拝見 研究室の本棚 第1回 水野眞理准教授(人間・環境学研究科)(2008.10.01)

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小中学生の時、トールキンや『ナルニア国物語』などを翻訳で読んだことが原体験と語る。文学少女は本に囲まれる職業に就いた。

専門は「近代初期英文学」と紹介されることが多いが、教養部が総合人間学部に再編成されたときに文明論講座に配属になって認識は変わったと言う。同講座の池田浩士教授(当時)らとの出会いがきっかけで、「文学作品」の中で全てを解決しようとする立場から、その裏側/周辺にある「文化」「政治」「生活」さらにはその全てを支える「言葉」と作品や作者との関係へと、文脈的に物事を見る発想へと転換した。「昔から読書が好きだったので、深く考えずに文学を専攻することになりましたが、本当に興味があるのは文学を取り巻く環境、人間が営む社会のシステム全てなんだと次第に分かってきたんです」。

研究室の本棚のラインナップも狭義の「文学」には収まらない本が多い。デスクのほど近く、レファレンス・ブックのコーナーの隣りには、岩波書店「大航海時代叢書」が並ぶ。大航海時代の冒険家や宣教師の航海日記や、彼らが観察した異文化の記録が収録されているシリーズだ。

そのほか、「自慢の一冊」ということで見せてもらった本も、ウォルター・ローリーの『The Historie of the World』(1652年刊。初版は1615年)。聖書に基づく史観に立ち、未完とはいえ、英国で初めて書かれた世界史である。ローリーはエリザベス朝の詩人だが、同時に大航海時代の探検家、軍人、植民地事業家の顔も持つ。「詩人ローリー」だけに注目してその「文学」作品のみを研究対象としていては、彼が生きたイングランドの社会や、当時のイングランド人の世界に対する視線までを読みとくことはできない。

もう一冊は聖職者サミュエル・パーチャスの『巡礼または世界誌・世界宗教誌』(1613年の初版本)。当時の航海記や巡礼、宣教師の報告に基づいて世界の地理、宗教、習俗などを解説している。ローリーは世界を時間軸に沿って、パーチャスは世界を地理的拡がりと多様性に沿って、掴みとろうとした。いずれも英国が精力的に海外進出し始めたころのメンタリティをよく示しているという。

読む本の選び方については研究書の末尾についている「参考文献リストを参考にする」とのこと。読んだ本を起点に世界が広がっていく感覚や、同学の士とのつながりを感じることができるのだそうだ。専門書を扱う書店が減少したこともあって、インターネット通販やカタログを利用しているという。古書のオークションサイトも頻繁に利用し、何百年も前に出版された貴重な本を探し求める。もっとも、高価なものが多いので悔しい思いをすることもあるとか。

研究・教育に必要だと思われる本は公費で、手元に置いておきたい本は私費で購入する。一見当たり前にも思えるのだが、矛盾したあり方だと感じているという。というのも、多くの場合、前者が各種研究報告書・論文集などの二次資料、後者が何百年も前に出版されたような貴重な一次資料であることが多いからだ。一次資料は決して「古く」ならない、だが二次資料は10年、20年先にも必要な本かどうかは定かではない。だから本当は一次資料こそを公費で購入し、大学に残すのがいいことなのだとは思っているという。

仕事を自宅ですることが多く、研究室の本棚は必要なときに必要な本を持ち出す、いわば「書庫」のような利用の仕方になっているという。だがここは大学院生も利用でき、よく本を借りに来る。一冊の本がきっかけになりその場で議論が始まったりして、本棚が新たな思索を生み出す空間を演出してくれるのだそうだ。(秀)

《本紙に写真掲載》

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