レコードに包まれて いしいしんじ×山極壽一トーク
2025.12.16
11月27日、作家・いしいしんじ氏のデビュー30周年を記念し、いしい氏と霊長類学者・山極壽一氏のトークイベントが書店・恵文社一乗寺店にて開かれた。京大出身という共通点を持ちながらも、人文学と自然科学という全く異なる道を辿った2人が、いしい氏の新作『チェロ湖』についてそれぞれの思いを語った。
『チェロ湖』は、琵琶湖をモデルとした湖に先祖代々暮らす男の家の歴史を描く小説だ。いしい氏が愛好するレコードが本作の重要なモチーフであり、男がレコード針を湖に垂らすと、湖全体がレコード盤のように先祖の物語を語り始めるという仕掛けがある。900ページにもわたる大長篇の本作だが、山極氏が没頭のあまり1週間ほどで読了したことを語ると、会場内からは驚きの声が漏れた。
初めに、いしい氏は山極氏と親しくなった経緯を説明した。居酒屋での出会いについて、いしい氏はその時の様子を克明に語る。「ガボンから帰ってきたばかりの山極さんが、ジャングルの匂いを立ち昇らせながら入ってきたんですよね」。そこからいしい氏と山極氏の交流は15年以上続くという。
『チェロ湖』について、山極氏がまず触れたのは鳥の鳴き声の表現だった。アオゲラは「ひょうっ、ひょうっ」、アオバトは「ふー、ふわぉー」など、作中には多くの独特な音声表現が登場する。山極氏は鳥ごとの描き分けの緻密さに「専門知識がないと難しいのでは」と驚嘆を示した。いしい氏は琵琶湖で録音した鳥の声の判別を京大の研究者に頼んでいたと明かし、「鳥の声をちゃんと書くことは本作の一番のポイントだった」と振り返った。
イベント中には山極氏の霊長類研究者としての面が垣間見える場面も多くあった。山極氏は、ゴリラと話すときに必要なのは言葉ではなく共鳴であり、「音楽は意味を持たないから人を包んで共鳴させる」と述べる。さらに、作中の人物がチェロの演奏者に背を向けて聴いている場面を、「人が視覚を絶って音楽に包まれる所がよく表れている」と絶賛した。いしい氏は「何も考えずに書いた場面だけど、山極さんの言葉で『なるほど』と思った。小説を読むという行為も、読み手と書き手の共鳴なんですね」と返す。2人の会話はその場での発見の連鎖によって広がり、常に刺激的で知の開拓に止むことがない。
イベントの合間には、いしい氏の収集したレコードが再生された。『チェロ湖』の登場人物に関わりの深いものから、いしい氏のイチ押しまで幅広く紹介され、参加者は目を閉じて聴き入った。「この蓄音器の隙間に手を入れたら、当時の録音している現場にたどり着ける気がするんですよ」と語ったのはいしい氏だ。蓄音器の魔法によって会場が1920年代の空気に包まれたままイベントは終了した。(燈)
『チェロ湖』は、琵琶湖をモデルとした湖に先祖代々暮らす男の家の歴史を描く小説だ。いしい氏が愛好するレコードが本作の重要なモチーフであり、男がレコード針を湖に垂らすと、湖全体がレコード盤のように先祖の物語を語り始めるという仕掛けがある。900ページにもわたる大長篇の本作だが、山極氏が没頭のあまり1週間ほどで読了したことを語ると、会場内からは驚きの声が漏れた。
初めに、いしい氏は山極氏と親しくなった経緯を説明した。居酒屋での出会いについて、いしい氏はその時の様子を克明に語る。「ガボンから帰ってきたばかりの山極さんが、ジャングルの匂いを立ち昇らせながら入ってきたんですよね」。そこからいしい氏と山極氏の交流は15年以上続くという。
『チェロ湖』について、山極氏がまず触れたのは鳥の鳴き声の表現だった。アオゲラは「ひょうっ、ひょうっ」、アオバトは「ふー、ふわぉー」など、作中には多くの独特な音声表現が登場する。山極氏は鳥ごとの描き分けの緻密さに「専門知識がないと難しいのでは」と驚嘆を示した。いしい氏は琵琶湖で録音した鳥の声の判別を京大の研究者に頼んでいたと明かし、「鳥の声をちゃんと書くことは本作の一番のポイントだった」と振り返った。
イベント中には山極氏の霊長類研究者としての面が垣間見える場面も多くあった。山極氏は、ゴリラと話すときに必要なのは言葉ではなく共鳴であり、「音楽は意味を持たないから人を包んで共鳴させる」と述べる。さらに、作中の人物がチェロの演奏者に背を向けて聴いている場面を、「人が視覚を絶って音楽に包まれる所がよく表れている」と絶賛した。いしい氏は「何も考えずに書いた場面だけど、山極さんの言葉で『なるほど』と思った。小説を読むという行為も、読み手と書き手の共鳴なんですね」と返す。2人の会話はその場での発見の連鎖によって広がり、常に刺激的で知の開拓に止むことがない。
イベントの合間には、いしい氏の収集したレコードが再生された。『チェロ湖』の登場人物に関わりの深いものから、いしい氏のイチ押しまで幅広く紹介され、参加者は目を閉じて聴き入った。「この蓄音器の隙間に手を入れたら、当時の録音している現場にたどり着ける気がするんですよ」と語ったのはいしい氏だ。蓄音器の魔法によって会場が1920年代の空気に包まれたままイベントは終了した。(燈)
