挑戦と独創の世界 ニンテンドーミュージアム大解剖
2025.03.16

展示棟入口。任天堂のキャラクターが勢揃い
目次
対決! 花合わせ桜に幕、紅葉に鹿
マイバーガーの顛末
語り手は私たち
体験! 独創精神
ささやかな遊び心
あとがき
対決! 花合わせ
開館時間の午前10時、最寄りの近鉄小倉駅に到着。東へ5分ほど歩くと、白を基調としたミュージアムの建物が見えてくる。自社工場を改装したとあって、やや無機質な見た目だ。手荷物検査と本人確認を経て、いざ入場。ミュージアムは製品の展示、体験展示、花札の制作・遊戯体験などのエリアに分かれている。筆者たちはまず、花札遊びを体験した。任天堂のルーツは、1889年に花札の製造を京都で開始したことにある。電子ゲーム業界に参入したのは1977年と、創業から90年近く後のことなのだ。
同行した(雲)と共に、2人1組の座布団に腰を落ち着けると、ルール説明の映像が流れた。今回のルールは「花合わせ」。手札とペアにできる場札を取っていき、ペアごとに決められた得点を加算していく。最終的な持ち点が大きい方が勝者となる。
筆者はこれまで、花札に全く触れてこなかった。「古風な遊び」というイメージがあったし、かるたや百人一首と違い、ルールが複雑な印象もあったからだ。うまくできるのか、と不安を抱えたまま札を場に並べていく。すると場の上で、手札とペアにできる場札が線で結ばれ、音声ガイドも流れ始めた。天井のカメラと投影機が、置かれた札を認識してガイドしてくれるのだ。札を取り切ると、得点を計算して勝敗まで教えてくれる。画期的かつ近未来的な演出に、筆者たちは大興奮。抜きつ抜かれつの得点競争の末、小学生のように勝敗に一喜一憂した。あっという間の30分だった。
花札という歴史ある遊戯と、画像認識やプロジェクションという最新技術の見事な融合。常に時代を切り開いてきた任天堂の進取の気概が、この体験にも色濃く表れていた。
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桜に幕、紅葉に鹿
向かいの会場で、今度は花札作りを体験する。全48枚の花札は月ごとに花が割り振られていて、体験ではひと月分、計4枚を制作できる。筆者は誕生月にあやかり3月の桜を、(雲)は「きれい」とのことで10月の紅葉を選んだ。
係員の説明を受け、1時間の制作体験が始まった。まずは台紙の上に型紙を重ね、インクを塗っていく。型紙は該当色を塗る部分だけが切り抜かれていて、色が混ざる心配もない。続いて台紙の裏面に紙を貼り付け、余った部分を表へ折り返していくが、四隅を綺麗に整えるのが難しい。悪戦苦闘していると「短辺を先に折り返してみてください」「のりは薄めに塗ってみてくださいね」とのアドバイスが。助言通りにやってみると、確かに角を美しく整えることができた。その後は無心で作業を続け、終了5分前に何とか完成。後になって塗り忘れがあることに気付いたが、作り上げた4枚の札はなかなか様になっていた。花札作りと花札遊びという稀な体験を通じ、花札に対する親近感は大きく増した。「花札に触れてほしい」という任天堂の戦略に、筆者たちは見事にはまってしまった。
なお花札遊びと花札作りは、いずれも現地にて予約と別途費用が必要。花札遊びはチケットに記載の入館時刻から3時間以内に開始する枠のみ予約でき、2人1組での体験となる。
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マイバーガーの顛末
時刻はお昼時の12時30分。体験会場の下にあるカフェ「はてなバーガー」に向かった。このカフェの売りは、自分好みの「オリジナルバーガー」を作れること。バンズは3種類から、メインやトッピングも各々10種類以上から選ぶことができる。
筆者も専用サイトからレシピ作りに挑戦した。表示される具材のイラストがかわいらしい。メインは穏当にビーフパティを選択したが、「奇抜なものを作れ」という悪戯心が首をもたげてくる。誘惑に負けた筆者は、紫芋を混ぜ込んだ赤いバンズを、ソースはわさび醤油を、トッピングはチーズと九条ネギ、そして柴漬けを選んだ。
