文化

話題沸騰! 京大銭湯サークルに迫る

2024.08.01

話題沸騰! 京大銭湯サークルに迫る

密着日はテスト期間にも関わらず12人も集まった

「背中に銭湯と書かれた上半身裸の男性が、ビラを配っている……」新歓期に話題を集めた人物をご存じだろうか。彼は竹林昂大(たけばやし・こうた)さん。京大銭湯サークルの会長を務める。自ら「客寄せパンダ」と化した新歓で、たった一人しかいなかった同サークルに134名を勧誘することに成功した。

「京大銭湯サークル」ではどのような活動をしているのか。また、サークルを率いる竹林さんはどんな人物なのか。実際の活動に同行し、その実態に迫った。(郷)

銭湯サークルの一日に密着!


密着日 7月27日(土)

AM 0:30


百万遍から歩くこと1分。銭湯・東山湯温泉の前に11名のメンバーが集まった。営業の終了した銭湯の中に入っていく。

AM 0:37


メンバーは続々と浴場の中に。全員、半袖半ズボンと動きやすい服装に着替えた上、手にはビニール手袋をしている。

AM 0:40


「そろそろ始めましょうか」。竹林さんの一声で浴室の掃除が始まった。そう、このサークルの主な活動は、週に2回東山湯温泉を掃除すること。一人一つ、洗剤の入った桶と掃除用具を持ち、分担して掃除にあたる。浴場の壁や鏡、カラン(レバーを押すと、お湯あるいは水が出る蛇口)まわりなどを、洗剤をつけたスポンジで力を込めて丁寧に磨いてゆく。場所によって使うスポンジは決まっており、椅子や桶は水垢を落としやすい専用のスポンジを、鏡は傷をつけないよう、やわらかい食器用スポンジで磨くという。各々は散らばって掃除しているが、周囲のメンバーと会話することも多い。「単位落としちゃってさ……」「ホンマですか⁉」大学生らしい会話が飛び交っていた。

掃除する竹林さん。ビニール手袋は洗剤による手荒れを防ぐためにしている



AM 0:45


竹林さんが自分のスマホで活動風景を撮影し始めた。サークルのSNSに掲載するために、色々なアングルから何回も写真や動画を撮る。2分かけてじっくり撮影した後は、再び掃除に参加。浴場の中は蒸し暑い。汗を流しながら、洗剤をつけたタワシで排水溝周りを掃除する。「風呂掃除は大変です。ただ、掃除好きな性格に、うちのサークルの和気あいあいとした雰囲気もあって、辛いと思ったことはないですね」。

AM 0:58


遅れていたメンバー1名が銭湯に到着。すぐに着替えを済ませて、掃除に加わった。「最近はみんな風呂掃除の流れを覚えてきたから段取りが良くて。ちょっと遅れるとあんまり掃除する所がないこともあります」。苦笑いしながら話した。

入れ替わる形で、掃除に加わっていた東山湯温泉の大将・東山シローさんは浴室の外に。「自分もかみさんも身体が悪くて風呂掃除は大変。サークルのおかげで、番台(入浴料の受け取りやお客さんの監視を行うため、入口に設けられた高い台)など普段手の回らない場所の掃除もできるし助かっている」。

AM 1:00


男湯は仕上げに入った。桶に入れたお湯を、洗剤のついた壁に勢いよくかけて洗い流す「流し湯」をしつつ、サウナマットの掃除にも取り掛かる。竹林さんによると、流し湯のコツは「桶にお湯を半分くらいしか入れずに、桶の下を手で支えて壁にかける」ことだという。

AM 1:15


男湯の掃除が完了。男湯を掃除していたメンバーはすぐに女湯に移動して掃除に協力。

AM 1:30


女湯の掃除も完了。「お疲れ様でした」。全員で集合して写真を撮影した後、各々は掃除が終わったばかりの一番風呂に入る。顔には満面の笑みが溢れていた。「この瞬間が最高です」。

AM 2:00


全員風呂から上がった。その後は談笑する者もいれば、すぐに着替えて授業の課題に取り組む者もいる。竹林さんは先程撮影した写真や動画の編集に没頭していた。「SNSは鮮度が命です」。決まった時間に解散することはないという。「誰かが帰ったら、流れで解散することが多いですね」。

AM 2:30


メンバーが一人帰ったのを契機に、各々はぽつぽつと解散した。

――密着終了――

現会長・竹林さんにインタビュー!


◆銭湯について◆

Q1:いつ銭湯の魅力に気付きましたか?

A:京大受験の帰りに東山湯温泉に寄った時です。大きな湯船に浸かってリラックスしていると、いつの間にか受験の疲れが消えていて。絶妙な距離感を保って談笑する常連客の姿にも憧れました。京大入学後は、毎日銭湯に通うようになり、当時京都にあった97軒全ての銭湯を制覇しました。

Q2:銭湯の魅力とは?

A:日常生活と密接な関わりを持っているところですね。日々の小さな贅沢とも言えると思います。(新世紀エヴァンゲリオンにある「風呂は命の洗濯よ」というセリフをもじって)銭湯とは命の洗濯場です!

◆銭湯サークルについて◆

Q3:銭湯サークルに入ったキッカケは?

A:昨年のWEST祭(11月祭と同時期に西部構内で実施される祭り)の運営に携わり、企画のゲストに東山シローさんを呼んだのがキッカケです。そのお礼にシローさんが経営する東山湯温泉の掃除に行くと、そこには立命館大学の銭湯サークルも来ていて。その姿を見て、コロナ禍の人数制限で新歓に参加できず、それきり疎遠になっていた京大銭湯サークルのことを思い出しました。近況を聞いてみたところ、唯一のメンバーである会長が2024年の春に卒業するから自然消滅するだろうと分かって。自分が引き継ぐしかないと思い、すぐに連絡をとり、今年の3月にサークルに入ると同時に会長を引き継ぎました。

Q4:現会長として、サークルの現状をどう考えていますか?

A:4月頃は元々いたメンバーが自分だけだったために、一人で掃除の指示を出していました。ただ、コツを掴んだメンバーが、今は自分の代わりに指示を出すようになって。後継者が現れて嬉しい限りです。また掃除する中で、今自分たちが銭湯に安く入れる背景には、支えている人の存在があると気付きました。銭湯の暖簾を守るためにも、自分が卒業しても続くサークル、言い換えると、サステナブルなサークルにしたいですね。

Q5:新歓が話題を呼んだこともあり、取材を受けることも多いと思います。取材を受けてきた中で何か心境に変化はありましたか?

A:取材を通して自分の思いを見つめ直すことが多いですね。自分には、端的に表現できないほどの熱い銭湯愛があったのかと再認識しました。

◆最後に◆

Q6:読者にメッセージをお願いします。

A:京都は学生の町かつ銭湯の町。今も情緒あふれる銭湯が暖簾を掲げ続けています。ぜひ、京都の銭湯の魅力にどっぷり浸かってみて下さい!

掃除終わりの浴場で撮影した