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【京大新聞100周年特別企画】桂バス紀行 系統足して100の旅

2025.04.01

【京大新聞100周年特別企画】桂バス紀行 系統足して100の旅
今年も春がやって来た。京大生の中には、吉田キャンパスを離れ、桂キャンパスで新学期を送る人も多いことと思う。

ここでは、桂にある5つの観光スポットを紹介する。どれも百万遍からバスに乗って行くことのできる場所であるから、桂キャンパスにいる学生はもちろん、吉田キャンパスで過ごす学生も、時間に余裕のあるときに、ぜひ訪れてほしい。

なお、本紙が今年創刊100年を迎えることを記念し、当企画で編集員が利用したバスの系統番号の合計が、100になるようにしている。(編集部)


京大(吉田・桂キャンパス)周辺の地図(編集部で作成)

今回の企画で利用したバス
①松尾大社 7→23→29
②洛西ニュータウン 7→33
③桂坂野鳥遊園 7→23→西5
④物集女車塚古墳 7→33→西3
⑤桂離宮 7→33
バス番号の合計:7+23+29+33+5+3=100

目次

①松尾大社
②洛西ニュータウン
③桂坂野鳥遊園
④物集女車塚古墳
⑤桂離宮


①松尾大社


松尾大社の本殿。その特異な形状から「松尾造り」と呼ばれる



四条通といえば、京都の主要な通りの1つだ。京都市を東西に貫く四条通の東端は八坂神社だが、西端にあるのが松尾大社である。京大吉田キャンパスからは市バス3号系統を用いれば40分間乗り換えることなく行けるが、本企画では7号系統で京都駅に行き、23号系統、29号系統を乗り継いで松尾大社に赴く。

松尾大社は8世紀初頭に創建された「京都最古」の神社。渡来人系の秦氏一族が氏神として信仰した。戦前には八坂神社や伏見稲荷大社などと官幣大社に列せられた、京都でも有数の規模を誇る神社だ。境内の南西に広がる庭園・松風苑は、昭和を代表する作庭家・重森三玲の遺作である。重森は他に東福寺などの庭園も手がけたが、京大吉田キャンパス近隣にある社屋の庭園も設計し、そこに住んだ。庭園を含む旧宅は、今でも重森三玲庭園美術館として遺る。

境内の奥には「亀の井」と呼ばれる井戸がある。亀の石像が鎮座しており、口から湧き水が流れる。この水を酒に混ぜると腐敗しない、という伝説があり、秦氏が酒を日本に伝えた歴史と相まって、松尾大社が醸酒業界で信仰される所以となっている。昨年末に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録された。日本の酒造技術に注目が集まる中、松尾大社を含む京都の酒造にも改めて注目したい。

4月には山吹まつりが催され、約3千株の山吹を鑑賞できる。山吹と湧水。「山吹の/立ちよそひたる/山清水/汲みに行かめど/道の知らなく」は万葉集に掲載された哀歌だ。山吹の花と湧水の泉は、黄泉の国を暗示しているとも言われている。太古の悲哀に思いを馳せて松尾大社を巡りたい。 (燕)

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②洛西ニュータウン


ニュータウンの一区画「洛西新林団地」は30号棟まで存在する



京都駅から市バス33号系統に乗車し、ちょうど1時間。洛西ニュータウンは丘陵地を切り開いた場所にあり、関西でも有数の規模を誇るニュータウンだ。バスターミナル直結の商業施設「ラクセーヌ」は百貨店やホームセンターなどが入居しており、ほとんどの買い物はここで完結する。野外ではキッチンカーが出店し、バンドによる演奏も行われ、盛況を呈していた。

バスターミナルから街に出る。街の中の道路は概ね片側2車線で、歩道の幅も広く歩きやすい。取材時、等間隔に植えられた街路樹は落葉していたが、もう少しすれば青々とした葉をつけ、無機質な建築群の中でさぞ美しく映えることだろう。広々とした公園では家族連れの姿が多く、竹林で有名な洛西らしく、市街地の中で竹林が保護されている様子もみられた。無機質な建物群の中に可能な限り自然を取り入れようとした、デベロッパーの工夫が感じられる。

とはいえ、洛西ニュータウンの弱点は交通インフラの貧弱さにある。多摩(東京)や千里(大阪)などと異なり、洛西ニュータウンは街と都心部とを1本で結ぶ交通手段がバスに限られる。速達性の高い鉄道で都心部へ出るのにも、まずバスで駅へ向かう必要がある。市営地下鉄東西線は洛西ニュータウンを経由してJR長岡京駅へ至る計画だったが、市の財政難により太秦天神川駅止まりとなっている。急速な少子高齢化は昭和期に整備されたニュータウンで相次いで問題化しているが、居住環境を改善して難局を乗り越えるため、定時性の低いバスに代わる、鉄道などの安定的な交通手段をニュータウン内に整備することが依然求められているといえよう。(晴)

