【検証】総長選考プロセスを問う 第2回 選考会議の組織体制とガバナンス
2026.08.01
京大では、総長選考・監察会議(選考会議)が6月に学内の意向調査で3位だった立川康人氏を選出したことに対し、選考の透明性に疑問の声が上がっている。近年、国は国立大学のガバナンスを強化する政策をとっており、他大学でも同様の事態が相次いでいる。本企画では、選考の透明性や選考会議の組織としてのあり方に問題はないのか、高等教育論を専門とする研究者の見解を聞くとともに、東大の取り組みから改善の方向性を探る。(編集部)
東大 議論受け止め改善へ透明性の向上 具体的に策定
選考会議の公平性・妥当性担保を「ガバナンス強化」国の方向性に疑問
湊長博・現総長の任期満了に伴い、4月6日、選考会議が総長選考の実施を公示した。6月16日、選考会議は2回の面接と意向調査の結果などを「総合的に勘案」し、立川康人氏を次期総長に選出した。立川氏は、学内の意向調査で6人中3位、得票率は21%にとどまった。(法)
2004年の国立大学法人化以前、京大の総長は教員による投票で選ばれていた。法人化に伴い、総長を決定する権限を持つ選考会議が新設された。14年には「学内意向投票」から「意向調査」に名称が変更された。当時、京大は、選考会議が主体的に総長を選考するということを明確にする狙いがあると本紙の取材に答えていた。意向投票は選考会議の判断材料の一つという位置付けが明確化された。
選考会議は、運営方針会議の意見を踏まえて選考基準である「望まれる総長像」を作成し、それに最も相応しい候補者を次期総長に選出する。運営方針会議は、「特に規模の大きい国立大学法人」に設置が義務づけられている機関で、大学の予算や決算の作成などを行い、京大では学外委員が過半数を占める。今回の「望まれる総長像」は、国際的視野や優れた総合的マネジメント能力など、前回と同様の4項目に、卓越大認定に向けて「大学運営の大胆な変革を実現する強い意志と実行力」が加えられた。
選考理由について選考会議は、立川氏が「国際卓越研究大学構想を現場でいかに進めるべきかを熟知している」点や、「対話を重視したリーダーシップを備えている」点などをあげる。しかし、京大の職員組合は、説明が不十分だとし、選考理由の詳細な説明と再意向調査の実施を求めている。再意向調査とは、選考会議の評価が上位の者について学内の意向を再び問うもので、実施は選考会議が判断する。得票上位2名による決戦投票が19年に廃止された際に、新設された。
選考会議の委員は学内・学外委員各6名から構成される。京大によると、学内選考委員は、教育研究評議会委員の中から文系・理系研究科よりそれぞれ2名、独立研究科より1名、研究所・センターより1名推薦し、審議して選出する。学外選考委員は、経営協議会で「委員の多様な分野における知見・経験のバランスを考慮のうえ審議」して選出しているという。なお、経営協議会のメンバーはすべて総長が指名または任命する。
総長選考の仕組みをめぐっては、他の国立大学でも疑問の声があがる事例が起きている。
東大では、20年の総長選考で教職員や元理事から疑義が示されたことを踏まえ、検証委員会による検証を実施。検証を受けて今年度の選考に向けて改善を図ってきた。検証に至る経緯とその後の改善の動きを追い、京大の現在と比較しながら、選考の透明性をどう担保するべきか考える。(悠)
東大の総長選考では、教職員が選出した委員で構成する代議員会での投票後に上位10名以内を推薦し、経営協議会から2名程度の推薦者を加えて、12名程度の第一次候補者を決定する。選考会議は、第一次候補者に面接を含めた調査を行い、第二次候補者を3~5名に絞り込む。教授会構成員が意向投票を行い、選考会議はそれらの結果を考慮して次期総長を決定する。
20年の選考では、第二次候補者は最少の3名で、いずれも理系であった。また、以前は第二次候補者の氏名や資料が学外にも公開されていたが、20年の選考では教職員にのみ通知され、取扱いに留意するよう文言が加えられた。これらを受けて、選考過程の透明性・公平性に対する懸念から、教員有志・元理事らが意見書や質問状を選考会議に提出した。教員有志は、3~5名を第二次候補者に選出できるにもかかわらず、理系に偏向した最少人数の人選を行った理由を尋ね、「投票の選択肢を過度に狭めるものと言わざるを得ない」とした。また、代議員の投票結果の教職員への公表も求めていた。
