教育と建築から見た吉田寮 「21世紀の京都大学吉田寮を考える」(2016.11.1)

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9月20日、京都大学楽友会館で連続セミナー「21世紀の京都大学吉田寮を考える」の初回が開催された。寮生有志が実行委員会を組織して開いたこのセミナーは、寮自治会と大学当局との老朽化対策交渉が膠着する中、未来に残すべき吉田寮の価値について考えるために、様々な立場の人々と意見を交換し、情報を共有することを目的としている。
今回は、元寮生で近畿大学教職教育部の冨岡勝教授と七灯社建築研究所主宰で吉田寮新棟建設や現棟補修へ向けた活動に携わっている山根芳洋氏が、それぞれ吉田寮の教育的側面と建築的側面について語った。
冨岡氏は、寮が厚生施設としてだけではなく教育施設としての意義を持つ必要があるという問題意識から、「寄宿舎の教育的意義は自治にあった?」と題して、旧制高等学校寄宿舎の様相や寄宿舎生による自治が生まれた歴史を当時の写真などを用いて報告した。
旧制第一高等学校(東京帝国大学)寄宿舎の運営が始まって以来、文部省や大学は寄宿舎(以下、「寮」)に厳しい規則を設けて生活上の監督をしていた。森有礼が文部大臣に就任するとさらに厳格化がすすみ、これに当時の寮生(正岡子規など)が反対した。そこに京大の初代総長も務めた木下広次が校長として赴任して来た。木下は寮生の反発を受けながらも、どのような寮の運営のあり方がふさわしいのかを寮生と相談し、意見を取り入れて、舎監による監視ではなく、寮生同士の協力による自主的な寮の運営を提唱した。そこには、寮生が自治によって人格的に成長するという期待と、彼らが責任感を持って寮を運営できるという信用があったという。そして寮生は自身の手で規約などを作成して大学の許可を得て、大学を通して文部省にも認可させ、実際に寮を運営し始めた。このように、大学や舎監による規律の押し付けによって表面的な成果を生むやり方ではなく、寮生自身が寮を自分たちのものと理解して、協力して日常生活を送るという方法が成立した点に、寮の教育的意義が一定程度あったのではないかと話した。
また、吉田寮の前身である第三高等学校(京都帝国大学)寄宿舎においても、木下は同様に寮生との相談を通して、寮生による自治を認めることになった。
以上のことから冨岡氏は、誰かがゼロから寮の教育的意義を考案して寮生の自治が生まれたのではなく、大学と寮生とが互いに意見を交わす中で自治が成立し、そこに教育的意義が付随してきたのだと述べた。
続いて山根氏は「吉田寮建築保存活動としての寮との関わり」と題して、2011年末以来、吉田寮の補修や新棟建設をめぐって寮生らと継続的に交流し、寮の実測調査・図面案の作製などの活動を行ってきた経過を中心に報告した。寮の建築保存運動を進めるにあたって、吉田寮がどの程度の規模でどのようにできている建物なのかや、木材の現状はどうなのかということを、実測作業を通して寮生たちが具体的に体感する必要があると山根氏は考えている。その考えから、寮生たちと一緒に寮の床下に潜ったり屋根裏に登ったり、メジャーを使って寮の柱を計測したりして吉田寮の図面を作成した。
12年4月に大学当局が吉田寮食堂の取り壊しを一方的に決定して問題になった際には、山根氏は食堂棟の調査での発見を元にして、論文「京都大学寄宿舎吉田寮食堂建築物の調査実測によるその文科省営繕設計による最古の建築物である実証 ―文部省営繕設計による現存最古となる建築 その1 ―」(本紙2012年11月1日号掲載)を作成。この中で山根氏は、吉田寮食堂棟が現在の本部構内にあった旧制第三高等学校寄宿舎の食堂棟を移築しており、吉田寮食堂棟は築123年(当時)に相当することを明らかにした。山根氏はこの論文と同内容のものを「京都大学学生寄宿舎吉田寮食堂建築物の調査実測によるその京都大学内で最古の建築物である実証 ―京大最古の建築施設―」と改題して、大学当局が開いた食堂取り壊し「説明会」の場で大学当局からの参加者に配布した。後に交渉に出席した教員の一人は「論文を渡されるとわれわれは学者なので読まざるを得ない。あれには困った」とこぼしたという。交渉の結果、大学当局は食堂取り壊しを撤回し、食堂は補修されることになった。
その後、寮自治会と大学当局との間で吉田寮新棟の構造に関する交渉が進んでいった。その中で山根氏は大規模木造建築を法規上において可能にさせるために、木造と鉄筋コンクリート(RC)造の混構造建築の計画図面を作成した。木造3階建て2棟とRC造の地上3階・地下1階建て1棟を組み合わせたもので、現在の吉田寮新棟の元になったといえる案である。このような案を作った理由を山根氏は、寮自治会と大学当局が新棟の構造や規模をめぐって対立することを危惧したからだと説明する。
山根氏は、建築の専門家として自身が果たした役割はあくまで寮生たちに取りうる可能性と理論を時々に示したことであり、実際に補修や新棟のイメージを膨らませ、大学当局や施設部と話し合っていった主体は寮生であると強調した。
報告後に設けられた意見交換の場では、現寮生や1950年代に卒寮した元寮生、一般の参加者、報告者などが発言した。現在のイベントスペースとしての吉田寮食堂が持つ魅力と食堂のあり方に対する疑問、寮自治の意義、京都市内のとある高校での校舎保存活動についてなど、様々な意見や情報が交わされた。
第2回セミナーは12月10日の14時半から、京都大学楽友会館で行われる予定だという。(穣)

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