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熱を出さずにアミノ酸結晶をやわらかく iCeMS/田中教授ら

2010.11.22

物質―細胞統合システム拠点(アイセムス)の田中耕一郎教授と、理学研究科の永井正也助教、ムケシュ・ジェワリヤ博士らは、11月1日、これまで開発してきた「高強度のテラヘルツ電磁波(パルス)」の発生装置を使い、アミノ酸結晶に照射したところ、熱を出さないまま、結晶中の分子が非常に大きくゆれて、「やわらかくなっている(=融解しやすくなる)」ことを観測したと発表した。

「テラヘルツ電磁波」とは、約10の12乗(1兆)ヘルツの電磁波で、一般的に光と電波と呼ばれるところの中間の波長をもつ。水分子の制御をはじめとした物質・物性操作ができると期待されている。

田中教授らは昨年、光パルスと誘導体結晶を用いた超小型ファイバーレーザーシステムを作成し、高強度のテラヘルツ電磁パルスを発生させることに成功している。このパルス(短時間に起こる急激な波)は、1兆分の1秒単位を1サイクルとして、一気に一般的なトランジスタの数十倍を超える電場を発生することが出来るという。

またこのテラヘルツ波パルス照射では、電子レンジ(マイクロ波照射)などとは異なり、物質は加熱されにくいと考えられる。加熱による物質の変性が避けられるのが利点である。

今回の研究では、アミノ酸「L―アルギニン」の微結晶をポリエチレンで固めたペレット(塊)を試料とし、それにテラヘルツ電磁パルスを照射するとアミノ酸分子の運動がどうなるかを、分子運動に関わる「吸収スペクトル」(どの波長の電磁波をどれだけ吸収しやすくなったのかを示すもの)を見ることで観測した。

結果、吸収スペクトルの観測と量子力学による検証をもって、田中教授らのテラヘルツ電磁パルスの照射は、これまでの様々な電磁波による実験では見られない程、熱を出さないままアミノ酸結晶中の分子を非常に大きくゆすって「やわらかくする」ことが分かった。

今後はこの技術を使って、タンパク質などの巨大分子の立体配位や機能などを操作・解明できるようにしていきたいという。また成果は、米国物理会誌「フィジカル・レビュー・レターズ」(電子版)で公開された。