質問状、意見書の回答の後、意向投票で過半数の票を獲得し、1位となった藤井輝夫氏が次期総長として選出された。
決定後、選考会議長が検証委員会の設置を五神真総長(当時)に提案し、6名の弁護士によって結成した。2か月後に検証委員会が報告書を提出し、藤井氏の選出は妥当と判断したうえで、議事要旨のまとめ方や規程の改正の周知に改善が必要だと結論付けた。
検証委員会の報告を受けて、選考会議の組織検討のため、タスクフォースとワーキンググループが設置された。タスクフォースは、経営協議会や各部局長へのアンケートを行い、学外選考委員の選出方法の透明性確保や、議事運営に関するルールの明確化などを提言した。それらを受けてワーキンググループでは、各項目について具体策を検討し、教育研究評議会・経営協議会に提案した。この過程を経て、総長が学外委員候補者を提案し、経営協議会の了承を得る慣例を見直し、「候補者推薦委員会」が選考基準・手続きを定めたうえで選出する仕組みへと変更したほか、学外委員の再任回数に上限を設けた。
東大の今年度の総長選考では、代議員の投票結果を公表することや、人事に関する場合を除き、具体的な発言を書き起こした議事録をホームページにて公開することが新たに定められた。東大は本紙の取材に「選考プロセスに信頼性を確保し、選考会議の運営の透明性を確保した上で選考を行うため」情報公開を進めているとしている。また、議事録の公開時期につき明確な定めはないが、8月1日時点で、今年度の議事録は6月19日までの4回分が公開されている。東大は、運営方針会議からの選考基準に関する提案内容も公開している。選考会議が策定した選考基準「求められる総長像」案を受けて、運営方針会議が次期総長に必要な資質について意見を述べていた。
京大は、運営方針会議による意見の内容を公表していない。本紙の取材に対し、京大は、運営方針会議が選考会議が作成した選考基準の草案について意見を述べたとしつつ、「それらを踏まえて選考会議が主体的に策定した」と回答するにとどまった。また、書き起こしではなく議題と結論のみを公表している。学内予備投票については、氏名・得票数ともに公表していない。
ほかにも東大では、選考会議が第二次候補者から次期総長を決定する際に「総合的に判断」する事項を明確化したり、「人事に関する意見交換」の議事を除き、経営協議会と教育研究評議会の委員が会議を傍聴することを認めたりして、学内外への説明責任を果たす取り組みを行っている。選考会議が事前に適切と認めた場合には学内構成員の傍聴も可能だ。京大には現在傍聴の制度はない。
選考基準や選考プロセスについては、選考会議が案を提示したうえで、教職員と学生を対象にパブリックコメントで意見を募った。東大は本紙の取材に対し、「十分に意見を聴き、議論が尽くされることが重要」だとし、パブリックコメント導入はその一環だと述べた。なお、京大では学生が選考に関与できる仕組みは導入されていない。
大学運営やガバナンスについて研究している東北大学・広島大学名誉教授の羽田貴史氏に話を聞いた。(悠)
―2004年の国立大の法人化に合わせて、選考会議が総長を選出する現行の仕組みが作られた。国の施策のねらいは。
国立大学では、以前は教員の投票で総長を選んでいましたが、部局ごとの教員数が均等でないため、医学部など教員数の多い部局から総長が選ばれやすいという問題がありました。また、投票で選ばれた総長は学内の意見をバランスよく汲み取らなければならず、部局の改編など大胆な改革は進めにくくなることも考えられます。選考過程を変え、総長の権限を強めようというのがねらいの一つだと思います。
選考制度の変更は学内で人気投票のようになるのを避け、改革を推進するという意味もある一方で、総長の権限が強まることで学内の反対を押し切って改革をすることもできてしまいます。
