中村美知夫 理学研究科准教授「さまざまな『繋がり方』」(2019.07.16)

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毎年春に理学部三回生を対象とした実習を担当している。嵐山にある野猿公園でニホンザルの観察をする、というものだ。ほとんどの学生にとっては、サルをじっくり見る初めての経験である。三日ほど予備観察をした上で、各自で調査するテーマを自由に設定してもらう。

面白いことに、毎年ほぼ例外なく、「毛づくろい(グルーミング)」をテーマに選ぶ学生が現われる。

毛づくろいとは、本来、相手の体表からシラミなどの外部寄生虫を取り除く衛生行動である。手の器用なサルは、両手を使って相手の毛をかき分け、たまに何かを摘みあげる。毛づくろいは、多くの動物で見られるが、霊長類においてはとくに顕著で重要な行動である。

実習に参加する学生が毛づくろいに興味を持つのは、専門家が重要な行動だと言っているからではない。正直、そこまでの専門知識を持って実習に参加しているわけではないからである。また、純粋に「寄生虫除去」に興味を持っているという奇特な(?)学生が毎年現われるとも考えにくい。では、なぜ学生は毛づくろいを面白いテーマだと思うのか―。

人間は根源的に他者との社会的な「繋がり」を求めるものだ。そして、初めてサルを見た人であっても、毛づくろいが彼らにとって重要な「繋がり方」であることを瞬時に見てとるのだろう。おそらく彼らの直観は正しい。

毛づくろいは、いわば「接触型」の繋がり方である。一方私たちヒトは、霊長類の一種であるにも関わらず、現在、日常的に毛づくろいをするわけではない。それでも、サルの毛づくろいが彼らにとって重要な社会的な繋がり方であることを瞬時に見てとることができるのは、接触型の繋がり方がいまだに人間にとっても重要だからなのだろう。実際、小さい子の頭をなでたり、恋人の手を握ったり、私たちは接触することによってまさしく「繋がる」。ときには言葉すら不要であって、そっと手に触れたり、ぎゅっと抱きしめたりすることが、一番確実に親愛の情を伝えることができる。

このように、接触型は今でも有効なのだが、公の場では、私たちはそこまで接触を用いていない。それなりに信頼し合える間柄でないと、接触を用いるのは危険ですらある。「俺は信頼されている」と勘違いした教授が、うっかり女子学生の肩に手を回したりしようものならば、たとえ本人に妙な意図がなくても、大変なことになりかねない。

ではヒトという生き物にとって最も普通の繋がり方は何か。それは「対面型」とでも言えるようなものだろう。接触はしないまでも、相手と直接的に対面して、他愛もないおしゃべりをしたり、一緒に食事をしたりする。そんな人と人との関わり合いは、どんな文化にも普遍的に見られる。対面型の繋がり方で、中心的な媒体は音声(発話)であるように思われる。だが、実際には、対面的なおしゃべりの場面では、視線や表情、身振りといった視覚的情報も交わされている。また、どこまで意識されているかはさておきとして、臭いもまた大切な情報であることが知られている。

技術の進歩によって、私たちは対面しなくても繋がることが可能になった。たとえば、電話は「音声型」の繋がり方と言えるだろう。対面型における音声的なやり取りの部分だけを取り出したものである。私くらいの世代の人間は、まず間違いなく友達や恋人と長電話をした経験を持っているはずだ。対面型のおしゃべりと同様、何か特別に新奇な情報が延々と交換されているわけではない。ただただ、音声と音声を交わすことで繋がりを得るのである。

昨今では、音声型すら廃れてきて、SNSなどを用いたコミュニケーションが中心的になっている。「デジタル型」の繋がり方とでも言えるだろうか。休み時間や電車の中など、暇さえあればスマホを片手に誰かにメッセージを送っている人も多い。「既読スルー」が問題になるのは、相手と「繋がっている感」が絶たれるからだ。

技術の力を借りた音声型やデジタル型の繋がり方では、対面型では当たり前に付随する相手の姿や身振り、臭いなどは伝わらない。デジタル型に至っては、声すらも伝わらない。いつでもどこでも誰とでも「繋がれる」ようになった一方で、私たちは、実際には他者との直接的な付き合いを煩わしく思ったり、苦手に感じたりするようになってきてはいないだろうか。

触感、臭い、ちょっとした表情や素振りの変化、といった、デジタルでは再現しにくい要素もまた、生身の個体同士の繋がりには欠かせない―。サル同士が、直接的に触れ合って、気持ちよさそうに毛づくろいしている様子を見て、多くの人が直感的にそのことに気付くのかもしれない。


中村美知夫(なかむら・みちお 理学研究科准教授。専門は野生チンパンジーの研究)

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