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③桂坂野鳥遊園


観鳥楼から臨むバードサンクチュアリ



京都駅からバスに揺られること1時間。京大の桂キャンパスを抜けると、閑静な住宅街の奥に、緑が広がる。「桂坂野鳥遊園」は、桂坂の山裾に位置する公園で、四季折々の自然とそこに集まる野鳥の観察を楽しむことができる。

園内の中心に位置する「バードサンクチュアリ」は、野鳥の暮らしを守るために一般の立ち入りはできない。ただし、隣接する「観鳥楼」から観察することができ、無料で双眼鏡や望遠鏡を使用することもできる。取材当日は日曜日であったが人は少なく、静かな空間でアオサギが獲物を狙う姿を楽しむことができた。時間の制約で筆者は回ることはできなかったが、裏山の展望台からは京都市内を一望できるという。

京都では最高気温が20度を超えた3月の中旬。隣接する小学校からは少年野球の声が聞こえるなか、春の訪れをしっかりと感じることができた1日だった。最寄り駅はなくアクセスがいいとは言えないが、バスを使えば桂駅や京都駅から1本でいくことができる。春の行楽の目的地に加えてみてはいかがだろうか。 (省)

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④物集女車塚古墳


西から見た古墳。左奥が前方部、右手前が後円部



吉田キャンパスから市バス7号系統、33号系統、西3号系統を乗り継ぎ、南福西町二丁目のバス停から歩くこと20分。住宅街を縫う小道を抜けた先、ふいに小高い緑の丘が現れる。

物集女車塚古墳は、古墳時代後期(6世紀中頃)に築造された墳丘長46㍍の前方後円墳。「車塚」という名称は、この古墳に淳和天皇の霊柩車が埋納されたとする地元の伝承に由来するという。

南側の階段を上ると、後円部の内部へつながる厳重な扉が見える。その向こうには石棺を納める玄室と、玄室への通路である羨道がある。玄室と羨道からなる石室は「横穴式石室」と呼ばれ、古墳時代後期に日本各地に広がったとされる。石棺から金銅製の冠や装飾品である三輪玉といった副葬品が出土したことなどから、この古墳には継体天皇と関わりの深い人物が埋葬されたと推測されている。

晴れた日の朝、敷地内のベンチに腰掛け古墳を眺めていると、はるか昔の営みの跡がこうして現代にひっそりと息づいていることに静かな感動を覚えた。例年5月末に行われる石室の一般公開にもぜひ訪れてみたい。(鷲)

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⑤桂離宮


書院横には梅の花が咲いていた



百万遍から市バス7号系統に乗って京都駅に向かい、駅からは市バス33号系統に乗って桂離宮前で下車。桂川に沿った狭い歩道を6分ほど進むと、桂離宮が見えてくる。

桂離宮は後陽成天皇の弟であった八条宮初代智仁親王のもと、宮家の別荘として1615年頃より創建された。大海原を模した池のある回遊式庭園と4軒の茶亭、書院などから構成される。

書院は参観者用出入口を通ってすぐ右手にある。屋根には数寄屋風を代表する杮葺きが使われていて、その建築様式は数寄屋風書院造と呼ばれる。書院は4つの部分に分かれており、東から順に、池に面して月見台が設けられた古書院、狩野三兄弟が襖や壁張付に墨絵を描いた中書院に楽器の間、天下の三棚の一つに数えられる違い棚「桂棚」を有する新御殿となっている。創建以来変わらぬ姿を伝える書院に見所は多いのだが、その周囲に植えられた桜や梅、椿にも忘れずに注目したい。3月には、白と茶を基調とする書院の手前で、梅が鮮やかな赤紫色の花を咲かせている。

庭園を散策すると、池に突き出た形で扁平な石が敷き詰められた箇所が見つかる。ここは洲浜。先端に配置された石灯篭は岬の灯台を模し、その先にある中島と石橋の繋がりは天橋立を再現しているという。中島には一本の立派な松が生えている。天橋立を背景に、青々とした松の葉が澄んだ水面に写る光景は特に美しく、歩きを止めて見入ってしまうほどだ。

桂離宮を訪れるには、事前にオンライン上で、または当日に現地でツアーの予約が必要。参観料は18歳以上が千円。中高生と障がいのある方及び付添人1名は無料。(郷)

洲浜から眺める天橋立



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