「名作」から新たな視点を 人文研アカデミー「名作再読」(2015.07.16)

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人文研アカデミーは、優れた作品を紹介しその新たな解釈を考える夏期公開講座「名作再読」を7月4日、人文科学研究所本館で開催した。小野容照・同助教(朝鮮近代史)、村上衛・同准教授(中国近代社会経済史)、山室信一・同教授(法政思想連鎖史)が講演した。(小)

はじめに小野氏が『アンのゆりかご』を題材に、『赤毛のアン』の訳者・村岡花子と朝鮮のかかわりを語った。『アンのゆりかご』は花子の孫、村岡恵理が執筆したもので、NHK連続テレビ小説『花子とアン』の原案になった。小野氏は、花子を通した日本近代史の要素がこの本に含まれていると指摘。東アジア史の観点からこの本の再読を試みた。

花子の夫・三は、父の平吉と弟の斉とともに印刷会社の経営に携わっていた。そこでは、当時の日本では珍しくハングルの活字を印刷したり、朝鮮人活動家を植字工として雇用したりしていた。つまり村岡家は間接的に朝鮮の独立運動に協力していたのだと小野氏は述べる。また、花子が出演していた子ども向けのラジオ番組が朝鮮半島でも放送されていた。さらに花子は、戦時期に市川房枝ら女性活動家とともに戦争に協力し、国民の士気を高めるための講演や執筆を行った。これは、女性の地位向上のためには戦争協力が必要だと考えたからだけではなく、日本、満州国、中国が互いに友好を深め、新しい文化を作ろうと謳う「大東亜新秩序」という考え方に共鳴したからでもあるという。花子は、朝鮮や中国の対日協力者が集った大東亜文学者大会に出席したほか、朝鮮の孤児院で育った子供たちが日本の軍人になっていくストーリーを描いた準国策的映画『家なき天使』の資料集を編集した。「戦前の日本で文化人として生きるということは直接的、間接的に東アジアとつながることが必然だった」と小野氏はまとめた。

村上氏は清末の官僚世界の腐敗を扱った『官場現形記』を取り上げた。『官場現形記』は世界史の教科書に載っているような有名な著作ではない。しかし、この作品は現代中国が抱える腐敗問題にも通底するところがあり十分読むに値すると村上氏は語った。清朝末期の中国では、財政が硬直し諸反乱を鎮圧するのに必要な軍事費が不足する事態に陥った。そこで、寄付をした人民にその額に応じた官僚のポストを与えるという腐敗が横行した。さらに経済法規が整備されないまま経済が拡大したため混乱に陥った。現代の中国も激しい競争にさらされており、清末のように流動的で不安定な社会になっているため、腐敗や社会問題が生じやすいのだという。村上氏は、「世界中が流動的になり、グローバル競争にさらされることになれば、同じような問題が中国以外でも起こる」と指摘した。

山室氏は石橋湛山の著作を複数取り上げて、彼が貫いた思想とその現代的意義を語った。石橋は、人が国民としてではなく個人として生きることを重視した。人は皇国民として生きるべきだという考えが主流であった戦前の日本において、石橋の考えは異彩を放っていたと山室氏は述べる。また、石橋は目前の現実に場当たり的な対処をするのではなく、長期的なビジョンを描いて合理性のある現実を構想した。例えば、日本が植民地の保有で得ている経済的利益は小さいことを論証し、さらに日本が植民地を手放すことで、戦争の原因をなくし列強の植民地支配を終わらせられるとして日本の植民地放棄を論じた。このように石橋が時代に流されず長期的展望を持っていたことを山室氏は評価した。

山室氏は、「私たちは、時代に即するということで実は時代に流され、時代を超える発想や言葉を持たなくなっているかもしれない」と語った。そして、「今ここにある現実」を超えて「もう一つの現実」、「明日につながる現実」を石橋湛山のように求めていくべきだと述べた。

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