてしばらくルームの中にいなければならないらしい。指示通りにルームの中で15分ほど休憩して帰路についた。

献血は、採血以外では質問に答えたり、注意事項を説明されたりするだけで、さほど労力が必要なものではなかった。ルームの中も、採血室も含めて開放的で、中にいて抵抗を感じるようなことはなかった。確かに献血は容易にできるものと言っていいだろう。(B)

献血できなかったら ヘモグロビン不足を食事で改善

ヘモグロビン不足による制限

すでに書かれているように、献血をするにはいくつかの条件がある。伝染病や特定の国への渡航履歴に該当する人は比較的少なそうだが、何気ない普段の生活から献血ができない場合もある。体重制限はその一つだが、自分では把握しにくいのがヘモグロビン量に関する制限だ。ヘモグロビンは、赤血球に含まれる成分で、血液中の酸素を運ぶ重要な役割を果たしている。これが一定の基準を下回ると運動時の息切れやめまいなどが生じる。いわゆる貧血はこの状態を指す。

献血時には、はじめに微量(約2mL)の採血を行い、血液型を確認するほかヘモグロビン量などを検査して献血できるかどうかを調べる。そこで基準値を上回れば本格的な採血に移る。具体的な基準値は、最も主要な献血方法である400mL全血献血では、男性であれば13g/dL以上、女性であれば12・5dL以上であり、これを下回ると献血できない。また、400mL全血献血より負担が小さい成分献血では、両性とも12g/dL以上が採血基準となる。逆にいえば、こうした基準を下回ると貧血状態にあるといえる。

この欄では、実際にこの基準を下回り献血ができなかった記者がどのようにヘモグロビン量の増加へ取り組み、またどのようなことを学んだかを書きたいと思う。貧血状態にあって献血できない人はその克服に、健康な人もその予防に役立ててもらえたらうれしい。

ヘモグロビン不足とその原因

昨年の秋に献血に初挑戦したものの、ヘモグロビン量12・7g/dLで惜しくも400mL全血献血ができなかった。一年間経た今年の秋に再挑戦するも、同数値10・4g/dLで今回も採血には至らず。そのうえ数値は前回よりも低く、献血をするどころか治療を受けるべき水準だと診断された。

体内の鉄分は、主にフェリチン、血清鉄、ヘモグロビンの3種類に分類される。肝臓や脾臓などの体内に鉄分を貯蔵することができるが、これがフェリチンにあたる。また、血清鉄は血液中にある鉄分で、ここからヘモグロビンが合成される。鉄の減少は、フェリチンから始まり、次に血清鉄、最後にヘモグロビンに至る。献血センターの初めの採血ではヘモグロビン量しか測ることはできない。ただし、このヘモグロビン量不足は鉄不足の最終段階を表すので、これが減っているのは身体の危険信号だと思った方がいいそうだ。

ヘモグロビン量不足は、単に鉄分の摂取量が不足している鉄欠乏性貧血と、何らかの理由で鉄分が身体に蓄えられない、あるいは大量に出て行ってしまう特別な原因による貧血の二つに大きく分けられる。前者のケースが大半を占め、これは主に鉄分の摂取量を増やすことで比較的容易に改善できる。

原因は主に食事をはじめとする生活習慣にある。偏食などにより鉄分が不足したり、赤血球をつくるたんぱく質やたんぱく質を合成するのに必要なビタミン類(特に葉酸、ビタミンB12)が不足して赤血球が少なくなると身体に不調が生じる。鉄分やビタミン類は、ごはん・パン、肉・魚、野菜を毎日適度にバランスよく食べていればまず不足することはない。他に、女性は定期的に血が失われるのでヘモグロビン量不足になりやすいし、足裏に継続的に強い衝撃が加わるスポーツ(長距離走、バスケットボール、柔道、剣道など)をする人も赤血球が壊れやすくヘモグロビン量不足になることがある。汗をかくことで微量の鉄分が身体の外に出て行くので、スポーツ選手は鉄分が不足しやすい(1Lで0・5~1・2mgほど)。

食事療法を実践

記者は一日三食、栄養バランスよく食べているので不足することはないはずなのだが、長距離走に取り組んでおり毎日10㌔㍍以上走っているので、その分鉄分が失われていたり赤血球が壊れているのかもしれない。そこで、食事に気をつけて鉄分摂取量とたんぱく質摂取量を増やすことで貧血を解消して献血できる身体を目指した。

鉄の一日の摂取推奨量は、厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(2010年版)によれば、男性(18~29歳)が7・0mg、女性(同年代)が10・5mg(月経あり)、6・0mg(月経なし)となっている。また、鉄分には大きく分けて2種類あることがわかった。動物系と植物系でそれぞれヘム鉄、非ヘム鉄という。ヘム鉄は吸収率が20~30%と高いのが特徴だが身体に貯蔵されない。対して非ヘム鉄は吸収率は1~5%と低いが身体に貯蔵できる。

