生協ベストセラー 『らくたび文庫019 京の学生文化を歩く』(2007.12.16)

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まだ生まれてもいない時代に、なぜ郷愁を抱くのだろう。1960年代、70年代に花開いた学生文化は、なぜかしら私たちに懐かしさや憧れを抱かせる。あの時代が、少しずつ「歴史」に変わろうとしているのに。

本書は、60年代、70年代の京都の学生文化を、暮らしや思想、学生運動など様々な観点から描き出し、当時を知らない若者たちと、「あの時代」を生きた読者との、世代を越えたコミュニケーションを紡ぎ出すことをテーマとしている。両者はどのような思いで、この本を手に取ることだろう。

授業をサボタージュして自主ゼミで勉強。サルトルやドストエフスキーを難しい顔をして読み耽る。大学が終われば、雀荘で真剣勝負。古本屋で立ち読みをして、喫茶店で学友と討論する。下宿に帰れば、大家さんが「お袋の味」で出迎えてくれて、お供の部屋着ははんてんと決まっている。風呂などないから、皆が銭湯に行って芋の子を洗うような状態。そして当時は、学生運動真っ盛りだった。

今はどうだろう。まじめに授業に出て単位を取る。その代わり哲学専攻や仏文科でもなければサルトルなど読まない。雀荘も、今では閑散としているし、古本屋も数はあるにはあるが、そこに立ち寄る学生の姿はほとんど見かけない。喫茶店は単なるデートスポットと化し、昔ながらの下宿などはもうほとんど残っていない。みんなアパートで一人暮らし、当然風呂付で。そして、わずかにセクトは残っているようだが、おおっぴらな学生運動はほとんど起こらない。

今と「あの時代」とどちらがいいというのではきっとない。今の学生は経済的にも豊かだし、難しい本を読み教養を身につけることをステータスとはしない。ぶつかり合うほどの思想を持たず、なんだかあくびが出るほど「平和」で「穏やか」な学生生活。時代が変わったといえば、ただそれだけ。

「今の若い世代は、何の思い入れもなく、クールに『あの時代』を見つめることができるはず」だと、本書の企画者である伊藤公雄氏は言う。しかし、おそらくそれは違う。「あの時代」は知らないけれど、学生たちは豊かで平和過ぎる生活に何らかの刺激を求めているのだ。だから「あの時代」が、懐かしくて恋しくてたまらなくなる。学生運動では多くの死傷者が出た。それでも赤ヘルを見て、当時の落書きを見て、なぜかしら胸がざわめくのは、今の学生生活に何か物足りないものを感じているからではないのか。

学生文化が貧しくなって久しい今の時代、日常的過ぎる「日常」。もちろん、学生文化が皆無となったわけではない。「あの時代」から営業を続け、今も学生から愛される喫茶店や定食屋はたくさんあるし、音楽・演劇の聖地だった西部講堂は今も文科系サークルの活動拠点となり、不定期にイベントも開かれている。ただノスタルジアに浸るのではなく、学生文化復興に向けた提言が一言ほしかった、そんな気がする。(圭)

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