インタビュー

大森静佳 京大短歌代表 「瞬間を切り取り、時間のふくらみを詠む」

2010.10.04

短歌界で最も権威ある新人賞の一つである「角川短歌賞」を、文学部2回生の大森静佳さんが受賞した。今年で56回を数える同賞において、現役の大学生での受賞は快挙である。あらゆる芸術を取り巻く状況が変わりゆく昨今、短歌と言う一形式で表現の可能性に挑み続ける彼女に受賞についての思いや短歌に向ける眼差しを語ってもらった。(如)

―まず初めに、「第56回角川短歌賞」受賞、おめでとうございます。この賞を受賞されてのご感想をお聞かせください。この賞は、かつて俵万智さんなどが受賞しており、歌壇では最も権威のある新人賞のひとつとして高い評価を受けている、とも言われています。

正直、受賞するとは思ってもいませんでした。京大短歌の活動の中でも普段からこのような新人賞を区切りとして30首から50首を連作していましたが、今回の受賞をきっかけに大勢の人に見られることを考えるともう少しいいものを作ればよかったなという思いがあります。嬉しさよりも悔しさの方が強いですね。ちなみに受賞の電話を頂いたのは早稲田大学の短歌会との合同合宿の最中で、何かの縁を感じています。

―大森さんは、どのようなきっかけで短歌を詠まれるようになったのでしょうか。

高校2年の時に、毎日新聞に掲載されている「毎日歌壇」に投稿するようになったのがきっかけです。高校3年の時に毎日歌壇賞を受賞しました。その時に選者の一人である加藤治郎さんから京大短歌の存在を知り、入学後は迷わず京大短歌の門を叩きました。

―影響を受けた歌人などはいらっしゃいますか。また、ご自身の作風などがあれば教えていただけますか。

「塔」の吉川宏志さんや、京大短歌の先輩である永田和宏さんなどです。作風という点では相聞歌を主に詠むことが多いです。

―大森さんは「京大短歌」の代表とのですが、どのような活動をされているのでしょう。

メインの活動としては歌会が挙げられます。毎月2回、京大サロンに5人から8人ほどが集まり、自作の歌を持ち寄ります。その際に名前を伏せた状態で発表していきます。名前そのものを伏せることで詠み手の先入観に捉われず、純粋に歌を味わいます。京都の歌人の方をゲストに招いて、その折には学生だけの歌会の時とは違った刺激を頂いております。

歌会の他には、研究会、夏の合宿や会員誌である「京大短歌」の発行などがあります。月1回の研究会は主に歌集の勉強を目的としており、各回でテーマを決めて担当者がレジュメを持ち回りで作成してくるという形式です。また、合宿では、連作批評会や歌合、勉強会の他には吟行を行っています。吟行とは歌の題材を求めて名所や旧跡へ足を運ぶことです。今年は嵐山を訪れ、何時間か観光を楽しむ間に歌を作りました。会員誌には一人当たり15首を投稿し、本人による解説やエッセイを掲載しています。

―「京大短歌」の他に、短歌結社である「塔短歌会」にも所属しておられますが、そこではやはり大学の集まりとは違った雰囲気などがあるのでしょうか。

「塔」では月1回の歌会があります。学生とは違った幅広い年代の方と「読み」の感覚を共有することで視野の拡がりが見えてきます。70年や90年と生きておられる方の歌からは、実生活や年月が歌集の中に記録されていて、その人の人生が見えると感じます。また、年に一度の全国大会があり、今年は愛媛の松山で歌会や講演が行われました。

―最後になりましたが、あらゆる芸術の中でも短歌が持つ魅力とはどのようなものだとお考えですか。また、読者にメッセージなどがあればお願いします。

短歌や俳句は短いとよく言われます。ただ、短いから言い尽くせないのではなく、短いからこそ三十一文字以上の思いが込められていることを感じてもらいたいと願っています。余白の部分を味わってもらえると嬉しいですね。新しく大学から短歌を始める人はあまり多くないので、京大短歌も人数が少ないという現状があります。興味を持った方はご連絡をいただけると幸いです。

―ありがとうございました。

【補足】

角川短歌賞…1955年に角川書店によって新設された短歌賞。歌壇における新たな才能を発掘するのを目的として、短歌を志す若手の登竜門となっている。募集作品は未発表の短歌50首。その中から30篇前後の候補作品を無記名のプリント刷りとし、4名の選考委員が合議の上受賞作品を決定する。発表は、「短歌」平成22年11月号(10月25日発売)誌上で行われる。贈呈式は来年1月。

《本紙に写真掲載》


おおもり・しずか 文学部2回生。短歌グループ「京大短歌」、「塔短歌会」所属。「硝子の駒」で第56回角川短歌賞を受賞。授賞式は来年1月に行われる。

京大短歌ホームページ
http://www.kyoudai-tanka.com/