〈書評〉あの首相の功罪両面を見つめる 『安倍晋三 平成・令和の光と闇』
2026.09.16
外交政策に対する評価には、功績と問題点の双方を検証するという筆者の姿勢がよく表れている。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)という壮大なビジョンを浸透させたことを高く評価する一方、北方領土返還交渉ではロシアに譲歩しながら具体的な成果を得られなかったことを厳しく指摘し、安倍の外交を手放しに評価してはいない。
内政についても、強固な政権基盤を背景に長期政権を築き、アベノミクスなどの改革を強力に推進したと評価する一方、その強固な政権基盤と権力の集中が、森友・加計学園問題や「桜を見る会」などをめぐる政治の透明性を損なう側面も生んだと指摘する。また、支持層には手厚い一方で抵抗勢力には容赦しない対峙型の政治スタイルが、社会の分断を深めたという側面にも目を向けている。
回顧録や情報公開制度を通じて得られた文書など、多数の資料に基づいて政治過程を検証している点も本書の強みである。田中角栄や佐藤栄作など、他の政治家の評伝を執筆してきた筆者だからこそ可能な、資料に裏付けられた分析の厚みが本書を支えている。
本書は、安倍晋三という政治家を題材として、平成から令和にかけての日本政治を振り返ることのできる一冊でもある。安倍晋三を知らない将来の世代にとって、本書は安倍晋三という政治家と、彼が首相を務めた平成と令和という時代を知る手がかりとなるだろう。しかし、安倍晋三を知っているつもりになりやすい同世代にこそ本書を読んでほしい。2003年生まれの評者は、小学校中学年から高校生までの多くを安倍政権のもとで過ごした。安倍晋三は歴史上の政治家ではなく、自らの成長とともに存在した身近な政治家であった。だからこそ、同じ感覚を共有するはずの同世代は、その政治を記憶や印象だけで捉えるのではなく、本書を通じて具体的な政策や政治過程に目を向けてほしい。(法)
『安倍晋三 平成・令和の光と闇』
服部龍二著、中央公論新社
2026年、1100円+税
服部龍二著、中央公論新社
2026年、1100円+税
