ニュース

松沢元霊長類研所長 京大が提訴 入札不正めぐり 2億円支払求める

2023.02.16

京大が松沢哲郎・元特別教授に2億円の支払いなどを求めて提起した訴訟の第1回口頭弁論が1月24日に京都地裁で開かれた。訴訟は、不公正な入札が発覚し京大が補助金を返還した研究事業について、大学がその責任を松沢氏に求めるもの。一方で松沢氏は入札不正を認識していなかったなどとして、請求の棄却を求めている。

問題となっているのは霊長類研究所(22年4月に解体)で行われた、ヒトとチンパンジーの比較認知実験にかかわる研究事業で、2010年度から12年度にかけて日本学術振興会から計約14億円の補助金を受けた。訴状によれば、研究に必要なチンパンジー用大型ケージを購入する際、松沢氏の部下が入札に先立って、以前から取引のあった業者とケージの仕様を検討する不正があった。結果的に他業者が落札したものの、入札不正が補助金の交付条件などに違反するとして20年、振興会は大学に補助金返還を命じた。京大はケージ購入額に実質的な制裁金を加えた約3億6千万円を返還。これが松沢氏の不法行為により生じた損害であるとして、約2億円の賠償を求めている。

争点は入札不正の責任の所在だ。大学は、松沢氏が事業の研究代表者であったとし、政府調達の要領と大学の会計規程を遵守する義務があったと主張。不適格な業者が入札に参加することを黙認したとして、松沢氏の責任を追及している。一方で松沢氏側は答弁書で、氏が不正を認識していなかったとしたうえで、入札手続きは事務職員の所掌であり、不適格者の排除は経理責任者の職責であると主張し、松沢氏の責任を否定している。京大は研究費に関する規程で、教職員が競争的研究費の不正使用を行った場合は、「損害を賠償させるとともに、必要に応じて民事上又は刑事上の法的措置を執ることができる」と定めている。

入札不正を含めた一連の研究費不正が発覚したのは20年6月。大学が松沢氏ら4教員による研究費約5億円の不正支出が判明したと発表した。いずれも2011年度から14年度までに霊長類研がチンパンジー飼育施設に関して結んだ契約で、入札不正のほかに架空取引などが認められた。これを受けて大学は20年11月、松沢氏らを懲戒解雇処分とし、名誉教授号を取り消した。これに対し21年、松沢氏は処分の無効性と違法性を主張して京大を提訴し、現在も係争中である。

松沢氏は、比較認知科学を専門とする霊長類学者。チンパンジー「アイ」を対象に、チンパンジーの知性について研究し、チンパンジーの言語や数を理解する能力の萌芽を実証した。2006年からは霊長類研の所長を務め、2013年には文化功労者に選ばれた。

京大は本紙の取材に対し、提訴した事実を認めたうえで、詳細については「係争中のため回答を差し控える」とした。次回口頭弁論は4月14日に京都地裁で開かれる。