インタビュー

遠隔地探訪 京大ASEAN拠点 天使の都・バンコクと京都を繋ぐ

2025.07.16

遠隔地探訪 京大ASEAN拠点 天使の都・バンコクと京都を繋ぐ

ASEAN拠点の縄田栄治所長

関西国際空港から直行便で6時間ほど。熱帯に位置するタイの首都・バンコクには、実は京大が「ASEAN拠点」の名を冠するオフィスを設置している。しかも教職員が常駐しているのだという。桂や宇治といったキャンパスであればいざ知らず、海外の遠隔拠点がどのような場所で、どのような人がどのような活動をしているのかは、ほとんどベールに包まれている。ウェブサイトによれば、拠点は▼戦略的国際共同研究の支援▼国際教育関係事業の支援▼国際ネットワーク形成・基盤強化▼国際危機管理の4つがミッションだというのだが、具体的にどういうことなのか。謎に包まれた海外拠点の実態を明らかにすべく、編集員はバンコクへ飛んだ。(涼)

ASEAN拠点はバンコクの中心地・アソークに位置する。オフィスビルが多数存在するエリアで、辺りには飲食店や商業施設も立ち並ぶ。拠点が存在するのはその一角にあるオフィスビルのなか。他にも日本関係の企業・団体が入居しており、日本の大手牛丼チェーンが入る建物も隣接する場所だ。

呼び鈴を押すと出迎えてくれたのは、2019年から駐在する縄田栄治所長。自身のタイとの繋がりや拠点の活動内容を教えてくれた。

教員としてタイへ


――縄田所長とタイとの出会いは。

1981年、農学部に創設された熱帯農学講座の助手になりました。それから2年後、JICAのプロジェクトでタイに来たのが始まりです。当時、タイの大学教員には研究の義務がなく、研究に弱いという課題がありました。そこで農学分野の専門家として、カセサート大学の研究力を上げるためのプロジェクトに1年間派遣されたのです。

そのときはバンコクから80㌔近く西に行ったところにあるキャンパスで過ごしました。タイ語を教えてくれるところもなかったので、テープと教科書で語学の勉強をしていましたね。

1年もいると多少のネットワークができたので、以後のフィールドワークはタイが中心になったというわけです。

――タイにはどれくらいの頻度で。

1回が長いときだと年に1、2回だったんですが、国際交流プログラムに関与するようになってからは2、3日ですぐに帰ることも増えてきて。年に10回以上来るようなこともありました。

――所長として赴任された経緯は。

5年前に農学研究科の教員を定年退職したのですが、その1年前から所長をやっています。最初の1年間は現役だったので出張ベースで、ひと月に1回、1週間いるような形でした。授業もあるし、なかなか制限つきでしたけどね。

定年以降の2年目はこちらに常駐しています。逆に日本へは1年で1、2回帰るような形ですね。

――ASEAN拠点とはずばり。

京大の海外拠点には、大学全体で管理している拠点と各部局が設置している拠点があるのですが、ASEAN拠点は、3つある全学拠点(タイ・バンコク、ドイツ・ハイデルベルク、米国・ワシントンD.C.)の1つです。ここは6人体制かつ所長が常駐しているという、圧倒的に大きな拠点ですね。

――内訳は。

常駐は日本人が3人、タイ人が1人で4人。それと、研究を支援するURA(University Research Administrator)が2人います。URAは常駐はせず、なにかイベントがあったときに来ることになります。

――拠点が設けられた経緯は。

京大の海外拠点は、実は部局管理のものを含めると非常に数多くあります。東南アジアだけで数十箇所ありますからね。ただ、特定のプロジェクトベースのところも多いので、ある期間が過ぎると休眠状態になったり、廃止したりすることも多いんです。大学全体で教職員の海外における活動を支援する必要があったというのがまず1点です。国際交流はどうしても熱心な教職員が主導しがちなのですが、その人が退職や異動をすると、交流もパタッと止まってしまうことがけっこうあるんですね。これは世界中の大学が同じ悩みを抱えているところです。個人のネットワークを組織ベースにすることで、安定した共同関係が築けるようにするねらいがありました。

また、日本からの地理的な近さもあり、東南アジアを対象にした研究や学生交流が増えてきたことも要因の1つです。必ずしも地域事情に詳しくない人が東南アジアで活動することも増えました。なにか問題が起こったときに対応できるようにする必要があるのです。

