『京都で働く』編者インタビュー 京都で活躍する「よそさん」を追う(2015.03.16)

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「ぶぶ漬けいかがどすか」と聞かれれば、それは「お帰りください」の合図……。そんな“いけず”で知られるまち、京都。そこで「よそさん」が商売をはじめてみたら、いったいどうなるのだろう。


『京都で働く—アウェイな場所での挑戦』(新潮社)がとりあげるのは、京都で事業をおこし成功をおさめた地方出身の「よそさん」たち。チョコレート、染色、革細工、ゲストハウスなど様々な分野で活躍する彼らが、紆余曲折を経ながら京都に根付いていくまでの波乱に満ちたエピソードが語られる。はたして京都は「よそさん」にとってどのような存在なのだろうか。世間一般に語られるように排他的なまちなのだろうか。本書の執筆・編集を担当した編集プロダクション「アリカ」の永野香さんと新家康規さんにお話を伺った。




アリカ編 『京都で働く―アウェイな場所での挑戦』
2015年1月30日発行
1400円(税別) 新潮社


いけずだけど、人情に厚い街


—『京都で働く』が生まれるきっかけはなんだったのでしょうか。

永野 これまで京都に関するガイドブックなどさまざまな雑誌や書籍をつくってきたんですが、取材を通してお会いした方たちのなかで京都以外から来て頑張っておられる方が案外多いという印象を持っていました。そんな彼らの姿を本にまとめたら面白いのではないかという思いがずっとあったんです。

本書の直接のきっかけはゲストハウスを運営する方々を取り上げたノンフィクションの企画でした。話を持って行った新潮社の担当の方に面白いと言っていただいて。企画を詰めていくうちに、いろんな職種のひとたちの話にしてはとなり、最終的に9組10人のさまざまな業種の方にお話をお伺いすることになり、一年ほど前から取材を始めました。

その際、新潮社からのリクエストとしてまずあったのは、読者が実際にたずねていける店舗を持った方を多めにということ。それからコネもお金もないのに京都でいかに根付いてきたかということが本書のメインテーマなので、ちょっと来てさっと帰ってしまうひとではなく、十年以上京都で暮らし成功しているひとを選びました。

—帯の「京都は排他的か」というコピーが目をひきます。取材を終えてみて、京都のまちは排他的だと感じますか。

永野 9割ノーですけど、1割はイエスかもしれないですね。このまちに連綿と続く、よそ者にはけっして侵せない京都人の絶対領域と呼びたくなるようなものが存在している気がします。編集を通してなるほどと思ったのが、青木正明さん(「天然色工房 手染メ屋」店主)の「京都の人は新しいものが好きだけれど、全く変わっているものが好きなのではない。メインストリームである京都の伝統から少し外れたような新しいことに興味を持ち、おもしろがってくれる」というお話。つまり、よそ者を受け入れる度量の深さが京都にはあるのだけれど、それは京都の伝統と文化を理解したうえでそれに敬意を示したときという条件がついている。新しく何かはじめる人が自身は亜流であることを認めて、その役割を意識して行動するとき、ようやく温かいまなざしが向けられると言えるのかもしれません。

新家 もともと京都は、千何百年も続く都。永い間、常に地方からひとが入ってきて、文化をつくりあげてきたまちだと思うんです。ですから文化も「純粋な京都」というのはほぼないと思います。どこかからよその血が入ってきて、よその技術をええとこどりして文化にしていく。そういう意味では、京都のひとがよそ者を受け入れること自体も伝統といえるんですが、あくまでもそれは過去を引き継いで未来にもっていくことが条件。過去を一切否定して革新的なことを生み出すのは、京都の流儀ではないのかもしれません。

永野 京都で生活していくなかで、ひとに助けられたというエピソードが多くの人のお話のなかででてきます。いけずと思われている京都は、実は人情に厚いまちでもある。そこをうまく活かしてるひとが、最終的に成功している感じをうけました。

—ただ、よそ者が京都の人情を感じるには時間がかかる気がします。


新家 しばらく様子をみているということだと思います。学生や観光客の方々のように一時的にいるひとなのか、京都に根をはっていこうと考えているひとなのか見極めて接しかたを変える。京都人はずっとそうやってきたと思うんです。

