〈連載企画〉台湾逗留記~第二回~反旺中運動と台湾社会(2012.12.16)

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さて、前回の連載は、台北に到着してからわずか4日で書きあげねばならないという切迫した状況での執筆だったわけだが、何を書けばよいかほとほと困り果てたというのが正直なところであった。実際のところ、この台北の町を歩いていても「異境」に身を置いているという感覚が自分でも驚くほど沸いてこなかったのである。

台湾は、日本列島と同じ火山帯に位置する島であり、堀田善衛が『インドで考えたこと』で書いた「人となれ合う自然」に既視感、親近感を持つというのがある。

しかし、それ以上に面食らってしまうのが、凄まじいまでの消費社会化、とりわけその中に世界的には「ガラパゴス」に過ぎない日本資本も堂々とその一角を占めている事実である。セブンイレブン、ファミリーマートが100mおきに店を構え、繁華街ではモスバーガー、サイゼリヤ、洋服の青山、ユニクロ……の看板が、百貨店はSOGO,三越とはこれ如何に。

かつては堀田をして「東京から先はおそらくパリかローマまではないだろう」と言わしめた眩いばかりのネオンで包まれた消費社会の光景が、日本企業も主導するかたちですっかり、この街を包み込んでいるのである。

もっとも、日本の「快適さ」をそのまま維持できるという点では「楽」なのもまた事実なのではあるが、これではわざわざ台湾に来た意味があるのか、と考えあぐねていたのである。そして、学生が「旺中グループ」への抗議行動をする、との報をFACEBOOKでみつけたのはちょうどそんな時だった。

11月29日、平日の午前中しかも天気はこの時期らしく雨。そんな悪条件にもかかわらず、会場となった公平公正委員会庁舎前には多くの学生、千人を超すだろうか-が「反對媒體巨獸,再戰公平會!」に台湾中から集まっていた。車道が全車線使えるので道が完全に学生で埋まっていた。

演壇となっている軽トラックの荷台で変わるがわるスピーチが行われていく。各大学の代表だろうか、大学名が読み上げられると拍手が沸き起こる。途中で学生を支持する研究者や、民進党の立法院議員も来る。社会運動では定番となっているらしい曲が合唱される。

集会はこんな調子で午後1時半すぎまで延々四時間以上続いた。その後数百メートルを「抗議!抗議!」のシュプレヒコールで練り歩き立法院前へ。ここで学生の請願を取り合わない与党・国民党にもう一度電話。会話がスピーカーを通して響き渡る。案の定面会を拒否されるも、請願が書かれた紙をみなで紙ヒコーキに折り、地元権力に硬く防衛された柵の中へ投げ込んだのだった。丸一日かけた行動。

旺中グループ問題とはそもそも何か。本紙11月16日号の台湾大学新聞寄稿でも触れられていたのだが、旺中というのは、台湾に拠点をおく菓子製造グループである。90年代初頭から大陸中国へ進出をはじめ、今では販売シェアの9割ほどが大陸という、PRC(中華人民共和国)に依存した資本だ。

この旺中グループが、近年中国時報、工商時報といった有力全国紙など各種メディア企業の買収を繰り返している。買収後、報道論調が「親中」的なものへ変更され、従わぬ記者を追放したり、相次ぐ買収に批判的な論者を自分の番組&紙面で誹謗中傷するなど「わかり易い」事態が相次いだ。

昨年ケーブルテレビの中嘉網路買収を発表した際には、当局もこれ以上の旺中によるメディア寡占はまずいと判断したのか、公平公益委員会で1年以上かかった審議の結果、買収の条件として、ニュースチャンネルの資本分離を注文した。これに不満の旺中側は、10月に今度は香港の壱伝媒(ネクスト・メディア)グループ台湾新聞テレビ部門の買収に出資参画すると発表。この買収が成功すれば、メディア市場の過半数が旺中グループというひとつの資本の手に握られるというところまできている。

こうした動きに危機感を持った学生が、言論の自由の危機を訴え「我是學生,我反旺中  反媒體巨獸青年聯盟」を結成。7月に引き続いてこの日のデモを主催しているそうだ。

スピーチの内容を理解できないことに返す返す語学の至らなさを痛感しつつ、会場の熱気に引き込まれるかたちで長居してしまったわけだが、この手の社会運動で参加者の大半が若者学生という状況に、日本では遭遇したことがなかったので、非常に新鮮な体験だった。もちろん台湾でも学生全てがこうではなく、大半は無関心であり、行動しているのは「ごく一部」であろう。しかしその「一部」の量と質が日本とは違うと感じる。

しかし、この反旺中運動の性質を、台湾社会のヨソモノである私がどう捉えて良いのかは難しい。それは、巨大資本によるメディア独占反対と「親中派」がメディアで影響力を増すことへの反対とが、完全に一体ではないが重層的になっているからである。陰謀論めいてもいるが、PRCは大陸進出資本そしてその傘下のメディアを通して、台湾の世論を「操作」するのでは、という危惧が反対派の全員ではないがそれなりの部分にある。この日のデモでも「反中(共)」的なプラカードを持つ参加者、台湾独立派の緑ステッカーを持つ参加者も少ない数ではあるがいたし、後で知ったのだが、会場で合唱された「自由花」という曲も六四事件(天安門事件)にかかわりのあるものだ。

経済面での繋がりがかつてないほど緊密化している今もなお、「両岸関係」という冷戦構造の産物が、台湾社会を強固に貫いている現実。一見きらびやかな消費社会も実は体制のあり方を問うことが、未だ切実な問題なのである。ほかならぬ「資本」の力がこの関係を「社会主義」を国是とする側に有利なように動かしているのはまったく笑えない話だが。

こうしたところから私の思考は、今の日本でたとえば憲法9条破棄、基本的人権の否定といった、「市民社会に重大な影響を与える」動きが起こったとき、今目の前で展開されている規模の抗議活動は起きるのだろうか、自分自身はどう振るまえるのかだとか、ここ台湾、韓国、沖縄といった「前線」の犠牲にぬくぬく安住していた面もあった戦後日本(本土)の「平和」とはそもそも何だったのかとか、ということを考えさせられたのだが、ここら辺で今回の紙幅も尽きてしまった。

最後になるが、誤解してならないのは「反中」概念も台湾独立とは必ずしも直結するのもではない。かつて、国民党自身が大陸再侵攻、政権奪還を掲げていたもとでは、「反中国共産党政権」と自らを「中国」とアイデンティファイする行為ははっきり別のものだった。しかし、両岸関係の固定化がつづく中で、反中共と、「中国」そのものとは異質な「台湾」としてアイデンティファイする言説が(おそらく台湾社会内部においても十分に整理されないまま)混在しているのである。ここに台湾社会がもつ複雑さの一端がある。(魚)

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