文化

〈アニメ評〉極上の時間旅行ミステリー 『MAO』

2026.09.16

〈アニメ評〉極上の時間旅行ミステリー 『MAO』

©高橋留美子/小学館/「MAO」制作委員会

黄葉菜花は中学3年生の少女。幼い頃、陥没事故に遭い両親を失った過去を持つ。ある日、彼女が事故現場となった商店街の門をくぐると大正時代に迷い込み、平安時代から生き続ける謎の陰陽師の摩緒と出会う。彼は平安時代、陰陽師の名家・御降家に仕え、当主である師匠から秘伝書のすべてを託された後継者と目されていた。しかしその実態は摩緒を呪い殺し、最後に生き残った者が真の後継者となる苛烈な継承者争いの生贄だった。

ある夜、何者かによって御降家の館は燃え落ち、さらに摩緒が想いを寄せていた御降家師匠の娘・紗那は殺された。周囲は、自身が生贄にされたと気づいた摩緒が、人の寿命を操る猫の妖・猫鬼の力を借りて御降家を滅ぼしたと考えたが、摩緒は当時の記憶がおぼろげだ。奇しくも猫鬼に呪われてしまった摩緒は、その猫鬼を追う中で菜花に出会い、菜花が陥没事故をきっかけに猫鬼に呪われた人物であると分かる。二人は、未だ続く御降家の後継者争いの因縁を清算し、猫鬼の呪いを解くため共に立ち向かう――。

原作は、『犬夜叉』などを代表作に持つ漫画家の高橋留美子が「週刊少年サンデー」で2019年から連載中の同名作品。原作を追い続ける評者からすると、今回のアニメ化は7年越しの悲願だった。加えて、制作会社はアニメ『犬夜叉』と同じくサンライズと決まり、期待は高まる一方だった。

その期待は裏切られなかった。ストーリーは原作に沿って進んでいき、シリアスな人間模様を丁寧に描く。コミカルな場面も、原作の絶妙なテンポ感を保ったままアニメ化していると言えよう。他方、フルカラーというアニメの持ち味を活かした戦闘シーンは圧巻の迫力。モノクロの漫画で見てきた摩緒や兄弟子たちの技が、色鮮やかに映し出される。

ここで、実力派揃いの声優陣に注目したい。特に、幽羅子役の上田麗奈ははまり役だろう。幽羅子は平安時代から摩緒を一途に想い続けるも、想いを伝えられないまま彼と敵対することになってしまう「悲劇のヒロイン」だ。紗那と全く同じ顔をしているにも関わらず、摩緒の想いが幽羅子に向くことはない。それでも、街中で摩緒と偶然すれ違った時にはうっとりとした声を上げ、行く手を阻もうとする菜花には「どけ」と禍々しい声を浴びせる。『SSSS.GRIDMAN』の新条アカネや『チェンソーマン』のレゼなど、心に闇を抱えて葛藤するミステリアスな女性を数多く演じてきた上田麗奈だからこそ、見事に演じ切れたと言えそうだ。

本作のミステリー要素にも言及したい。摩緒と菜花は兄弟子たちから話を聞いたり、時に戦ったりする中で、平安時代の御降家で起きた真実に迫ろうとする。あの夜、誰が館に火を放ち、誰が紗那を殺し、誰が摩緒に猫鬼を仕向けたのか……謎はなかなか解けない上、摩緒が感情をあまり顔に出さないこともあって、もどかしさを感じる視聴者もいるかもしれない。

ただ、このもどかしさと摩緒のギャップこそ『MAO』の魅力。些細な表情や言動の変化によって、私たちは複雑に絡み合った思惑や恋慕をひとつずつ紐解くことができる。さらに、謎の答えを考察することもできるのだ。また、普段冷静な摩緒が感情に任せて叫ぶ戦闘シーンは強調され、視聴者の胸により刻まれる。私たち自身、もどかしさを覚えつつも冷静に、時には言葉セリフにはらはらして心震わせながら、本作の世界に時間旅行タイムスリップすべきだろう。(郷)


TVアニメ『MAO』全26話は各配信プラットフォームにて配信中


■原作
高橋留美子「MAO」
(小学館「週刊少年サンデー」連載)
■スタッフ
監督:佐藤照雄
シリーズ構成:柿原優子
キャラクターデザイン・総作画監督:菱沼義仁
アニメーション制作:サンライズ