永野 今時それだけ他人に関心をはらう土地というのも珍しいのではないでしょうか。ある意味、健康的かなという気もしますね。

京都で仕事をする面白さとは


—取材のなかでいちばん印象に残ったエピソードはなんですか。

永野 加藤俊輔さん(「カロト 革製品と手仕事のもの」店主)が、京都に来てから、お金の使い方と暮らしかたが変わったというお話をしていて。どこの誰が作ったかわからない“製品”を買う機会が減り、顔の見える相手から買うことが増えるにつれ、ものを大切に使うようになったと。それは京都で築いたひとのネットワークのなかだけで生活していくことが可能ということでもあり、そうした関係に心地よく支えられているからなんだろうなと思いました。

この本にでてくるひとはみんな人付き合いが深くて、身の回りのものを「知り合いの誰々がつくってくれました」という話も多い。ルバキュエール裕紀さんが経営するゲストハウス「和楽庵」でも、玄関の間にとてもすてきなふすま絵があるのですが、それは絵描きのお友達によるものだそうです。京都で知り合ったひとのサポートをうまく活かして、仕事と自分の暮らしにつなげているのが印象的でした。

新家 登場していただいたのはものづくりに携わるひとが多いんですけど、みんな「京都人はいいものをつくったらわかってくれる」という信頼感をもっていると感じました。京都のひとは本物を知っているから、その審美眼は信頼できる。なかなか芽がでないかもしれないけど、自分がつくるものに手を抜かず、しっかりしたものを作り続けていればいつかは認められると信じている。

永野 あとは京都というまちがもつブランドがついてまわってくるから、それに恥じぬようしっかりしたものを作りたいという気概も感じますね。いい意味でのプレッシャーが作用している。

—今回編集されたアリカのみなさんも京都以外のご出身であり「よそさん」ですが、実際に京都で働いてみてなにか感じるところはありますか。

永野 働きはじめた当初は、婉曲な言い回しにピンとこないことがありましたね。私は大阪出身だからストレートに言ってもらわないとわからないんですよ(笑)。たとえば、取材の申し込みをすると「うちはとりあげてもらう程の店じゃありませんので」と、それは丁寧な口調でおっしゃる。こちらとしては、「いやいや、お宅の何々がすばらしいので是非とも」とぐいぐい押してしまうこともあったのですが、そのうちやんわりお断りされているということだとわかるようになりました。中には本気で謙遜されているだけのこともあるので、この見極めがなかなか大変なのですが(笑)。

でもずっと京都で働いていると、不思議なもので徐々に京都人マインドが自然と染みついてくるんです。ここに出てくるひとは十年以上京都にいるから、みんな多かれ少なかれ京都人マインドを持っているのではないでしょうか。そして、それは取材をしている私たちにも言えることだと思っています。思い返すと自分でもひやっとするくらいの“都人”気取りの思考回路になっていることもあります(笑)。

—最後に『京都で働く』、どんなひとに読んでもらいたいですか。

永野 学生さんに読んでいただけると、すごく嬉しいですね。自分が就職活動をしていたときに、京都で働くという選択肢はまったく頭にありませんでした。まず東京か大阪かと。同じような方に、京都で働く魅力は大いにありますよとお伝えしたい。

あとは、今働いていてもがいている方、それから仕事を自分ではじめてみようと思ってる方にも読んでいただきたいです。自分たちも京都で会社をたちあげてこの4月で13年目にはいりますが、今回京都で活躍するひとたちの話をうかがう機会を得て、京都で仕事をする面白さを改めて感じ、ひとと力を携える醍醐味、まわりのひとをどう巻き込んでいくといいのかなど、教えられることがとても多くありました。

新家 京都は、日本の中でも東京と並んで国際的な集客力のある、未来ある土地だと思います。京都で働くことは国内外で展開していくときに、ひとつのブランドになるでしょう。本の中で何回も書いてますが、京都のひとたちは比較的異文化を受け入れてくれやすい。そして東京と違うのは、京都のほうがひととひととの距離が近い、あたたかく人間味がある。これは僕が東京で働いた経験からも感じることです(笑)。

この本には色んな世代、30歳から60歳超えているひとが登場するので、京都への移住の歴史としても読めます。京都で何か新しいことを始めようと考えている「よそさん」には、それがいいヒントになるかもしれません。

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