文化

ビジネスプランコンテスト世界大会で決勝進出 京大・同志社大チーム

2010.12.24

京大・同志社大の学生8人からなる仮想ハイテク・ベンチャー企業「ROCA K.K.」が、11月18日に米国のカリフォルニア大学バークレー校で行われたビジネスプランコンテスト世界大会で、日本の大学としては初めて決勝戦に勝ち残った。このコンテストはIBTEC(Intel+UC Berkeley Technology Entrepreneurship Challenge)と呼ばれ、世界中の大学・ビジネススクールの学生がハイテク技術に基づくビジネスを提案し会社をつくって競いあう。インテルとカリフォルニア大学バークレー校との共催で2005年より行われており、今回で6回目。世界60カ国で予選を勝ち抜いてきた27チーム(20カ国)が集結して準決勝を戦い、8チーム(8カ国)が決勝に進出した。日本からは他に東京大学も参加したものの準決勝で敗退した。なお、今年の優勝チームはドミニカ共和国ポンティフィシア大学のOsCompSystems社。

このROCA社に、全学共通科目「起業と事業創造」(担当教員:瀧本哲史・産官学連携本部客員准教授)を受講した理学部などの学部から3名、工学系大学院から2名、経営管理大学院から1名が参加している。また、同志社大学技術・企業・国際競争力研究センターの山口栄一教授が7年前より毎年行っている技術起業家養成プログラムの参加者を核にしてつくられた。

ROCAとは、Research Organization for Catharsis of Aquaの略で「濾過」をかけている。ROCA社はコンテストで、ナノ技術を用いた淡水化フィルター製造によるビジネスを提案した。アルミニウムやシリコンの薄板に対して特殊な酸化反応を施すと、周期的に直径数十ナノメートル以下の穴が稠密にあく性質を利用。この板表面に最先進技術を用いてセラミック薄膜を堆積させ、穴の径を極限にまで縮めると、ウィルスのみならず海水中の塩の成分を通さないセラミック板ができる。これを核技術として、淡水化プラント用のフィルターをつくる。従来の高分子膜フィルターに比べて、加える圧力を極端に下げられ、かつ寿命が劇的に長くなるので、水不足に悩む地域が、安価に飲み水を得られるようになる。また、今後アメリカをはじめ先進国においても水資源不足が深刻化することにも対応している。

今回、このコンテストに参加した京大チームの織田真也さん(エネルギー化学研究科M2)、鶴原悠悟さん(理学部物理学科3回)、兵藤克也さん(理学部物理学科3回)に話を伺った。(空)

――世界のチームが集まったということで、日本のコンテストとはまた違った経験ができましたか?

鶴原悠悟さん(以下、鶴):日本のコンテストに出たことがないので分からないですね。

織田真也さん(以下、織):初のビジネスコンテストがワールドカップみたいな(笑)。

兵藤克也さん(以下、兵):そうですね。授業の中で予選みたいなものはありましたが。

――授業で予選があったのですか?

鶴:はい。「起業と事業創造」の授業で、チームに分かれて各チームがビジネスプランを考えてきて、最後の授業で発表するという形だったんです。その中で一番優秀だったのでコンテストへという流れですね。

兵:IBTECだけに限らないかもしれないですけど、ビジネスコンテストが最近はそこで勝ちたいというよりは、自分の会社を有名にしたいみたいになっているんです。もはや事業化してて、投資家に自分をアピールするという。ビジネスプランじゃなくて実際に事業化してるというのが結構多いらしいですね。

――今回はすでに会社を設立しているところばかりが参加していたみたいですね。

鶴:日本はプラン、アイデアが主体なんですけど、大概は「最近のリーマンショックからどんどん大きくなってきた」みたいなことを向こうの起業家の方が言ってました。

――何に一番苦労しましたか?

兵:僕は英語もそうなんですけど、英語の他には、最初に穴が空くという技術だけをもらったんですが、どこに何の需要があるか、実際にこの穴が役に立つのかどうかが一番分からなくて、そこを乗り越えたと思ってからは結構すぐ決まったんですけど、そこにかなり時間がかかりました。実際、「ここに行けるだろう」と決まったのが大会の1ヶ月半前。かなりギリギリで仕上げたんで、やっぱそこが一番苦労しましたね。

鶴:今のに関連して言うと、実際に売る商品の決定が遅かった。シーズ(企業がが消費者に新しく提供する新技術・サービス)の技術の使い道自体は割と早くきまったんですよ。6、7月あたりには海水淡水化でいこうと決めてたんですけど、その海水淡水化をどういう形式で売るのかを決める時に何が一番足りなかったかというと、最初はポータブルで売るつもりだったんですね。それを大きなプラント用の膜に変えた。で、その時に一番重要になったのは、競合優位性。自分たちの持ってる技術の優位性というものをはっきり把握したのがやっぱ遅かった。

兵:なかなか、小さいところには最初競合相手がいないと思ってて、僕らが入ったら余裕だろうと思ってたんですけど、調べれば調べるほど強い競合がいて、「これは無理だな」と。

