〈インタビュー〉マダガスカルで爬虫類研究 理学研博士後期課程 福山亮部さん
2025.04.16

福山亮部(ふくやま・りょうぶ)
2016年京都大学農学部森林科学科に入学。2020年より理学研究科生物科学専攻動物行動学研究室にて学び、現在博士後期課程。専門は爬虫類の生態学・行動学。2024年に「日本ヘビ類大全」を共著。
2016年京都大学農学部森林科学科に入学。2020年より理学研究科生物科学専攻動物行動学研究室にて学び、現在博士後期課程。専門は爬虫類の生態学・行動学。2024年に「日本ヘビ類大全」を共著。
目次
トカゲの果実食と種子散布非日常が日常
渡航の栞
期待しすぎないこと
トカゲの果実食と種子散布
――どのような研究をしているか。
爬虫類の生態学や行動学、特に爬虫類の食べ物や、生態系での役割を調査しています。具体的には、アフリカの南東部にある島国・マダガスカルでトカゲの果実食と種子散布の研究をしています。
マダガスカルにはアフリカ大陸にいるような大型の哺乳類は生息しておらず、爬虫類の種類が多いです。爬虫類は鳥類や哺乳類に代わり、果実を食べて移動先で種を含む糞を排泄することで種子散布を行っている可能性があります。そこで、トカゲが食べる果実の量や移動距離を調べ、マダガスカルの森林の植生維持に対するトカゲの貢献度を検証しています。
――現在の研究に至る経緯は。
学部2回生の時に東南アジアにあるボルネオ島でのスタディーツアーに参加し、爬虫・両生類の研究者に同行して調査方法を学びました。現地では魚を調査したのですが上手くいかず、魚より爬虫類に興味があると気付きました。また、日本と比べて爬虫類や両生類の種数が多い海外の熱帯林での研究に憧れを持ちました。
学部4回生の時には農学部森林科学科の研究室に所属し、マダガスカルでの植物の調査に参加しました。調査の中で、現地のトカゲが昆虫だけでなく果実も食べることを知りました。ただマダガスカルにおける動物の種子散布の文献を見ても、重要性が言及されていませんでした。そこで、植物の研究室で得た知識ともともと興味のある爬虫類を組み合わせた研究をすれば面白いんじゃないか、と思ったのが今の研究のきっかけですね。修士では爬虫類をより詳しく学べる理学研究科の研究室に進み、本格的に種子散布の研究を始めようと思っていましたが、コロナで海外に行けず2年間中断しました。その間に研究計画を練り、博士後期課程からマダガスカルでの研究を再開し、現在まで続けています。
――マダガスカルではどのような調査を。
トカゲがどの果実をどれくらい食べているか、また糞に含まれた種は発芽するのか調査をしました。トカゲはメインの食べ物が昆虫なので、1個体をずっと観察しても、果実を食べる様子を見る頻度は少ない。その代わりトカゲは数が多く捕まえやすいので、数をたくさん集めたり、一時的に捕まえて飼育したりして果実食を調査しました。
――トカゲが排泄した種子が発芽するか実験した。
調査の結果、捕まえたトカゲの4匹に1匹くらいは糞に種が含まれていました。これを森の中で採集した果実の種と比べ、種類を調べました。糞の種をプランターに蒔いて発芽するかを調べ、実際に一部が発芽することを確認しました。
――トカゲや糞の位置をどう確かめたか。小さくて難しいように思える。
トカゲが一日にする糞は数が少ない上に、じっと観察すると警戒されます。警戒すると体を軽くするためか、本来しない位置に糞をすることもあります。そこで、植物の種と同じくらいの小さな電波発信機をトカゲに飲ませて、すぐに逃がしました。糞と共に排出された発信機の位置を、電波を頼りに特定しました。
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非日常が日常
――海外での研究で楽しかったことは。
見るものすべてが真新しかったです。朝になると鳥の鳴く声で目が覚めて、テントを出るとキツネザルがすぐそこを歩いている。調査対象のカメレオンやブキオトカゲも歩いている。自分の研究に集中できる環境にあります。一生続けるのは大変ですが、学生時代に数年間そういった生活をするのはいい経験になると思いました。
――海外で研究することの苦労は。
調査許可を取ることが一番大変です。日本でも国立公園では調査許可を取らないといけません。ただ、海外ではさらに厳しい規則がある場合も少なくありません。マダガスカルの場合外国人だけで調査許可を取得するのは不可能なため、現地の研究者に協力を仰ぐ必要があります。調査許可を取得してもらう対価として、現地の学生の研究指導も実施しました。現地の調査でもう一つ苦労したのは言語のハードルです。英語が苦手な学生だと、コミュニケーションも大変です。郊外では基本的にマダガスカル語しか通じないので、調査アシスタントとはマダガスカル語でやり取りしました。調査アシスタントに集合時間が正確に伝わらなかったり、齟齬があって無断欠勤されたこともありました。
マダガスカル語は、日本のJICA(独立行政法人国際協力機構)のテキストを使って勉強しました。最低限テキストで勉強して、後は話しながら覚えていきました。
――他に苦労したことは。