やや小ぶりなハンバーガーを手に取り、実食。組み合わせがよくなかったのか、わさびソースの風味が前面に出てしまっている。そんな筆者の横で、(雲)は定番メニューのチーズバーガーをにこやかに頬張っている。王道のレシピに頼った方がよかったと、数刻前の邪心を少しばかり後悔した。レシピ作りがピークだった感は否めないものの、挑戦の価値はあろう。皆さんも思い思いのバーガーを作ってみてはいかがだろうか。
オリジナルバーガーを作れる「はてなバーガーセット」は2100円(税込)から、組み合わせる具材によって値段が異なる。それ以外の定番バーガーも、商品により価格が変わる。
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語り手は私たち
昼食を終えたところで、いよいよミュージアムの目玉、製品展示と体験展示のエリアに足を踏み入れる。エスカレーターに乗ると、ゲームボーイやニンテンドーDS、Wiiなど、数々のゲーム機の起動音が流れ、期待が高まる。2階の展示エリアに到着すると、見渡す限りのゲーム機とソフトが出迎えてくれた。
展示エリアの特徴は、展示品に詳細な解説がついていないこと。置かれているのはゲーム機やソフトだけだ。「説明がないのに、どうやって展示を成り立たせるのか?」疑問は周囲を見渡した途端に霧散した。ファミリーコンピュータ(ファミコン)やゲームボーイのブースでは、大人たちが「このゲームやってた」「懐かしい〜」と子供時代に思いを馳せ、思い出を語り合っている。Wii UやNintendo Switchのブースでも「これ知ってる!」と子供たちが声を弾ませる。なるほど、ゲームの歴史を「任天堂が語る」のではなく、「来場者に語ってもらう」わけか。他のミュージアムでは見られない「語り手の転換」が見事に実現されているのは、任天堂のゲームが多くの人の手に渡り、愛されてきた証拠でもあるだろう。ニンテンドー3DS世代の(雲)は「nintendogs+cats」や「妖怪ウォッチ」を見るたびにはしゃぎ、レトロゲームが好きな筆者は「メトロイド」や「F-ZERO」に懐かしさを覚えた。思い出を語り合い、お互いのゲーム遍歴を知るきっかけにもなった。もちろん同年代のグループでも楽しめるが、レトロゲームにも造詣の深い友人・家族と観覧した方が、展示をより深く味わえるかもしれない。きっと彼ら自身の思い出を語ってくれるだろう。
展示品はゲーム機にとどまらない。「挑戦の時代」と銘打たれた一角では、任天堂が電子ゲーム事業へ参入する前に発売してきた製品が展示されている。花札やボードゲームはもちろん、中にはコピー機やベビーカーなど、今の企業イメージとはかけ離れたものもある。こうした事業多角化の過程では失敗もみられたが、そのノウハウが電子ゲームでの成功に繋がったともいえるだろう。花札からゲーム機まで無数の展示品たちが、数々の挑戦に彩られた任天堂135年の歴史を、雄弁に語っている。
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体験! 独創精神
展示エリアの下、1階は体験展示エリアとなっている。8つの体験展示が設置され、それぞれが仕切りや通路で隔てられている構造だ。体験の際は入館証に紐づけられた「コイン」を消費して遊んでいくが、初期所持数は10枚で、追加購入はできない。10コインで全てを遊ぶことはできない点も注意が必要だ。
筆者たちは7つの展示を体験した。2名以上の場合は「ビッグコントローラー」がおすすめだ。通常の10倍はあろうかという巨大なコントローラーを用い、2人1組でゲームをプレイしていく。筆者たちを含め多くの来場者が挑戦したのが、ファミコンの傑作「スーパーマリオブラザーズ」。1人が十字ボタンを、もう1人がA・Bボタンを操作し、ワールド1‐1のクリアに挑む。待機列で他の来場者のプレイを見ていると、どのペアも2人の呼吸が合わず、敵に衝突したり穴に落ちたりと失敗続きだ。筆者たちは土管を通ってショートカットし、1‐1をノーミスクリアしたが、1‐2は敵を避けるのに苦労し時間切れ。想像を上回る難易度だったが、「ジャンプ!!」「止まって止まって!!」と叫び合うのは愉快な体験だった。同行者との協力プレイを楽しみたい人にもおすすめだ。