鶴:僕が一番苦労したのは自分たち自身が技術を持っていなかったことですね。別に僕たちが実験して、技術自体をすごく把握しているわけじゃなかったので、いろいろとしようと思ったことを試せるわけじゃないし、その技術が実際どれぐらいのものかを完全に把握しきれていなかった。「外から与えられたシーズ」というのが大会を通して一番難しかったですね。

織:まとめると、技術を何か人の役に立つ形にするためには両方把握しないといけないが、僕らはどっちも把握していなかった。日本の問題と僕らが常々思っているのが技術の人は技術だけをやってて、マーケットを見ている関係の人はマーケットだけやってる。だから昔から僕は両方できる人になりたいなと思ってて、それの一環としてこのビジネスプランコンテストに出ました。両方見ながらそれでも僕らはどっちかというと技術寄りで、あまりマーケットのこととか考えずに生きてきた側の人間なのですが、一方で経営管理大学院とかのメンバーが3人ぐらいいて、そっちの人は技術のことは何も分からない。ホントに売れるのとかいう話ばっかりだし、技術のことは特に気にならない。その間をどうつなぎあわせるかということ、つまり日本社会というか、どこのメーカーも持っている課題を、ビジネスプランコンテストの中で疑似体験できたのが難しかったところでもあり、すごく収穫があったところでもあるかなあ、という風に思ってます。

鶴:模範解答ですね(笑)。

――今回ビジコンでは役割分担とかは何かありましたか?

兵:まあ、ないですね。もうとにかくみんな全力でやろうみたいな。たぶん、決めた方がよかったですね。

鶴:しっかりは決めてなかったですけど、一応ミーティングするときに次までにやらなければならないことだとか、ここをもうちょっと固めようみたいなことをちゃんとみんなで挙げて、一番それを調べるのとか、行動するのに適していそうな人に割り振るというのはありましたね。

織:マーケットのサイズを調べるのとかは経営管理大学院の人にやってもらおうとか、電話で顧客のニーズについていろいろと聞き出す人はこの人がしゃべりがうまそうというのとか、統計データをとってくるのはこの人がネット検索能力が高そうというのを、みんなのなかで暗黙の了解みたいなのがあって。

――自分の得意な分野をやる、といったような。

織:強いていうならそれが役割分担ですかね。

――今後、チームまたは個人での会社設立などを考えていますか?

織:まあ一応考えてるよね?

鶴:そうですね。このプランを起用してということですか?

――そうですね。

織:起業できるかの判断を今からしていって、「いける」となったらたぶん起業すると思いますし、「無理」になる可能性もあります。まだ技術的に乗り越えなければならない課題が何個かあって、それの検証実験を大学の研究室と共同研究みたいな形にしてもらえることになったんで、そこの先生とやっていくという形になろうとしています。

――これから先はビジコン0に参加することを考えていますか?

織:僕はもう就職するからないけどどうですか?

鶴:一応、このビジネスプランで今、同志社のチームの方が同志社のほうのビジネスコンテストには出ていますね。それ以外では特にコンテストに出ようという動きはないので、今後の動き次第ですね。とりあえず今は準備段階というか、研究の方に話を進めています。

兵:プランとしてはそうですけど、実際コンテストに出たいかどうかと聞かれると、本当に自分が持っている技術で世界を変えたいという熱い思いがあったら、たぶんやっぱり海外の人たちみたいに「これで有名になって、投資してもらいたい」というスタンスで出ますね。

――会社を設立してから?

兵:それは分からないですけど、僕たちのモチベーションは今回は大会で優勝しようということだったんですよ。じゃなくて、モチベーションを本当に投資してもらいたいとか、そういう風になりますね。出るとしたら。

――みなさん前期にあった「起業と事業創造」の授業をとっていたんですよね。とろうと思ったきっかけとかはありますか?

鶴:僕は昔から経営だとか起業とか、理系なんですけどそういうことに興味があって、自分なりにちょっと本を読んでたんですけど、たまたま誘われて瀧本先生の授業に出たんですよ。前期の。そこで、瀧本先生が「木曜日の方がもっとしんどいよ」と言ってて、しんどい方に行くかと思った、というのがきっかけですかね。

兵:僕は一番初めに知ったのは2回生の後期に木谷哲夫先生(産学官連携教授)がしてらっしゃる授業に出て、そこでIBTECという大会があるのを知って、「どうやって出ればいいんですか」と聞いたらその授業をとればいいんじゃないかと言われて、なんか頑張ろうという風になりましたね。

織:僕はもともと就活を期にビジネス寄りのことに興味を持つようになって、そこから経営管理大学院の授業とかに出てて、そこでリレー講義の授業やったんですけど、その授業の教員に瀧本先生とか木谷先生がいらしゃって、その「起業と事業創造」の授業に出てみたらという風に言ってもらったというのが直接のきっかけですね。ビジネスに興味を持つようになったのは就活してて、普通理系の院生はメーカーの技術系の職業に就くのが普通で、商社とか全然違う職業とかを考える人自体がそもそも少ないんですが、それでいいんかなと考え、全体を見た上で決めたいなという思いが根っこにあったという感じですね。

――質問はこれで終わりです。ありがとうございました。

《本紙に写真掲載》