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京大「人体実験とする根拠なし」 731部隊論文 本調査はしない方針

2019.03.16

旧満州第731部隊の軍医将校が京都帝国大学より医学博士の学位を取得した際の学位論文において人体実験をもとに執筆された疑いがある問題で、京大に同論文の検証を求める「満洲第731部隊軍医将校の学位授与の検証を大学に求める会」は1日、京大で会見を開き、大学から予備調査の結果が通知されたことを明かした。京大は通知にて、人体実験が行われたと結論付けることはできないと説明し、本調査を実施しない方針を示した。

問題となっている論文は、731部隊軍医将校であった平澤正欣氏が執筆し、1945年に学位論文として認可された。論文にはペスト菌を保有するイヌノミを「さる」に付着させて感染率を調べる実験のデータが記されており、その中で「さる」が「頭痛(中略)ヲ訴ヘ」という記述があることなどから論文中の「さる」は人間であった可能性が疑われている。

京大による予備調査は昨年9月、同会が提出した検証を求める要望書に応じる形で開始された。京大は調査で、当該論文における「さる」の頭痛と体温に関する記述に対しての検証を実施した。その結果、頭痛に関しては「著者がどのようにしてサルの『頭痛』を判断したかは記載されていないが、何らかの行動指標により頭痛が起きていると判断したと推察できる」と主張。それを踏まえて「使用された動物がサルであるということを明確に否定できるほどの科学的合理的理由があるとは言えない」と説明した。加えて、論文著者へのヒヤリングが不可能であること、実験ノートや生データが存在しないことから調査の続行が不可能として本調査を実施しない方針を示した。

予備調査の結果を受けて同会事務局長の西山勝夫・滋賀医科大名誉教授は、「対象論文に対する疑いをなくすには、実験に使用された動物が明確にサルであると言い切ること、もしくは人であることを明確に否定できる証明が必要。しかし、そのような具体的結論を得る調査が実施されていない」と述べ、大学に対して調査結果に関する異議申し立てを2月20日付で行ったことを発表した。

異議申し立ての中で同会は、今回の調査が論文申請当時の知見に基づいて実施されていないこと、論文著者および共著者ともとれる人物が731部隊の隊員であったという歴史的背景が考慮されていないことなどを理由に、予備調査が不十分であったと主張する。さらに、使用された実験動物に関する基本条件が当該論文中に明示されていないことから、学位論文として不適切であるとし、「厳正な学位審査を行うべき学術機関」である大学の責任を追及。その上で、本調査の実施を京大に要求している。

京大は本調査を実施する可能性に関して、「検討する委員会で審議する。委員会開催は調整中である」と説明している。

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