京都ナカニシヤ物語 教科書販売書店の系譜(2010.06.16)

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昨年秋より、吉田南キャンパスの新学期の光景に異変があった。それまで見受けられた外国語教科書販売のテントがなくなったのだ。例年、教科書を買いに群れをなす学生の光景はなぜなくなり、そしてあのテントはどこへいったのか。そこには戦前より続いた、ある書店の歴史があった。(鴨)

毎年春秋に語学の教科書をテント販売していたのはナカニシヤ書店という。なぜなくなったのか。生協関係者によれば「廃業した」という。ナカニシヤ書店(左京区吉田中大路町)を訪れたところ、それはごく小さな民家だった。教科書を買いに訪れたことのある学生(経済学部生・4回生)は「最初は本当に書店なのか目を疑った」と語る。建物内に人気はない。近隣住民によれば「昨年秋より空き家状態」であるという。そこでナカニシヤ書店と関係の深い、ナカニシヤ出版を訪ねることにした。

ナカニシヤ出版(左京区一条寺)の中西健夫・代表取締役社長にインタビューしたところ、ナカニシヤ書店は兄の康夫氏が経営していたが、高齢のため昨年秋に閉店したという。ナカニシヤ書店・ナカニシヤ出版の歴史は1928年にさかのぼる。父親である喜一郎氏が丸善より独立し、洋書店として吉田神社前(今の中尾写真館のあたり)にナカニシヤ書店を創立したのがその始まり。当時貴重だった洋書を中心に和書、古書を手がけ、出版も請け負っていた。第二次大戦をむかえると紙不足で本が希少となり、一時は本の質屋も営んでいたという。1945年、喜一郎氏が逝去し、以降は母親が継いで小売業を営んでいたものの、その母親も1953年他界。残された兄弟が受け継ぐこととなった。

学園紛争とナカニシヤ

写真(本紙掲載)の左から3人目、本を広げているノーベル賞受賞者・江崎玲於奈の学生時代の姿がある。ナカニシヤ書店と京大の関係は深い。地理的に戦前から旧制三高の学生・教官に一番利用された書店であり、三高が学制改革で教養部となったのちもその関係は続く。教官がナカニシヤ書店によく立ち寄り、二階の事務所でお茶を出したり世間話で盛り上がったりすることもしばしば。雑誌を配達しに研究室を訪れる際も、本好きの教官とよく話し込んだものだという。戦後の一時期、店舗の二階が麻雀店になっていたときはのちの有名教授となる学生が常連となっていた。健夫氏らが全国の大学に営業へ赴いたとき、「ナカニシヤが懐かしい」と言う京大卒の各大学教官の声を度々聞いたそう。サロン文化の息づく場所だった。

1960年代後半の大学紛争時代には、衝突で怪我をした学生の救護所が書店内に設けられ、従業員が怪我をした学生に包帯を巻いたこともあった。キャンパス内では会議を学生に妨害されるため、場所に困った教授たちが書店の二階でこっそり集まり、教養部の教授会が開かれたという逸話もある。

「ごくろうさん」会

1950~60年代に京都で書籍売り上げ3位を誇ったナカニシヤ書店だが、昭和の終わりごろになると暗転する。本の小売で京大生協と価格競争に発展したためだ。生活協同組合は再販制度(定価販売の制度)を順守する義務を負わないため、定価から割り引いて販売することができる。加えて全国組織の生協は大量仕入れで単価を抑えられるため、価格競争が進むとナカニシヤ書店は経営が苦しくなる。ついに80年代末、閉店を決めた。対してナカニシヤ書店閉店に際し、今の学友会館にて「ナカニシヤさんご苦労さん」という会が開かれた。それまでナカニシヤに関わった教官など150人ほどが出席。式辞で「初めてナカニシヤで見つけた本が、今の自分の研究分野につながっています」と惜しむ教授たちが何人もいたため、中西兄弟は「ショックを受けた」そう。苦しくても続けていれば…そんな思いに駆られたという。1990年、吉田神社前のナカニシヤ書店は閉店した。一方、経営の好調だった出版部門は1982年分離し、弟の健夫氏が「ナカニシヤ出版」として独立。経営を続けて現在にいたっている。

あのテントの正体は?

書店閉店後、教科書販売は京大生協に一本化された。しかし販売作業が混乱し、教科書の取り寄せに手間がかかる。そんな中、教養部からナカニシヤに語学の教科書販売をやってほしいという依頼が来た。以降、春秋は吉田南キャンパス内でテント販売を行い、買いそびれた学生のために新たにナカニシヤ書店(吉田中大路町)を設けた。神社前のナカニシヤ書店とは別の場所、いまの総合人間学部横である。同名の「ナカニシヤ書店」でも、以前のようなサロン的雰囲気はなく、教員が懐かしむ「ナカニシヤ書店」は神社前にあった方だった、と健夫氏は語る。その書店も、兄の康夫氏が高齢のため昨年秋に廃業となった。

受け継がれるDNA

独立後、書店の近くにあったナカニシヤ出版は04年に一乗寺の新社屋へ引っ越した。今でも心理学を中心に人文科学、社会科学の学術書や教科書を出版している。ナカニシヤ出版の出版物は京大の教員の本が中心と思われがちだが、年100点の新刊のうち10%以下に過ぎないという。新社屋を京大から離したのも、「意識的なもの」。京大との関係はこれからも続けていくものの、それ以外の関係も模索していく考え。地に足のついた若手教員の発掘も行いつつ、電子書籍化の時流への対応にも意欲を示した。「ナカニシヤ」の看板は次の世代へと受け継がれていく。



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