―2014年には文科省から大学へ「過度に学内の意見に偏るような選考方法は社会の意見を反映させる仕組みとして適切でない」との通知があった。学内の意見はどの程度考慮すべきか。
わずか10数名の選考会議で、望まれる総長像と総長を決めるというのは乱暴だと思います。本来、望まれる総長像は、学内の利害関係を明確にした上で、大学のあり方という視点で決めるべきです。学生や投票権のない教職員を含めて、より広く学内の意見を徴することが大事です。アメリカの大学では、理事会が学長の決定権を持ちますが、学長候補のリストアップに調査委員会を設けるのが普通であり、90%近い大学で委員会に教員が入ります。意思決定の責任をもつ理事会は、社会から大学に対する介入を防ぐゲートキーパーであると同時に、地域社会に責任をもつ大学運営を行い、外からの風通しを良くする役割があります。日本の大学でも、経営協議会はそうした使命を持つはずですし、役割をもつ執行部全体を統御する能力が総長に求められていると思います。
―京大の「望まれる総長像」についての所感は。
大学の使命である「学問のバランスある発展」や「学問の自由を守る」という視点が欠けていると思います。京大は日本のトップ大学の一つなので、京大の利益だけでなく、あらゆる学問分野のバランスの取れた発展を目指さなければなりません。さらに、日本の大学全体の健全な発展を維持するという視点も必要です。今回の選考に際して発表された総長像は、全体の発展ではなく自大学の利益を追求するという点で、企業のトップ像に似ています。
―意向調査で3位の人物が選ばれたことに疑問の声が上がっている。
法人化以前は学内投票で総長が決まっていたため、選考会議が決めるという新たな仕組みに違和感があるのかもしれません。規程で意向調査の位置付けが明確になっていないという問題もあります。ただ、京大の規程を見ると、意向調査の結果に基づいて総長を選ぶと定められてはいないので、3位だからおかしいというわけでもないと思います。そもそも意向調査の投票権は、任期付き教員や助教に与えられていません。だから、意向調査の結果が学内の意見をそのまま反映しているともいえないのです。3位が選ばれたという結果だけでなく、選考の仕組みも含めて問題にしていかなければいけないと思います。
―京大の総長選考過程についての所感は。
規程を見る限り、選考会議が大きな権限をもつにもかかわらず、選考会議委員の選び方が非常に不透明だという印象です。学外委員は企業や産業界の人に偏っており、文化人や大学の教職員は少ないです。メンバーの中にバランスよく色々な組織や機関の代表を含めたのかが明らかにされていないので、選考会議が公平なものかが問題になります。
特に、学外委員を選出母体となる経営協議会の委員を、総長が指名することが問題だと思います。なぜ大学の総長を客観的に選ぶ能力を有すると判断したのかという証明が特になく、選考会議委員の見識妥当性が論証されていません。プロセスの透明化をするなら、まず選考会議委員を選ぶ経営協議会委員の選出から明確にしていくことが必要だと思います。
また、選考会議委員と候補者との利益相反関係がないかを確認する規程がありません。選考会議委員の基本的な役割や求められる資質の中に、利益相反関係の排除は明記されるべきです。選出の手続きだけでなく、「望まれる選考会議委員像」も決めなければならないと思います。
―選考会議には総長を監察する役割もある。
選考会議は、総長を監察する機能も持ち、場合によっては解任する権限をもちます。しかし、選考会議は、総長が選んだ経営協議会の委員が半数を占めるため、総長の監察や解任を適切に判断できるとは思えません。選考会議の組織とは全く別で、総長のリコール制度を作るべきだと思います。
―選考に関する情報公開はどこまですべきか。
会議で誰が何を発言したかを記録した議事録は事後的に公開すべきだと思います。京大が現在公表している議事録は、議事要旨のみで、「情報公開をしている」というアリバイ作りのためだけに公開しているように見えます。
ただし、議事録には人事評価を含むので、選考が終わった直後に公開するのは適切ではないと思います。総長の任期満了に合わせて6年後など、一定の時間が経ったら一切制限なしに公開するべきです。将来的に議事録を公開することで、一人ひとりの選考委員が、選考や発言に伴う責任をより自覚することが期待できます。