マダガスカルでは移動も大変です。国内の道路の舗装が不十分で、スピードが出にくい。移動に12時間かかることもありました。
食中毒も大変でした。生活拠点としていた国立公園のキャンプサイトでは井戸水をフィルターでろ過して飲んでいましたが、ろ過槽の掃除が不十分だと雑菌が残ることもあります。食中毒で高熱を出して寝込んでも、エアコンも扇風機もないテントで暮らしていたので、回復に時間がかかりました。一度体調を崩すとその後の生活に響くので、体調管理が難しかったです。
当初は、到着後すぐに体調を崩して徐々に回復することが多かったです。最近では、身体も慣れてきたのか非常に健康的に過ごせています。
――現地の人との関わりは。
現地の人々との交流は大切です。ただ、同じ場所で長期滞在する都合上、深すぎる関わりは持たないように心がけていました。全員がいい人とは限らないので、自分が話したことをもとに盗難されるなどのリスクがあります。お金が絡まないことで手助けし合う事はありました。
――マダガスカルでの食事は。
マダガスカルの食事は悪くありませんでした。主食はコメで、豊富な農作物の味を生かした素朴な料理を食べていました。ただ、水洗いをした野菜などは食中毒の原因となることがあり、調査に注力したい時にはサラダなどの生ものを避けていました。昼は他の日本人研究者や現地アシスタントたちと共同で食べていました。近くの村人を料理人として雇い、昼ご飯を作ってもらっていました。キャッサバの葉を細かく砕いて、肉と一緒に煮込んだラビトゥトゥという現地のご当地料理が美味しく、何度か作ってほしいとリクエストしました。
晩ご飯は国立公園のレストランで食べていました。
マダガスカルに滞在した3ヶ月の間、日本の味が恋しくなることもあるので、グミや出汁のもとなど、かさばらないものを持参しました。朝ごはんは自分たちで作るので、お粥に出汁を入れるなどして気分転換していました。
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渡航の栞
――研究費や生活費はどのように工面したか。
基本的に助成金を利用しています。学部時代は、京大が海外での調査を支援する「学生海外研究活動助成金」を利用しました。マダガスカルでの生活費と研究費は、日本学術振興会の学振という助成金をあてていました。
助成金の取得については、自分の目的に合った助成金を探す、情報収集が最も大切です。要項をきちんと読んで、求めている支援内容に合わせて申請書を書くことを心がけています。また、学会や調査への参加に加えて、現地の大学に訪問して交流したり、プレゼンテーションを行ったりして、渡航先の相手のためにもなるという事もアピールしていました。
――円安や物価高の影響は。
渡航費が最も影響を受けました。初めて行った2019年と比べて、現在のマダガスカルへの航空券代は倍になり、往復で30万円ほどかかります。円安については、マダガスカルの現地通貨であるアリアリも、ドルやユーロに対して通貨安を起こしていたので、 日本円とアリアリのレートはそこまで変わりませんでした。ただ、石油価格が高騰していたので現地でレンタカーを借りるときにその価格が以前の1・5倍になりました。カナダから輸入している研究道具もかなり値上がりしました。
――限られた期間で研究を進めるとなると、運に左右される要素がある。
そうですね。例えば自分の調査では、雨期に入り木々が果実をつけている必要があります。去年は9月から12月に渡航しましたが、まともに雨が降り始めたのが11月初旬で、結局1か月半くらいメインの調査ができなかったこともありましたね。そういう時は「しょうがないな」と思って、気温38度の中、論文を書きながら雨が降るのを待ちました。
――マダガスカルでの滞在を振り返って。
頑張りすぎると体調を崩すので、頑張りすぎないことを全体のテーマにしていました。テーマを守りつつ、やりたい事を一通り達成できたので、満足しています。
滞在が長いとキャパオーバーになりますね。直近の滞在は1ヶ月半だったので無理して調査をしましたが、3ヶ月は続けられないなと感じました。
やってよかったことは、調査地の爬虫・両生類を一通り白背景の写真に撮って、ポスターを作ったことです。ポスターは換金性はないけどもらったら嬉しいものとして、現地の国立公園や環境省、大学に配りました。ただ研究するだけじゃなくて、現地で使ってもらえるものを形として作れたのが良い事かなと思います。
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期待しすぎないこと
――今後どのような研究を進めていくか。
フィールドをベースに据えた爬虫類の専門家を目指していきたいです。環境の変化などにより、野外で身近なところにいる種が、ここ数十年で相当数を減らしています。フィールドにこれからも足しげく通って、身近な種の変化を観察し、その変化に対応できるような研究を続けていきたいです。
――海外での研究を目指す方に一言。
期待しすぎないことですね。トラブルは絶対起きるし、思い通りに行かないことばかりなので、いちいち憤ったりせず、先を見据えて研究するくらいが上手くいくと思います。
――ありがとうございました。