文化

安心して弱者になれる社会に 第57回未来フォーラム

2013.11.16

11月7日、百周年時計台記念館・百周年記念ホールにて、京都大学未来フォーラムが開催された。未来フォーラムは大学と社会の協力・連携の促進を目的としており、卒業生を招いて、講演・意見交換する場として2004年より開催されている。第57回を迎える今回は、社会学者の上野千鶴子氏が「ジェンダー研究のススメ」と題し、女性の雇用などについて女性学の観点から語った。上野氏は京大文学研究科博士課程単位取得退学後、京都精華大学教授、東京大学教授などを経て現在、立命館大学大学院先端総合学術研究科で特別招聘教授として教鞭をとる。著書に『家父長制と資本制』『近代家族の成立と終焉』『生き延びるための思想』(いずれも岩波書店)などがある。

上野氏はまず「生涯に一人しか子供を産めないならば、男児・女児のどちらを望むか」というアンケート結果を取り上げた。日本では80年代前半から、女児を望むとの回答が優位に立つようになった。他の東アジア儒教圏ではいずれも男児選好が優位であり、日本は例外的だという。この結果について上野氏は、女性の地位向上が原因ではないと語り、女児選好が優位となった背景として少子高齢化を挙げた。少子高齢化社会では、親の側で自分たちの老後に対する不安が高まり、娘に対する介護期待が生まれる。また、出産する子供が1、2人では、出来の良い子供を育てなければ、という重圧が親にのしかかる。すると、娘なら失敗しても「出来が悪くても、可愛ければいいや……」と言い訳ができると親は考える。女児選好の高まりには、このような事情があると分析し、女児選好は女性差別がもたらしたものだとした。

上野氏によると、自分たちの時代は職場と家庭を両立することは無理だという考えが社会にあったため、どちらか一方を追求すればよかった。しかし現代の働く女性は、大学や職場での「息子の顔をした娘」としてのキャリア上の成功と、家庭での妻・母という女としての成功の二つを求められているという。そして80年代から先進諸国を覆ってきた新自由主義(ネオリベラリズム)が女性に及ぼす影響について持論を展開した。新自由主義改革によって、女性は多様なライフスタイルを選択することができるようになった一方で、「優勝劣敗」「自己責任」といった新自由主義の原理を内面化するようになった。結果として、思い通りにいかないのは自分の責任だと考え、リストカットをしたり摂食障害に苦しむ女性も出てきた。このような社会ではいつ誰が弱者になるかわからないと上野氏は語る。そして、単一の収入源に頼るのでなく、多様な収入源によって生計を立てる「マルチインカム」でリスクの分散をするべきだとした。また、大切なのは「安心して弱者になれる社会」の構築を目指すことだと強調した。

講演後は質疑応答の時間がもたれた。「結婚して幸せな家庭を築くことがこの世の幸せだと思っている。なぜ上野さんはその道を行かずに「おひとりさま」の道を歩んでいるのか」という学生の質問に上野氏は、「自分は結婚のことを「自分の身体の性的使用権を特定のただ一人の異性に生涯に渡って譲渡する契約」と定義している。このような恐ろしい契約はとても守れないからだ(笑)」と述べた。(築)