―大学のガバナンス改革の背景は。
国立大学の法人化は行政改革の一環で、大学に自主性をもたせるという前向きな狙いがありました。その後、第二次安倍内閣の2013年の骨太方針のなかで、国立大学をイノベーションの道具として位置づけた上で、「選択と集中」が打ち出されました。政策の中には大学の活性化や評価による資源配分もあり、これらを具現化するために、教授会の権限の縮小などが行われました。
―大学の自治とガバナンス改革の両立は可能か。
大学の自治には、機関の自治と内部構成員の自治の2種類があります。機関の自治とは、大学として政府や外部団体から独立し、自主的に運営することを言います。内部構成員の自治は、学内の構成員が部局や教授会などをそれぞれ自主的に運営することです。
アメリカではシェアド・ガバナンスと言って、教育研究に関する運営は教員が責任をもち、資源配分や財政に関する運営は管理職である総長が責任をもちます。両者が競合する事項については、教員と大学執行部が意見を交わして調整し、合意形成を図ります。一方日本では、「ガバナンス改革」の名目で、内部自治を弱め、総長の権限を強めるという方策が取られています。私はこの方策自体がそもそも間違っていると思っており、海外の事例をきちんと理解しないまま進んでいると危惧しています。
合意形成をうまくできるようにするためのガバナンス改革なので、海外の事例をきちんと理解しないまま、内部構成員の自治を弱め、総長の権限を強めるという考え方自体がそもそも違っているのではないかと思います。
国立大学は運営費交付金を削られて主体的に意思決定できない状態になりつつあり、機関の自治も制約されています。2つの自治を制約していい方向に動いているとは思えません。
―国立大学協会が策定している国立大学法人ガバナンス・コード(*)は機能しているのか。
機能していないと思います。ガバナンス・コードは内閣府の要請により作られ、大学運営を画一化し、大学の生命線である学問の自由の尊重など重要な原則を明記していません。欧米諸国の大学にこのようなものはありません。多くの職員がガバナンス遵守を評価するために時間を割いており、大学の現場に負担をかけているため本末転倒だと思います。
―営利団体である民間企業と、大学のガバナンスには本来違いがある。民間企業で求められるガバナンスを大学に適用することについてはどう考えるか。
本来利益追求が目的ではない大学に、企業のガバナンスを持ち込んでいることが問題です。さらに、アメリカのコーポレート・ガバナンスを手本としていることも問題を複雑にしています。アメリカでも、企業的なガバナンスは、公共セクターとしての大学の機能と役割に反すると批判されています。
―国立大学のガバナンス改革の問題点は。
国が現在進めている「国立大学のガバナンス改革」にはガバナンスとマネジメントの施策が混同しています。権限をどう配分するか、というのがガバナンスです。実際に権限をもって何を実現するかと、合意をどうやって形成し運営するかはマネジメントの領域です。改革に賛成の人も反対の人も、ガバナンスさえ決めれば何でもできると思っているのは間違いだと思います。ガバナンスを強化して、総長が学内の反対を押し切ってでもリーダーシップを発揮することを重視するよりは、教授会など内部も説得して、ある程度合意を得られる方法をとる必要があるのではないかと思います。
「選択と集中」により、各大学が「自分たちさえ生き残ればいい」となり、大学全体について責任をもたなくなったことも、乱暴な方策がどんどん通る要因になっていると思います。国立大学が主体的に、大学の自治と学問の自由を守るスタンスを示していかなければならないと思います。
―ありがとうございました。(聞き手:悠・法・史)
目次
今回の総長選考を振り返る東大 議論受け止め改善へ透明性の向上 具体的に策定
選考会議の公平性・妥当性担保を「ガバナンス強化」国の方向性に疑問
今回の総長選考を振り返る
