文化

映画評論 Season 2 第13回 映画界における不変のジェンダー格差 『美しく、黙りなさい

2026.08.01

映画評論 Season 2 第13回 映画界における不変のジェンダー格差 『美しく、<s>黙りなさい</s>』

カメラを向けるセリッグ ©Archives Atalante and Roussopoulos Family Archives / Centre audiovisuel Simone de Beauvoir

【寄稿】ミツヨ・ワダ・マルシアーノ 教育改革戦略本部特定教授

デルフィーヌ・セリッグは、『去年マリエンバートで』(1961)で謎めいた主人公を演じ、『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(75)では主婦と娼婦を快演した女優だ。彼女が『ジャンヌ・ディエルマン』製作直後、アメリカとフランスで活躍する23名の女優にインタビューしたのが本ドキュメンタリー『美しく、黙りなさい』である。原題は女性差別を象徴する常套句だが、日本の配給会社は取り消し線を加えることで、「黙れ」という圧力に対し「黙らない」という女性の意思を強調している。50年前に製作された本作品が修復され、フランス本国でも話題を呼んだ。珍しい記録として価値があるだけでなく、今見ることによって、現代社会の女性の立場を再考する契機となる映画だ。

2つの質問


75年夏、彼女はパリからロサンゼルスへ向かい、撮影担当のキャロル・ルッソプロスと二人だけで、アカデミー賞を受賞した大女優から、テレビで商業的な仕事しかしていない女優まで、幅広い経験をもつ女優たちへインタビューを行った。本作は、数々のインタビューを通して、当時女優はどういう役割を担わされていたのか、また映画界がどういった空間だったのかを伝えている。ジェンダー格差について語ること自体がリスクの高かった70年代半ば、セクシャルあるいはパワー・ハラスメントが取りざたされていなかった時代にも関わらず、彼女たちがカメラに向かって投げかける言葉には、多くの真実が含まれている。セリッグが用意したインタビューの質問は「もしあなたが男性だったとしても、この職業を選ぶか?」「他の女性と友好的な場面を演じたことがあるか?」の2つだ。多くの女優は「選ばない」と答え、またほとんどの女優が「女性同士の友好的な場面を演じたことがない」と答えている。

フォンダの中のホモフォビア


23名の女優の中でも、ジェーン・フォンダの声は一際大きく、終始流暢なフランス語で対応する。彼女の発言の中で注目されるのは、77年に公開が予定されていたハリウッド映画『ジュリア』で描かれた二人の女性、リリアンとジュリアの友情についてである。リリアンを演じたフォンダは、この作品こそが「他の女性と友好的な場面を演じた」唯一の作品であり、それ以外には考えられないと言う。『ジュリア』は、二人の女性が惹かれ合う様子が描かれていながらも、フォンダは、二人の関係が決してレズビアンのそれではないことを強調する。ジェンダー闘争の先駆けともいえる75年という時代に、男性優位のハリウッドが女優の立ち位置を抑圧していただけでなく、ジェンダー・マイノリティに対する抑圧も大きかったこと、それも、フォンダのように革新的だと見なされていた女性の心にさえ大きく影響を与えていたことに気づく瞬間である。

40年代 VS. 70年代


一方、アカデミー賞で作品賞を獲得した『アパートの鍵貸します』(60)で話題を呼んだシャーリー・マクレーンは、ハリウッド映画における男女格差の歴史的変遷に言及する。40年代、ヘイズ・コード(アメリカ映画産業による自主規制の規則)期には、むしろ素晴らしい女性映画が台頭したと彼女は主張する。「ロザリンド・ラッセルやジョーン・クロフォードたちは、セックスアピールのある女性でありながらも、男性的なところもあり、市長や銀行の頭取、政治家を演じた」。その理由は、ヘイズ・コードのせいで、ベッドルームでの女性の裸体が撮影できなかった分、当時の脚本家たちは、寝室の外にいる女性を描かざるをえず、結果女性の描き方に厚みが出たのだと言う。対してヘイズ・コードの終焉(68)以降のハリウッドは、「全て男がスタジオを仕切り、脚本を書き、監督し、プロデュースしている。彼らのファンタズムは寝室の女を見ることとなり、検閲の自由化は裏目に出た」と話す。

映画は男性のためのもの


72年にベルナルド・ベルトルッチが製作した『ラストタンゴ・イン・パリ』に抜擢され、マーロン・ブランドとの共演で一躍世界中の注目を浴びたマリア・シュナイダーも、女優としての立ち位置に懐疑的だ。「統合失調症、狂った女、レズビアン、人殺しとかの役ばっかり、そういうのはもううんざり」。『ラストタンゴ・イン・パリ』でのスキャンダルが尾を引き、その後映画界から干された彼女は、ドラッグ問題を抱え自殺未遂を図っている。「プロデューサーも技術者も演出家もほぼ男性、報道関係者も大半が男性、エージェントも男性、脚本を渡して助言するのも男性、指揮を執るのも男性、だから扱うテーマも男性のためのもの」と、シュナイダーは吐き捨てるように語る。

半世紀前の声への共感


本作品が製作されてから50年が過ぎたが、果たして何か大きな変化があったと言えるだろうか?日本では、2022年に「ACTION 4 CINEMA(日本版CNC設立を求める会)」という有志団体が、是枝裕和監督らを発起人として発足した。その主な活動目的は、映画産業を公的に支援する国家機関──日本版CNC(国立映画映像センター)──の設立と共に、労働環境の改善とハラスメントの防止である。ハラスメントの多くが、監督やプロデューサーといった「地位のある男性」から、「仕事を求める女性」へ向けられるものであることは周知の事実である。日本版CNCが設立されたとしても、ジェンダー格差を全て解決するのは無理かもしれない。現状の業界の歪みを正す方法は、最終的には女性自身が自分に課された不平等に対し、黙ることなく主張し続ける以外にないのかもしれない。それができる主体が、それを助長する動きが、現在の日本社会にどれだけ見受けられるだろうか?本作品における半世紀前の声は、残念ではあるけれども、今も共感せずにはいられない。

原題 Sois belle et tais-toi
監督 デルフィーヌ・セリッグ
京都では京都シネマにて8月7日から公開予定
上映時間 112分

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