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寄附者が命名する「冠教授」 創設 運用益から研究費、手当を支給

2025.04.16

寄附者が命名する「冠教授」 創設 運用益から研究費、手当を支給
京大は4月、企業や財団などが京大に寄附を行うことで、希望する企業名や人名などを冠する役職を設置できる「冠教授」制度を創設した。冠教授の職につく教員は、寄附金を原資とした投資の運用益から、研究費や手当を受け取る。大学の主体性を確保するため、冠教授の人選は寄附の趣旨にもとづき役員会で行う。人選や研究内容について、寄附者が関与することは認めない。

京大は3月、「寄附金の運用益を活用した冠教授に関する規程」を制定。4月1日に同規程を施行し、寄附の受付を開始した。制度の目的として、京大は本紙の取材に▼国際競争力の向上▼教育研究活動の活性化▼新たな財源確保▼「国際的に卓越した教育研究の業績」を有する研究者の顕彰――をあげた。

冠教授の任命に至る流れは次の通り。寄附者は申し込みに際し、役職に付けたい名称を総長に申し出る。総⻑および役員会は、申し込みを受けて、新たな冠教授の枠を設置する。総⻑・理事・副学長または部局⻑が、寄附の趣旨に応じて候補者を推薦し、役員会において冠教授に任命される教員を決定する。

規程では、京大や冠教授の「主体性が確保されるよう十分配慮」すると定めている。京大は、研究が「寄附者の意向に縛られる」と、京大の研究の主体性や社会的信頼が損なわれる、との認識を示したうえで、寄附条件が「過度に教育研究への介入を求める内容」であれば寄附を受け入れないなどの措置を講じると説明した。

また、冠教授の人選について、京大は、寄附の条件として特定の教員の任命を求めることはできず、寄附者の関与を認めていないとしている。また、冠教授の職につくことを望まないものが任命されることのないよう、候補者の推薦に先立ち、当事者の意向を確認するという。

寄附金の運用について、京大は本紙の取材に、財務責任を負う事務本部CFOオフィスによる自家運用と、外部知見による委託運用が想定され、どちらの運用にするかは「寄附額等によって決定する」とした。

京大によると、16日現在、冠教授の設置を目的とする寄附の申し込みはないが、申し込みを検討しているものがいるという。今後は、総合研究推進本部や成⻑戦略本部といった担当部局が、対外的な周知や募金活動を進める見通しだ。

なお、寄附金を研究費にあてる仕組みとして、京大にはすでに「寄附講座・寄附研究」の制度が存在する。同制度において寄附金を活用する2名以上からなる組織を設置し、寄附⾦そのものを使用して運営する必要がある。これに対し、「冠教授」制度では、組織の新設は不要で、寄附の運用益から拠出する予算を、研究者個人の手当や研究費にあてる。京大は、組織の設置年限や寄附額の制約をうけず「継続性が高い」ことなどを、制度のメリットとしてあげている。

編集員の視点


任命にいたる人選の手続きは、総長・理事からなる役員会の裁量が大きい印象だ。制度が研究者個人に対するインセンティブを伴うこと、研究費・手当の継続的な支給が可能なことから、任命による利益は長期に及ぶ。分野や業績の近い研究者の間で、冠教授に任命されるか否かが、格差に直結する場合も想定される。人選が不透明だったり、恣意的に映る余地があったりすると、制度の不公平感をもたらす恐れがある。冠教授の推薦や決定には、恣意性を排除する規律はもちろん、人選の過程について十分な透明性が求められるだろう。