湊長博・現総長の任期満了に伴い、4月6日、選考会議が総長選考の実施を公示した。6月16日、選考会議は2回の面接と意向調査の結果などを「総合的に勘案」し、立川康人氏を次期総長に選出した。立川氏は、学内の意向調査で6人中3位、得票率は21%にとどまった。(法)
2004年の国立大学法人化以前、京大の総長は教員による投票で選ばれていた。法人化に伴い、総長を決定する権限を持つ選考会議が新設された。14年には「学内意向投票」から「意向調査」に名称が変更された。当時、京大は、選考会議が主体的に総長を選考するということを明確にする狙いがあると本紙の取材に答えていた。意向投票は選考会議の判断材料の一つという位置付けが明確化された。
選考会議は、運営方針会議の意見を踏まえて選考基準である「望まれる総長像」を作成し、それに最も相応しい候補者を次期総長に選出する。運営方針会議は、「特に規模の大きい国立大学法人」に設置が義務づけられている機関で、大学の予算や決算の作成などを行い、京大では学外委員が過半数を占める。今回の「望まれる総長像」は、国際的視野や優れた総合的マネジメント能力など、前回と同様の4項目に、卓越大認定に向けて「大学運営の大胆な変革を実現する強い意志と実行力」が加えられた。
選考理由について選考会議は、立川氏が「国際卓越研究大学構想を現場でいかに進めるべきかを熟知している」点や、「対話を重視したリーダーシップを備えている」点などをあげる。しかし、京大の職員組合は、説明が不十分だとし、選考理由の詳細な説明と再意向調査の実施を求めている。再意向調査とは、選考会議の評価が上位の者について学内の意向を再び問うもので、実施は選考会議が判断する。得票上位2名による決戦投票が19年に廃止された際に、新設された。
選考会議の委員は学内・学外委員各6名から構成される。京大によると、学内選考委員は、教育研究評議会委員の中から文系・理系研究科よりそれぞれ2名、独立研究科より1名、研究所・センターより1名推薦し、審議して選出する。学外選考委員は、経営協議会で「委員の多様な分野における知見・経験のバランスを考慮のうえ審議」して選出しているという。なお、経営協議会のメンバーはすべて総長が指名または任命する。
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東大 議論受け止め改善へ 透明性の向上 具体的に策定
総長選考の仕組みをめぐっては、他の国立大学でも疑問の声があがる事例が起きている。
東大では、20年の総長選考で教職員や元理事から疑義が示されたことを踏まえ、検証委員会による検証を実施。検証を受けて今年度の選考に向けて改善を図ってきた。検証に至る経緯とその後の改善の動きを追い、京大の現在と比較しながら、選考の透明性をどう担保するべきか考える。(悠)
20年の選考の経緯
東大の総長選考では、教職員が選出した委員で構成する代議員会での投票後に上位10名以内を推薦し、経営協議会から2名程度の推薦者を加えて、12名程度の第一次候補者を決定する。選考会議は、第一次候補者に面接を含めた調査を行い、第二次候補者を3~5名に絞り込む。教授会構成員が意向投票を行い、選考会議はそれらの結果を考慮して次期総長を決定する。
20年の選考では、第二次候補者は最少の3名で、いずれも理系であった。また、以前は第二次候補者の氏名や資料が学外にも公開されていたが、20年の選考では教職員にのみ通知され、取扱いに留意するよう文言が加えられた。これらを受けて、選考過程の透明性・公平性に対する懸念から、教員有志・元理事らが意見書や質問状を選考会議に提出した。教員有志は、3~5名を第二次候補者に選出できるにもかかわらず、理系に偏向した最少人数の人選を行った理由を尋ね、「投票の選択肢を過度に狭めるものと言わざるを得ない」とした。また、代議員の投票結果の教職員への公表も求めていた。
質問状、意見書の回答の後、意向投票で過半数の票を獲得し、1位となった藤井輝夫氏が次期総長として選出された。
決定後、選考会議長が検証委員会の設置を五神真総長(当時)に提案し、6名の弁護士によって結成した。2か月後に検証委員会が報告書を提出し、藤井氏の選出は妥当と判断したうえで、議事要旨のまとめ方や規程の改正の周知に改善が必要だと結論付けた。