もう1つ、実際に一番時間を使っているのは、留学生のリクルートです。いま京大には学部の国際コースが2つあります。工学部地球工学科国際コースと、国際高等教育院が統括するKyoto iUPです。iUPは4年半のコースで、入学前の半年に日本語の事前教育を行います。最初の2年間は教養や専門の授業を英語で受けつつ、並行して日本語の勉強もすると。3年次以降には各学部で日本人学生と一緒に日本語の授業を受けられるようになるというのが目標です。で、実はこのiUPの最重点リクルート地域が東南アジアなんですよ。

京大の国際化に向けて


――東南アジアからの留学生の規模は。

京大全体では現在、留学生が3千人ほどいるのですが、このうち半分強が中国からの留学生です。東南アジアからの留学生は合わせて1割強かと思います。だから1学年で平均して5、60人くらいですね。

部局としてはやはり工学部(研究科)、農学部(研究科)が多いのですが、文系もそこそこの数います。

――タイでの京大の知名度は。

年齢が上の知識層では非常にありますね。日本で学位を取った人もそこそこの数がいるし、京大といえば敬意は示してくれます。ただ、若い人にとってどれくらいかは正直わからないです。まあ、よっぽど留学に興味がある一部の学生を除いて、海外の大学なんてケンブリッジとかオックスフォード、ハーバードくらいなものなんじゃないでしょうか。

――リクルートのためにはまず日本に 興味を持ってもらうところから。

アニメなどの影響もあり、日本に興味を持つ学生はすごく多いんですよ。まったく日本に興味がない人にアプローチするよりも、日本ファンのなかの優秀な人たちに日本へ来てもらうというのが、1つのリクルート戦略です。

――リクルートの具体的な活動は。

現地の色々な高校を訪問したり、留学フェアに参加したりするのがメインです。ただ、他の日本の大学との競合もあります。コンピュータサイエンス分野を学びたいという学生が多いのですが、学生の行きたい大学のなかになかなか京大の名前が挙がらないんですよ……。一番挙がりやすいのは東京科学大と東京大です。

やっぱり、若い人にとって日本といえば東京なんですよ。だから東京の名前が付いている大学は、大学の中身とは関係なくまず頭に浮かぶんだと思います。京都大学を東京大学と言い間違えられることとか、非常に多いですからね。

――日本から東南アジアへの留学支援も行う。

はい。チュラロンコン大学をはじめ4大学とは学生交流協定があり、交換留学が可能です。ポツポツ留学する学生もいます。ただ、京大生はあまり留学に行かないんですよ。1、2回生のときにぜひ行きたいと言っていた学生が、実際にはなかなか留学しないという(笑)。大学として、留学を推進していくために努力してはいるのですが。

――今後の展望は。

東南アジア地域研究研究所やアジア・アフリカ地域研究研究科、農学研究科、地球環境学堂、生態学研究センターなどではASEAN地域との研究交流の長い歴史を持っています。しかし京大は部局ごとの独立性が非常に高いので、やはり個人のネットワークを活かしきれていないのが課題でした。

国際交流において基礎となる個人のネットワークは尊重しつつ、それをうまく組織のものにして発展させるのが一番望ましい形だと思います。外から見るとバラバラでやっているようにも見えると思うのですが、一歩ずつ大学の国際化を進めていければいいですね。

――最後に余談ですが、タイを訪れる読者へお勧めの料理があれば。

プーパラー(魚のなれずし)の入ったソムタム(パパイヤのサラダ)を1回は経験してみては。かなり匂いが強いかわりに旨味もものすごく強いんですよ。あとは鶏を焼いた定番料理のガイヤーンですね。この2つは、イーサーン(タイ東北部)の料理です。

タイには高級料理店もたくさんありますが、学生が旅行に行く際にお金を使うことはないと思います。ストリートフードを食べたらいいですよ、お腹は壊すかもしれないけど(笑)。ショッピングセンターのなかにフードコートがあるので、そこで食べるのがいいです。人がよく並んでるところはきっとそこそこ美味しいですよ。〈了〉

人気牛丼チェーン店が隣接する



旅行好きに有名なカオサン通りから拠点まではタクシーで20分ほど