インタビュー

〈知ってますか?自助グループ〉第1回 うぃーすた京都

2014.06.16

「自助グループ」をご存知だろうか。一般に障害や病気、ひきこもりなどの困難を抱えたとき、病院や支援団体などに助けてもらうことがよく知られているだろう。しかしそれとは異なり、当事者同士が集まり語り合うことで困難の解決を目指したり、自分たちの問題を考えるきっかけを持つことができる団体がある。それが「自助グループ」である。自助グループの存在は世間によく知られているとはいえないが、近年のインターネットやSNSの普及を受けて、以前にもまして様々な団体が生まれているように思われる。関西の自助グループで活動している人に話を聞くことを通じて、困難を抱えた人には該当する自助グループの活動内容を、一般の人には困難を抱えた人にどう接するかを知ってほしい。

連載第一回では、吃音(stuttering)の自助グループ「うぃーすた京都(We are stutterers in Kyoto)」を取り上げる。吃音は一般的には「どもり」といわれる言葉がなめらかに出てこない障害だ。うぃーすた京都の代表である京都大学情報学研究科修士課程2回生の飯村大智さんに話を聞いた。(智)

―うぃーすた京都はどのような団体ですか。

吃音がある10代、20代の人たちを中心に集まっており、2013年4月に結成されました。月一回の例会には10名から15名ほどが参加します。会員制はとっていないので、自由に参加することができます。

―どういった活動をされていますか。

例会では、京都市の交流施設「ひと・まち交流館」に集まって、主に吃音に関係するテーマに沿った話し合いや、吃音についての知識を得るための勉強会をしています。それ以外にも、皆で食事や遊びに行くことがあります。また、ことばの教室という吃音がある児童が通う通級学級との交流会や、吃音がある人の治療に関わる言語聴覚士の養成校に通う人との交流会をしています。そのような吃音に本来携わるべき場所での吃音の認知が十分にされていない現状もあり、吃音当事者で集まるのと同時に、吃音がある人を支援する人や組織とも関わることも大切だと感じています。

―うぃーすた京都を立ち上げた理由を教えて下さい。

全国に「言友会」という1960年代に設立され始めた吃音の自助グループがあり、当事者同士で悩みの相談や話し合いなどをしています。私も以前は京都の言友会に参加していましたが、参加者の大半が60代以上で、考え方や価値観で合わないことがありました。そこで、同世代の吃音がある人と話せたら楽しいのではないかと思い、うぃーすた京都を結成しました。このような若手限定の集まりは、SNSでは不定期で集まりが開かれることはありますが、組織だった試みとしては全国でも初だと思います。(参加者は30歳未満に限定しています。)

―吃音がある人に伝えたいことはありますか。

吃音の悩みは軽視されがちです。「少し言葉がつまるだけだから、本人はあまり悩んでいないだろう」と周囲の人に思われがちですが、実は本人はとても悩んでいることが多いです。

吃音で悩んでいる人には、「吃音で悩んでいるのは自分だけではない」ということを伝えたいです。周囲に吃音がある人はなかなかいないので、吃音で悩んでいるのは自分だけだと思いがちですが、自助グループに行くと、吃音がある人が10人も20人もいるわけです。自分以外の吃音がある人に接することで、吃音で苦しいのは自分だけではないと実感するのは大きな救いになります。

吃音がある人でも、自分の言葉が出にくいことが吃音であるということを知らない人や、吃音という言葉を知っていても、それがどういうものか知らない人も沢山いると思います。吃音のことを知るのも、悩みの解決に繋がります。

―吃音がある人でも吃音についてあまり知らないのはなぜでしょうか。

吃音当事者に吃音のことを教えるべきなのが、言語聴覚士とことばの教室の先生なのですが、彼らが吃音についてよく知らないことが一因です。

言語聴覚士は、言葉や聴こえの障害を診る専門職です。言語聴覚士が担当する領域の中に吃音も入っているのですが、失語症、嚥下(えんげ)、脳卒中のリハビリテーションなどが重視され、吃音は見過ごされがちです。