選考会議の組織体制 改善へ
検証委員会の報告を受けて、選考会議の組織検討のため、タスクフォースとワーキンググループが設置された。タスクフォースは、経営協議会や各部局長へのアンケートを行い、学外選考委員の選出方法の透明性確保や、議事運営に関するルールの明確化などを提言した。それらを受けてワーキンググループでは、各項目について具体策を検討し、教育研究評議会・経営協議会に提案した。この過程を経て、総長が学外委員候補者を提案し、経営協議会の了承を得る慣例を見直し、「候補者推薦委員会」が選考基準・手続きを定めたうえで選出する仕組みへと変更したほか、学外委員の再任回数に上限を設けた。
透明性高める取り組み
東大の今年度の総長選考では、代議員の投票結果を公表することや、人事に関する場合を除き、具体的な発言を書き起こした議事録をホームページにて公開することが新たに定められた。東大は本紙の取材に「選考プロセスに信頼性を確保し、選考会議の運営の透明性を確保した上で選考を行うため」情報公開を進めているとしている。また、議事録の公開時期につき明確な定めはないが、8月1日時点で、今年度の議事録は6月19日までの4回分が公開されている。東大は、運営方針会議からの選考基準に関する提案内容も公開している。選考会議が策定した選考基準「求められる総長像」案を受けて、運営方針会議が次期総長に必要な資質について意見を述べていた。
京大は、運営方針会議による意見の内容を公表していない。本紙の取材に対し、京大は、運営方針会議が選考会議が作成した選考基準の草案について意見を述べたとしつつ、「それらを踏まえて選考会議が主体的に策定した」と回答するにとどまった。また、書き起こしではなく議題と結論のみを公表している。学内予備投票については、氏名・得票数ともに公表していない。
ほかにも東大では、選考会議が第二次候補者から次期総長を決定する際に「総合的に判断」する事項を明確化したり、「人事に関する意見交換」の議事を除き、経営協議会と教育研究評議会の委員が会議を傍聴することを認めたりして、学内外への説明責任を果たす取り組みを行っている。選考会議が事前に適切と認めた場合には学内構成員の傍聴も可能だ。京大には現在傍聴の制度はない。
選考基準や選考プロセスについては、選考会議が案を提示したうえで、教職員と学生を対象にパブリックコメントで意見を募った。東大は本紙の取材に対し、「十分に意見を聴き、議論が尽くされることが重要」だとし、パブリックコメント導入はその一環だと述べた。なお、京大では学生が選考に関与できる仕組みは導入されていない。
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選考会議の公平性・妥当性担保を「ガバナンス強化」国の方向性に疑問
大学運営やガバナンスについて研究している東北大学・広島大学名誉教授の羽田貴史氏に話を聞いた。(悠)
選考方法変更 改革推進ねらい
―2004年の国立大の法人化に合わせて、選考会議が総長を選出する現行の仕組みが作られた。国の施策のねらいは。
国立大学では、以前は教員の投票で総長を選んでいましたが、部局ごとの教員数が均等でないため、医学部など教員数の多い部局から総長が選ばれやすいという問題がありました。また、投票で選ばれた総長は学内の意見をバランスよく汲み取らなければならず、部局の改編など大胆な改革は進めにくくなることも考えられます。選考過程を変え、総長の権限を強めようというのがねらいの一つだと思います。
選考制度の変更は学内で人気投票のようになるのを避け、改革を推進するという意味もある一方で、総長の権限が強まることで学内の反対を押し切って改革をすることもできてしまいます。
―2014年には文科省から大学へ「過度に学内の意見に偏るような選考方法は社会の意見を反映させる仕組みとして適切でない」との通知があった。学内の意見はどの程度考慮すべきか。
