〈京大雑記〉古書店主をして語らしめよ(2012.07.16)

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先日帰省した折にふと耳にした、母と父のちょっと会話。

母「会社帰りに髪切ってくるなんて、珍しいね」

父「大手のチェーンでやってもらったんだが、そんなに話も振ってこないし、かえって気楽だったよ」

この気持ちが、私には非常によく分かる。もちろん退屈させぬようにと「話を振って」くれる理髪師さんの気遣いには頭が下がる思いだし(実際眠気を装って下を向くことが多い)、「床屋談義」という言葉があるくらいに理髪店というのはうわさ話の象徴だったのだから、それを楽しみにしてやって来る客も少なからずいるのだろう。リング・ラードナーの名短篇「散髪」では、理髪師が絶妙な語り部となって客(=読者)をミステリーの世界に誘ってくれる。ただあの話を思い出すにつけ「あんなに喋って、髪が切れるのかな」と考えないでもない。

かといって、「プロは寡黙かつしたたかに仕事を遂行するものである」などという極端な信条は私にはない。むしろもっとお話ししたい、もっと色々と教えてほしいと感じる相手がいる。それが書店員だ。

しかし、大型書店の店員に「おすすめの本、ありますか?」とはなかなか聞きづらい。「そこに今週のランキングが貼ってあるでしょう、そこに」と返されたらどうしようなんて考えると、いよいよ私の臆病は手に負えないものとなる(恐らくは優しく案内してくれる方が大勢なのかもしれないが、こればっかりは私の性格上仕方ないのでご容赦を)。

うってかわって、古書店の店主たちはよく喋ってくれる。「何かお探しですか」にはじまり、「この作家がお好きでしたら……」と、ついでに作風の似た作家を紹介してくれる人。「昔はみんなこれを読んでいたのだが……」と、旧世代の必読書を教示してくれる人。ネット通販で大抵のものが取り寄せ可能なこの時代にあって、本好き者同士のバトンはこんなところで受け継がれている。そういえば、古書店を舞台とした小説(ビブリオ・ミステリー)が若い人のあいだで売れているのも、そういった教示を求める人の多さを物語っているとはいえまいか。

「この商品を買った人は、こんな商品も買っています」。統計に裏打ちされたネット上のコマーシャル・メッセージは、確かに私たちの欲しいものを言い当てている。でも、本当に新しい出会いは画面越しにはなかなかやってこない。時代の知を見てきた語り部たちは、新しい出会いを座右に置いて、あなたが訪れるのを待っている。(薮)

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