ことばの教室は、吃音をはじめとしたことばの障害や、発達障害やことばの遅れ、聴こえの障害などを診ている小中学校にある通級教室です。そこの担当の先生にも、吃音を診る教育を受けて来なかったため、吃音のことはわからないという人が沢山います。

―特に吃音がある大学生に向けたアドバイスはありますか。

大学の授業でも、吃音があることで直面する問題があると思います。ゼミの発表や語学の音読など、話す場面がありますよね。僕自身も授業のプレゼンテーションは大学に入りたての頃は苦手でした。初めは失敗すると思いますが、何回も繰り返しやって小さな成功を重ねて行くと次第に慣れがでてきて、吃音症状が軽くなったり、発表自体も少しずつ上達することがあると思います。だから、失敗しても挑戦を繰り返してほしいと思います。授業に限らず、就活の面接などでも同じことがいえますね。

―吃音がある人に接する際に気をつけたいことは何ですか。

「落ち着いて話せばちゃんと言える」とアドバイスする人が多いですが、それはあまり好ましくありません。普通の人でも「どもった」とか「噛んだ」ということがありますが、吃音は基本的にはそういうものとは別の、一つの障害なのです。

吃音がある人に接する時は、まずは「どうしてほしいか」を聞いてほしいです。吃音が出た時に、言葉を先取りしたらいいのか、話を待った方がいいのか、発表の時であれば、人より長い時間が必要なのか、人と同じ時間でいいのかなどは、その人その人によって変わってくると思います。

ただ、同時に思うのが、あまり特別視はしてほしくないということです。普通の友人に接するのと同じように接するのがいいと思います。

また、吃音がある人には、どういう助けを必要としているのかなど、自分の考えを周りに伝えてほしいです。吃音がある人とない人が話すことで、お互いの考えを理解することが大切だと思います。

―ありがとうございました。

インタビューを終えて

私が「知ってますか? 自助グループ」の連載を始め、第一回に吃音の自助グループを選んだのは、私自身に吃音があり、過去に吃音の自助グループに救われた経験があるためだ。私は自らの吃音に対し否定的なイメージを持ちつづけていた。どもればその度に嫌な気持ちになり、できるだけ人との関わりを避けていたが、自分に吃音があることが受け入れがたく、吃音について調べることも、他の吃音者に会うこともしなかった。しかし高校2年の時、ある吃音自助グループに行って、吃音を持ちつつも誇りを持って社会で活動する人々に会い、自分もそのような吃音との付き合いをするべきだと思った。それから少しずつであるが、吃音との付き合い方がうまくなってきていると自負している。

自助グループに行く勇気が持てなければ、これもいくらか勇気が要ることではあるが、個人的な体験を記した書籍やブログエントリーを読むこともよいだろう。

同時に、自分の抱える困難に対する知識を持ってほしい。うぃーすた京都でも吃音勉強会をしているとあるが、正しい知識を持つことは大きな救いになる。

インタビュー中にあるように、私も小さいころから「落ち着いて話せばちゃんと言える」と周囲に言われてきた。その結果、どもると「気持ちを落ち着けられなかったからだ」と自責することになった。だが、吃音はそのように簡単に気持ちでコントロールできるものではないと知り、どもっても仕方がないかという一種の開き直りを得ることができた。

人の話や、書籍、インターネットで得られる知識の中には、信頼性に欠けるものがある。吃音でも「こうすれば吃音は治る!」などと唱う情報商材があるが、大半が詐欺めいたものであると思われる。適切な批判的態度を持って接されたい。

最後に吃音に関して信頼できる書籍を一冊紹介したい。九州大学病院耳鼻咽喉科の菊池良和医師が著した『エビデンスに基づいた吃音支援入門』(学苑社 2012)である。吃音について科学的に解明されたことがまとめられている。「吃音支援入門」とあるが、言語聴覚士やことばの教室の先生だけでなく、吃音者本人やその家族、友人など、吃音について知りたい人すべてに有用である。

うぃーすた京都代表
飯村大智さん
情報学研究科修士2回生。うぃーすた京都は今後、「うぃーすた関西」と名称を変更し活動を京都外に拡大する予定だという。