わずか10数名の選考会議で、望まれる総長像と総長を決めるというのは乱暴だと思います。本来、望まれる総長像は、学内の利害関係を明確にした上で、大学のあり方という視点で決めるべきです。学生や投票権のない教職員を含めて、より広く学内の意見を徴することが大事です。アメリカの大学では、理事会が学長の決定権を持ちますが、学長候補のリストアップに調査委員会を設けるのが普通であり、90%近い大学で委員会に教員が入ります。意思決定の責任をもつ理事会は、社会から大学に対する介入を防ぐゲートキーパーであると同時に、地域社会に責任をもつ大学運営を行い、外からの風通しを良くする役割があります。日本の大学でも、経営協議会はそうした使命を持つはずですし、役割をもつ執行部全体を統御する能力が総長に求められていると思います。
選考委員の選出に透明性を
―京大の「望まれる総長像」についての所感は。
大学の使命である「学問のバランスある発展」や「学問の自由を守る」という視点が欠けていると思います。京大は日本のトップ大学の一つなので、京大の利益だけでなく、あらゆる学問分野のバランスの取れた発展を目指さなければなりません。さらに、日本の大学全体の健全な発展を維持するという視点も必要です。今回の選考に際して発表された総長像は、全体の発展ではなく自大学の利益を追求するという点で、企業のトップ像に似ています。
―意向調査で3位の人物が選ばれたことに疑問の声が上がっている。
法人化以前は学内投票で総長が決まっていたため、選考会議が決めるという新たな仕組みに違和感があるのかもしれません。規程で意向調査の位置付けが明確になっていないという問題もあります。ただ、京大の規程を見ると、意向調査の結果に基づいて総長を選ぶと定められてはいないので、3位だからおかしいというわけでもないと思います。そもそも意向調査の投票権は、任期付き教員や助教に与えられていません。だから、意向調査の結果が学内の意見をそのまま反映しているともいえないのです。3位が選ばれたという結果だけでなく、選考の仕組みも含めて問題にしていかなければいけないと思います。
―京大の総長選考過程についての所感は。
規程を見る限り、選考会議が大きな権限をもつにもかかわらず、選考会議委員の選び方が非常に不透明だという印象です。学外委員は企業や産業界の人に偏っており、文化人や大学の教職員は少ないです。メンバーの中にバランスよく色々な組織や機関の代表を含めたのかが明らかにされていないので、選考会議が公平なものかが問題になります。
特に、学外委員を選出母体となる経営協議会の委員を、総長が指名することが問題だと思います。なぜ大学の総長を客観的に選ぶ能力を有すると判断したのかという証明が特になく、選考会議委員の見識妥当性が論証されていません。プロセスの透明化をするなら、まず選考会議委員を選ぶ経営協議会委員の選出から明確にしていくことが必要だと思います。
また、選考会議委員と候補者との利益相反関係がないかを確認する規程がありません。選考会議委員の基本的な役割や求められる資質の中に、利益相反関係の排除は明記されるべきです。選出の手続きだけでなく、「望まれる選考会議委員像」も決めなければならないと思います。
―選考会議には総長を監察する役割もある。
選考会議は、総長を監察する機能も持ち、場合によっては解任する権限をもちます。しかし、選考会議は、総長が選んだ経営協議会の委員が半数を占めるため、総長の監察や解任を適切に判断できるとは思えません。選考会議の組織とは全く別で、総長のリコール制度を作るべきだと思います。
―選考に関する情報公開はどこまですべきか。
会議で誰が何を発言したかを記録した議事録は事後的に公開すべきだと思います。京大が現在公表している議事録は、議事要旨のみで、「情報公開をしている」というアリバイ作りのためだけに公開しているように見えます。
ただし、議事録には人事評価を含むので、選考が終わった直後に公開するのは適切ではないと思います。総長の任期満了に合わせて6年後など、一定の時間が経ったら一切制限なしに公開するべきです。将来的に議事録を公開することで、一人ひとりの選考委員が、選考や発言に伴う責任をより自覚することが期待できます。
自治と自由 大学は主張を
―大学のガバナンス改革の背景は。
