文化

「縮小社会」に備えよ 松久寛教授最終講義

2012.05.14

4月29日、松久寛・工学研究科教授の最終講義が吉田キャンパス物理系校舎313講義室で行われた。関東・関西・九州、海外からは韓国・サウジアラビアと、国内外各地から140人を超える聴講者が集まった。

講演内容は、自身の生い立ちや専門であった振動工学の研究成果、科学技術立国のための提言など広範にわたったが、中でも松久教授が力を込めて語ったのが、『縮小社会』についてだった。
「社会の持続」と聞いたときに、企業は持続的な発展のことだと考え、市民は今の生活水準を維持することを思い浮かべる。しかし、資源の量は限られていて、減っていく一方である。経済も衰退していき、次の世代に残せるものは莫大な借金くらいだ。そんな中では、「持続」など出来ないだろうと教授は語る。ではどうすればいいのだろうか。

ここで教授は、昨年の福島の原発事故が文明の転換点だったと述べる。安全神話・技術信仰の崩壊、国やマスコミへの信用の低下、中央と地方の在り方や消費生活の見直しなど、あの原発事故は多くの影響をもたらした。工業の生み出したものなら必ず危険性を併せ持っており、失敗と改良の繰り返しにより安全性を高めていく。しかし、原発に失敗は許されず、そのため原発の安全性が確保されることはない。そうである以上、原発を使い続ける訳にはいかない。原発を使わなければ機能しない社会なら、変えていくべきなのだ、と教授は言う。

成長を前提とするのではなく、経済や人口が縮小していくなかでも人々が暮らしていける、『縮小社会』のための方針として、技術面では生産効率重視の産業からエネルギー効率重視の産業への転換や使い捨てで次々消費される物ではなく丈夫で長持ちする物をつくることを、政治面では仕事を分け合うワークシェアリングや、無駄な社会保障を取り払い税金を増徴するかわりに、全国民に一律の最低限生活できる額の現金を給付するベーシックインカムを、松久教授は提案した。

松久教授はこれまでの生涯を振り返って、「幸せな人生でした。戦争、飢え、身分差別がなかった。こんなことが続いた例は過去になく、これからもないでしょう。工学に関わる者としては社会の成長が続く時代を生きたことは幸せであったし、多くの良き人との出会いにも恵まれた。今日はありがとうございました」と講義を締めくくった。