〈ヒッチレース体験記〉 砂丘から左京を目指せ(2014.06.01)

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5月24日0時過ぎ。吉田寮祭が開幕するや、私は車へと乗り込んだ。先行きの不安を感じつつ乗り込む車内には、私を含め4人。そしてハンドルを握っているのは、メイドさんだった。黒い膝丈のワンピースとタイツに、真っ白なヘッドドレスとエプロンが映える。さらに足元にはヒールの高い革靴と、完全装備である。話を聞いてみると、目的地までドライバーとして運転した後に、自分も参加するのだという(帰りは、同行したドライバーが運転するらしい)。炎天下、メイド姿でヒッチハイクをする様子を思い浮かべ、苦労しそうだなぁ、とどこか他人事のように考えながら、私は明くる朝に備えて眠りについた。

早朝、車を降りた場所は砂丘だった。夜間、車は西に向かっていたため薄々予想はしていたが、鳥取で降ろされるのだとようやく確信する。車を降りたものの、まだスタート地点というわけではない。開始時刻まで時間があるということで(6時ごろに下ろすよう決まっていたらしい)、まだ陽が昇りきっていない砂丘を、私たちは散策した。早朝の砂はしっとりとしており、これが砂丘の砂か、思っていたのと違うと、一同は首を捻るのだった。

砂丘を後にし、向かったのは鳥取市内。聾学校の辺りで車が止まった。ついにヒッチレースが始まるのだ。車を降り、500ミリリットルの水と、こんにゃくゼリー2つ、油性ペンを餞別にもらい、いくらかの段ボールを背負って他の参加者たちに別れを告げた。

不慣れな場所、まずは帰るルートの見通しを立てようと、人に道を尋ねつつ鳥取駅を目指す。鳥取駅の大きなマップで確認したところ、どうやら国道9号線を使うのが良さそうだ。少し距離はあったが、歩いて9号線へ向かった。せっかくはるばる鳥取まで来たのだからと、途中鳥取城跡を見物などして、半ば観光気分だった。そうこうしつつやっと9号線に到着、背負っていた段ボールに「京都方面お願いします」と書き込み、掲げ始めた。初めは期待と不安と入り混じったような心持で掲げていたのだが、場所が悪いのか一向に止まってもらえない。ちらと目線を寄越して通り過ぎるばかりだ。「助ケテ下サイ」とでも書けば止まってくれるのではないかと考えだしたとき、1台の車が私のために止まってくれた。止まってくれたのは子連れの母親で、遠くまでは無理だが少しなら乗せて行けるとのことだった。強い日差しの下、2時間弱立ちっぱなしだった私は一も二もなく頷いて、同乗させてもらった。

「ここなら関西方面の車が捕まると思うよ」と言われ、私は何度も礼を言いつつ車を降りる。もうすぐ正午という時間、降ろしてもらったそこは、鳥取砂丘だった。再び訪れるとは思いもしなかったが、なるほど関西からの観光客は多そうである。時間帯を考えると観光客が帰り始めるにはまだ時間があるだろうし、しばらく時間を潰そうと私は砂丘をダッシュで駆け上がった。周りはカップルや家族連ればかりだったが、お構いなしに一人はしゃぎまわったのだった。一通り砂丘を堪能し、駐車場の方へ戻ろうとすると、視界に何とも奇妙なものが映った。メイドさんだ。日光を眩しく照り返す砂丘の中、メイドが歩いている。鳥取市内にそう何人もメイドが居るとは思えない。まさかと駆け寄って声をかけると、やはり朝別れたメイド姿の参加者だった。あの後結局砂丘で降ろされ、関西方面に車が出る気配もないため、仕方がないから砂丘を管理している砂丘事務所の手伝いで、砂丘の除草を手伝っていたらしい。その後、私とメイドさんは砂丘事務所の方のご厚意で昼食をごちそうになった。腹も満たされ、旅の道連れも得た。午後になれば関西へ帰る車も出るだろう、ひょっとすると夕方には京都に戻れるのではないか――この時点では、そんな希望を抱いていた。

しかしそれから2時間ほど、2人で『京都へ』の文字を掲げるも、なかなか関西へ帰る車が捕まらない。関西ナンバー車がない訳ではないのだが、観光地ゆえにカップルや家族連れ、複数の友人で、という車が多く、席が埋まっているせいか乗せてもらえない。そうこうしているうちに、なんと3人目のヒッチレース参加者が砂丘に現れた。珍しいこともあるものだ、他の参加者も砂丘に集まってくるのではないか、そんな馬鹿なと笑いあっていた。その後も車は捕まらない。直接話し掛けて交渉するも、けんもほろろといった具合だ。そして陽が傾いたころ、期せずして4人目のヒッチレース参加者が合流した。互いに笑ってはいたが、どこか力のない笑みだった。陽が沈みかけ、砂丘での野宿を覚悟したときだった。見かねた砂丘事務所の所長が、砂丘の向かいにあるレストランの社長に掛け合ってくれ、兵庫県、加西のサービスエリアまで乗せて行ってもらうこととなった。更には夕食までふるまってもらい、私はひたすらに感謝の言葉を繰り返すことしかできなかった。

加西で降ろしてもらった後、流石に4人一緒に乗せてもらうのは無理だと私たちはそれぞれ車を探すことにした。当初、メイド一人でヒッチハイクが成功するのかとの懸念もあったが、なんと一番最初に加西から出たのは、メイドさんその人であった。いつの間にかもう一人姿を消し、2人だけが残る格好となった。私は焦り、おろおろするばかり。段ボールを手に、夜のサービスエリアをうろつく姿はさぞ不審だったに違いない。そんなとき、「お兄ちゃんどこまで?」とサーファーのお兄さんが声をかけてくれた。京都・大阪方面ですと答えると、赤松までなら乗せてくれるとのこと。見れば残っていたもう一人は既に約束を他でとりつけていた様子。それなら安心と、私は喜んで車に乗せてもらった。気さくに話しかけてくれるお兄さんのおかげで、赤松までは一瞬だった。お礼を告げ、別れようとしたそのとき、「アレ京都ナンバーみたいやで?」とお兄さん。見れば京都ナンバーのファミリーワゴンが止まっている。「早く行かな」と促すお兄さんに何度も礼を言いつつ、ワゴンに駆け寄った。乗っていたのは家族連れ。最初は訝しげな顔をされたものの、事情を話すと、京都まで帰るところだから乗せてもいい、と言ってもらえた。それからは京都へ一直線。車内でも話し掛けてもらったおかげで楽しく過ごせ、あっというまに川端丸太町。意気揚々と寮へと歩き、ゴールしたのであった。

振り返ってみると、昼食、夕食は食べさてもらったし、独り立ち尽くす寂しさもなく、野宿も回避することができた。かなり恵まれたヒッチレースだったと言えるだろう。自分でまともにヒッチハイクしたのは最初の1回きりである。道行く人の善意に身を任せていたら京都に辿り着いてしまったと、そんな感覚だ。人の優しさに触れた1日ではあったが、2度目は御免こうむりたい。これ以上に優しくしてもらえることなど、そうそうないだろうから。(待)

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