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iGEM京大チーム銀賞獲得 細胞エンジニアリングで世界に挑む

2009.12.20

10月30日から11月2日の3日間に渡りボストンのマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)にて開催されたiGEM2009で、京都大学から出場したiGEM Kyotoが銀賞を受賞した。

iGEMとは(The international Genetically Engineered Machine competition)の略で、合成生物学や遺伝子工学の方法を使って生物に新たな機能をつけ足す実験の成果を競い会う国際大会。特徴として学部生が主体である点が挙げられる。

また参加団体には、新たに作った遺伝子パーツをiGEM共通の規格に合わせて登録することが求められる。毎年新たな遺伝子パーツの情報がiGEM本部に蓄積され、次年度以降参加チームが使えるパーツが増えることになる。更にプレゼン以外に研究成果の細かい部分をWIKI形式でネット上に公開しなければならない他、一般人が合成生物学についてどのようなイメージを持っているのかの調査も求められる。京都大学は昨年から参加し今回が2度目の出場だった。

今年のiGEM Kyotoは4月に理学部の学部生が集まり結成され、夏休みの間実験を重ねた。多くの出場チームが成功可能なものを実験対象にするのに対して、Kyotoは無難なモノでなく独創性を追求することにし「目指すはイグ・ノーベル賞」を掲げた。その為テーマ設定は難航を極めたという。

こうして決まったテーマは二つ「TIME BOME」と「Cells in Cells」である。前者は細胞分裂の回数に依存して自ら死んでしまう細胞を作ることを目指した。後者は細胞を人工的に造ることを目指したのだが、それは余りにも難しすぎるということで、細胞の中で細胞のような機能を持ち共生しているもの、例えばミトコンドリアや葉緑体のような器官を作ろうとしたのだ。いずれももし成功すれば世界的な発見になる野心的なテーマであった。

Kyotoは生命科学研究科やiCeMS(物質=細胞統合システム拠点)の実験室で活動を行なった。学部生が主体であるため、実験に慣れておらず、遺伝子パーツの組み立てに時間を取られたほか、ひたすら顕微鏡を見続ける作業も苦しかったとか。テーマを立てた後、その分野の先行研究に当たるのだが、それが正確であるかを確認する実験が難しかったそう。また議論が思うように進まず、ミーティングで何も決まらない事も多々あったという。

結果として「TIME BOME」は必要な遺伝子のパーツ組み立てまでは成功したものの、実際に当該細胞が働いて機能していることを確認する最終実験で、検証をすることが出来ず時間切れになってしまった。また「Cells in Cells」はリポソンを細胞に入れそれが分裂を開始することを目的とし、リポソンを細胞に入れることまでは成功した。しかしリポソンに細胞質のタンパク質を吸収させる機能を持たせることに失敗、そのまま時間切れになってしまった。

大会での結果は銀賞だったが、初出場だった去年のメダル無しに比べると一定の評価が得られたのでは、とKyotoでは考えている。

大会に参加した志甫谷渉さん(理・2)は「個人的には海外にはこんなにも凄い人がいるんだと実感した。決勝チームはきちんと結果も出せている。あと、日本を始めとしてアジア勢はやはり欧米に比べると英語でのプレゼンが劣っているので、語学の勉強の必要性を身をもって実感した」と感想を語った。

iGEM Kyotoのアドバイザーを務めた生命科学研究科の斉藤助教授は「去年は学生も私も何も知らない状態で、頑張ったが評価されなかった、やはり大会の規定を満たさないとね。傍から見ていても教育効果が高いことなので、こういったことができる環境がうらやましい」同じくアドバイザーの野村慎一郎(iCeMS 特定研究員)は「去年、学生からやりたいという話を聞いたときは『なんだその大会は!?』という感じだったが、彼らのやったことが世界に楔を打ち立てる、そういう場で戦えるというのは非常に良いこと」と話す。

目下iGEM Kyoto一番の課題は資金難だという。今回は実験に約200万円が掛かったが、京都大学にはこうした活動をサポートするシステムが無い、大学からの援助が出る諸外国や、国内でも阪大、東工大が羨ましいそうだ。今回はOBや企業を訪問して資金援助を求めた他、学生のアルバイトや生命科学研究科が渡航費を援助してくれ、ようやく今年は運営が出来たそう。

こうした困難を乗り越えながらiGEM Kyotoは来年も「独創的」研究を見せてくれることだろう。


活動に興味があるという方や、スポンサーになってくれる方はEメールアドレスiGEM.Kyoto<at>gmail.com まで。