もうひとつのいち押しは「ザッパー&スコープSP」。1970年代に任天堂が運営していたレジャー施設「レーザークレー射撃場」をモチーフにしたものだ。プレイヤーは光線銃を握り、スクリーンに映るマリオシリーズの敵が描かれた的を撃って得点を稼いでいく。8展示中最多の4コインを消費するとあって、そのクオリティは圧巻。巨大なスクリーンと大音量の音声に囲まれ、まるでマリオの世界にいるかのような没入感が味わえる。体験した(雲)は惜しくも表彰圏から外れ、地団駄を踏んでいた。
他にもバッティングマシーンを体験できる「ウルトラマシンSP」、拡張現実を取り入れた百人一首「しぐれでんSP」など、個性的な体験展示が目白押しだ。その一つひとつに、任天堂が積み上げてきた唯一無二の技術・商品のノウハウが詰まっている。展示エリアが「挑戦」の精神の体現だとすれば、体験エリアは「独創」の精神の体現といえるかもしれない。
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ささやかな遊び心
最後に、館内に仕掛けられた遊び心にも触れておこう。ミュージアムの随所には任天堂のキャラクター・アイテムが隠されている。階段の手すりを上る「エキサイトバイク」のプレイヤー、ハシゴの上のドンキーコング、浮遊する「どうぶつの森」の風船プレゼントなどはほんの一例だ。色とりどりな生物「ピクミン」は、計10か所に隠れているという。来訪された際はコンプリートを目指し、館内をくまなく探してみてはいかがだろうか。
こうして館内を遊び尽くした結果、時刻は閉館時間の18時に。開館から閉館まで1日中見回っていたが、それでも時間が足りないと感じたほど、盛りだくさんの内容だった。退館ゲートを抜けて日常に帰っていく人々の表情も、心なしか明るく見えた。
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あとがき
花札を作っていた一企業が、今や世界のゲーム市場を牽引する大企業にまで成長した。任天堂の成長の原動力は、ブルーオーシャンに果敢に飛び込む挑戦の歴史と、考えもしなかったアイデアから唯一無二の商品を創り出す独創の理念だろう。星野源の『創造』(「スーパーマリオブラザーズ」35周年テーマソング)にも歌われた任天堂の精神を、余すことなく味わえるのがニンテンドーミュージアムだった。何より、最高に楽しい時間だった。
ゲームに愛着がある分だけ楽しめるのは言わずもがなだが、体験展示や花札体験をはじめ、未経験者に配慮したプログラムも多い。ゲーム体験の有無に関わらず楽しめる施設。せわしない日常を離れ、非日常の空間へ束の間没入してみてはいかがだろうか。
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施設情報
【開館時間】10時~18時(4月2日より19時まで)
毎週火曜(祝日の場合は翌水曜)、年末年始は休館。
【入館料】
大人3300円、中高生2200円、小学生1100円(いずれも事前決済)。未就学児は無料。
【アクセス】
宇治市小倉町神楽田56
近鉄京都線「小倉」より東へ徒歩5分、JR奈良線「JR小倉」より北西へ徒歩8分。施設内に駐車場・駐輪場はないので、公共交通機関にて来館されたい。
※注意
・チケットは公式サイトでの事前予約が必要(抽選制)。詳細な手続きは公式サイトに掲載されている。
・花札遊びと花札作りは、いずれも現地での予約が必要。花札遊びは1人500円、花札作りは1人2000円の別料金。花札遊びは入館後3時間以内の枠のみ予約でき、2人1組での体験となる。
・ショップは、1商品につき1人1個まで購入可能。一部商品は在庫切れの可能性がある。