目指すは推奨量の約1・5倍である一日11mgだ。記者は、鉄分含有量が高い食品でありいつも食べている、納豆、豆腐、卵といった植物系たんぱく質に加えて、豚肉や鶏肉の摂取量を増やしたり、新たに鶏肉のレバーをほとんど毎日取り入れることで動物系たんぱく質を意識的にたくさん食べた。また、野菜からの鉄分摂取を心がけ、小松菜やほうれん草、乾燥系食品である切り干し大根やひじきを多めに食べるようにした。他に十分に鉄分を取れなかった日は、鉄分を多く含み手軽に摂取できるグラノーラ系の栄養機能食品を利用した。

結果はいかに?

食事療法を開始して約1カ月後、再び献血センターに赴き献血に挑戦した。ここ1カ月の成果はいかに……。ヘモグロビン量10・8g/dL。若干は上がったものの、まだまだ献血できる基準にはほど遠い。食事療法が不十分であったか、運動による鉄分減少に摂取量が追いつかなかったからだろうか。献血センターの人には、そもそも鉄欠乏性貧血なのかどうか、またそうであれば何が最も効果的な治療か、そういったことをきちんと受診して調べるように強く推奨された。ヘモグロビン量の検査のために献血センターを利用するのはよくない。貧血が疑われるようであれば無理に献血しようとせず、医療機関に受診しよう。その勧めに従い、とりあえず記者は現在治療中である。(千)



献血ルーム紹介

京都府では、3つの献血ルーム及び献血バスで献血をすることができる。今年10月からはルームの開室時間が延長され、忙しい学生でも献血がしやすくなった。それぞれのルームやバスに特徴があるため、4つの献血場所を回って比べてみるのも面白いかもしれない。

四条

献血ルーム四条は、四条通りに面したビルの5階にある。四条烏丸交差点から東に約300㍍。周辺には商業施設が数多く立ち並ぶ。街中ということもあり、若い人がよく訪れるという。確かに買い物のついでに来る人がいても不思議ではない場所だ。ルームを訪れると、まずは入口から数10㍍伸びる真っ白な廊下が印象に残った。

ルームには京都で唯一、キッズスペースがある。担当者は「買い物に来た子供連れの夫婦にもルームを利用してもらいたい」と、その目的を説明した。また、北側の角には本棚が置いてある。寄付によって集まった約1500冊の本は、誰でも借りることができるそうだ。(B)

京都駅前

開室して今年で10年の京都駅前ルームは、京都駅すぐ北の便利な地にある。ビルの6階にあるため、窓からは東山を望める。訪れる人はサラリーマンが中心で、若者は少ないという。

京都駅前ルームでは、広いスペースを生かし、様々なイベントを行っている。その一つに「オープンスクエアB.D.R.」がある。これは、絵画や彫刻などの展覧作品をルームに持っていくと、無料で室内に展示することができ、学生も気軽に利用できる場所として活用されている。革製のストラップに名前を入れてもらうことのできるレザーバーニングや、占いなども定期的に開かれている。これらは他のルームにはない特徴と言えそうだ。(国)

伏見大手筋

京阪伏見桃山駅前の商店街の中にある伏見ルームは、4年前に現在の場所に移設された清潔感のあるルームだ。40代、50代を中心に、地元の人が多く訪れる。暖色の電球に照らされた温かみのあるルームの中には、職員手作りの折り紙が並んでいる。他のルームに比べてスペースが限られておりイベントができない分、飾りつけなどで室内に季節感を出し、丁寧な対応をすることを心がけているという。

ルームが1階にあるのは京都府内で伏見ルームだけだ。中の様子が外から見えるため、初めての人でも気軽に入ることができる。またアクセスも良い。伏見というと遠いイメージがあるが、大学からの所要時間は約30分と、実は他のルームと大差ない。火曜日に行くと、「献血デー」として記念品を受け取ることができる。(国)

献血バス

献血バスは現在、亀岡市以北で1台、京都市以南で3台の計4台が稼働している。記者が訪れたのは京都駅前に来ていたバス。通りすがりの人に献血をしてもらおうと、何人もの職員がプレートを持って呼びかけていた。しかし、その日は開始から30分経っても協力者が現れない。特に駅前は、献血目的でバスを訪れる人は少なく、通りかかる人も用事のある人が多いため、苦戦を強いられる日もあるようだ。

献血バスの強みは、献血ルームに行かない、行けない人をカバーできるところにある。最近では、人数の集まる事業所や、若者の多い大学を回ることが多い。京都駅前でも、近くの専門学校生や通りすがりの高校生が多くバスを訪れるという。(国)