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「西田幾多郎遺墨」デジタル公開 「最大の悲哀」窺う貴重資料

2024.12.01

京大図書館機構は11月13日、西田幾多郎が旧制三高図書館に寄贈した書籍の見返しや標題紙を、京都大学貴重資料デジタルアーカイブに公開したと発表した。公開された書籍は、西田が急逝した長男を悼んで寄贈したもので、長男への哀歌が墨書されている。図書館機構は、これらの資料には西田の哲学の動機としての「最大の悲哀」が表れている、としている。

公開されたのはカントの『純粋理性批判』などの哲学書6冊の見返しや標題紙。各資料には西田が長男・謙に贈った自作の短歌が直筆で書き込まれており、そのうちの3冊には制服姿の謙の写真が貼られている。謙は1898年に西田の長男として誕生したが、旧制第三高等学校在学中の1920年6月に腹膜炎で急逝。西田は同年11月に「為亡兒謙記念(亡児謙の記念と為す)」と墨書した6冊の哲学書を旧制三高図書館に寄贈した。これらの書籍は当初、貴重書ではなく一般図書として所蔵されていたが、西田が哀歌を書き込んだ『純粋理性批判』を林晋・京大名誉教授が発見したことを契機に京大が調査を行い、計6冊の哲学書に西田の墨書が遺っていることが判明した。

林名誉教授は文学部日本哲学史専修が運営する京都学派アーカイブにて、「なぜ、この様な貴重な歴史的書籍が一般貸出可能な書籍のままであったかは不明」と前提した上で、「本来、三高の学生や教官に利用されてこそ、西田の寄贈の意思に沿うものであることは確かだろう」とコメントしている。また、本紙の取材に対し林名誉教授は「西田幾多郎遺墨」を、西田の「人間臭い姿」を如実に示す資料と意義づけ、今回のアーカイブ公開は「現在多くの方がイメージする西田より、遥かに魅力的な彼の真の姿を描き出す一助になると思っています」と期待を述べた。

京大貴重資料デジタルアーカイブは、京大図書館機構が運営するウェブサイトで、学術・文化の発展のために貴重な学術資料が公開されている。国宝や重要文化財を含む2万5千タイトル以上の資料が電子化され、誰でも閲覧できる。