国立大学の法人化は行政改革の一環で、大学に自主性をもたせるという前向きな狙いがありました。その後、第二次安倍内閣の2013年の骨太方針のなかで、国立大学をイノベーションの道具として位置づけた上で、「選択と集中」が打ち出されました。政策の中には大学の活性化や評価による資源配分もあり、これらを具現化するために、教授会の権限の縮小などが行われました。
―大学の自治とガバナンス改革の両立は可能か。
大学の自治には、機関の自治と内部構成員の自治の2種類があります。機関の自治とは、大学として政府や外部団体から独立し、自主的に運営することを言います。内部構成員の自治は、学内の構成員が部局や教授会などをそれぞれ自主的に運営することです。
アメリカではシェアド・ガバナンスと言って、教育研究に関する運営は教員が責任をもち、資源配分や財政に関する運営は管理職である総長が責任をもちます。両者が競合する事項については、教員と大学執行部が意見を交わして調整し、合意形成を図ります。一方日本では、「ガバナンス改革」の名目で、内部自治を弱め、総長の権限を強めるという方策が取られています。私はこの方策自体がそもそも間違っていると思っており、海外の事例をきちんと理解しないまま進んでいると危惧しています。
合意形成をうまくできるようにするためのガバナンス改革なので、海外の事例をきちんと理解しないまま、内部構成員の自治を弱め、総長の権限を強めるという考え方自体がそもそも違っているのではないかと思います。
国立大学は運営費交付金を削られて主体的に意思決定できない状態になりつつあり、機関の自治も制約されています。2つの自治を制約していい方向に動いているとは思えません。
―国立大学協会が策定している国立大学法人ガバナンス・コード(*)は機能しているのか。
機能していないと思います。ガバナンス・コードは内閣府の要請により作られ、大学運営を画一化し、大学の生命線である学問の自由の尊重など重要な原則を明記していません。欧米諸国の大学にこのようなものはありません。多くの職員がガバナンス遵守を評価するために時間を割いており、大学の現場に負担をかけているため本末転倒だと思います。
*国立大学法人ガバナンス・コード
2018年6月閣議決定「統合イノベーション戦略」に基づいて、文部科学省・内閣府・国立大学協会が連名で定めたガバナンスのガイドライン。20年に策定された。法的拘束力はなく、各法人は自己点検により毎年の適合状況を公開している。
2018年6月閣議決定「統合イノベーション戦略」に基づいて、文部科学省・内閣府・国立大学協会が連名で定めたガバナンスのガイドライン。20年に策定された。法的拘束力はなく、各法人は自己点検により毎年の適合状況を公開している。
―営利団体である民間企業と、大学のガバナンスには本来違いがある。民間企業で求められるガバナンスを大学に適用することについてはどう考えるか。
本来利益追求が目的ではない大学に、企業のガバナンスを持ち込んでいることが問題です。さらに、アメリカのコーポレート・ガバナンスを手本としていることも問題を複雑にしています。アメリカでも、企業的なガバナンスは、公共セクターとしての大学の機能と役割に反すると批判されています。
―国立大学のガバナンス改革の問題点は。
国が現在進めている「国立大学のガバナンス改革」にはガバナンスとマネジメントの施策が混同しています。権限をどう配分するか、というのがガバナンスです。実際に権限をもって何を実現するかと、合意をどうやって形成し運営するかはマネジメントの領域です。改革に賛成の人も反対の人も、ガバナンスさえ決めれば何でもできると思っているのは間違いだと思います。ガバナンスを強化して、総長が学内の反対を押し切ってでもリーダーシップを発揮することを重視するよりは、教授会など内部も説得して、ある程度合意を得られる方法をとる必要があるのではないかと思います。
「選択と集中」により、各大学が「自分たちさえ生き残ればいい」となり、大学全体について責任をもたなくなったことも、乱暴な方策がどんどん通る要因になっていると思います。国立大学が主体的に、大学の自治と学問の自由を守るスタンスを示していかなければならないと思います。
―ありがとうございました。(聞き手:悠・法・史)



