〈生協ベストセラー〉 筒井康隆・著『日本以外全部沈没』(角川文庫)(2009.09.16)

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夏休み前だから何か一冊読もうか、と文庫本を手にした学生が多かったのであろうか。今月のルネベストは9割以上が小説で占められている。そんな中わたしがタイトルに引かれて購入してしまったのがこの一冊。最初はタイトルだけでどんな筋書きか大体想像がつく表題作についてレビューする気満々であったのだが、それ以上に印象深かったのが「新宿デー」だ。だからここではこの作品について書くことにする。

舞台はアメリカに黒人女性大統領が誕生し、宇宙空間横断定期便が就航するようになったそう遠くない?未来。米国とソ連が和解するなど地上から争いは無くなり、人民は天下泰平を満喫している。全体的達成感からくるデガダンスの中、退屈に倦みきった社会は、反体制的なものに付きまとう「逸脱生」を求めている。そうした風潮に呼応するかのように毎年10月21日にはかつての新左翼緒党派がかき集められ「新宿デー」という一大アミューズメントイベントが催される。その祭りの狂騒を描いたのが本作である。

なぜこの日が祭りになったのかというと、これは実際にあった事件が由来となっている。今から40年前の1969年10月21日に、ベトナム戦争反戦などを訴える党派の活動家らが新宿駅を舞台に大乱闘を演じ騒乱罪が発動されるまでに至った事件があった。いわゆる「大学紛争」が起こったのも同時期である。当時は少なからぬ学生が世界を変革しようと、キャンパスや街頭を舞台に活動していたのである。作品が執筆されたのは1971年であるから、この学生運動の熱気覚めやらぬころである。

本来ならば権力、特に国家によるそれを最も忌み嫌い、街頭での実力闘争も権力への反乱として行なっていた活動家たちが、警視庁と興行会社の指定したルートをスクラムの隊列を組んで行進し、ゲバ棒を振り回したりシュプレッヒコールを揚げたりする様は滑稽である。おそらく活動家自身も真面目に運動をし続ける意味を感じていないのではないか。

ではこの作中で描かれているのは、「反体制運動」ですら商品として消費され、システムを補完するためのパーツにされてしまう高度資本主義社会の行く末への絶望感…なのであろうか。否、作者は学生活動家たちの運動など「しょせんお祭り」でしょ、というアイロニカルに考えている。現実の世界のほうでも作者の読みどおりこれらの運動は(あさま事件とかがあったにせよ)祭りが終わったかのように急速な衰えを見せてゆく。作品のラストでこだまする「ヤーレンソーラン(ソーラン節と騒乱を掛けている)」のコールがむなしさを誘う。

実際に「闘争」を行なったかつての学生活動家たちはこの作品を読んだらどう思うのだろうか。今でも当時の志そのままに活動を続けている方は怒るだろうが、私は案外作者のまなざしに同意する方が多いような気がしてならない。 (魚)

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