ニュース

京大 吉田寮現棟建替方針を説明 建替と敷地転用の妥当性を強調

2026.08.01

京大 吉田寮現棟建替方針を説明 建替と敷地転用の妥当性を強調

吉田寮現棟の玄関。現在はフェンスが設置されている(3月16日撮影)

7月29日、京大は4月に発表した吉田寮現棟の建替方針について記者説明会を実施した。説明会で國府寛司・学生担当理事は「現棟の敷地を寮生のみで占有するのは適切ではない」と述べたが、「建替は寮機能を完全に失わせるものではない」と強調した。和解成立後の建替発表を「騙し討ち」とする批判に対しては「そう言う気持ちも分からなくはない」としながらも、▼和解との整合性▼方針決定プロセスの妥当性を主張した。また、建替後に生じるとされる敷地は方針通り、「キャンパス空間の質的向上に向けて有効活用する」と述べた。

なお、今回の記者説明会は本紙が記者クラブを通じて京大に実施を求めたものである。

【和解成立までの経緯】

吉田寮は1913年築の現棟と2015年築の新棟、1889年築で2015年に補修された食堂から成り、今年4月時点で新棟には約百名が居住する。京大は遅くとも1980年代後半から現棟の老朽化を指摘しており、17年には京大は「吉田寮生の安全確保についての基本方針」を発出した。この中で京大は、現棟の耐震性の低さを指摘し、新棟に住む寮生も含めた全寮生に退去を求めた。

川添信介・学生担当理事(当時)は18年夏に寮自治会との交渉を打ち切り、19年2月12日に京大は「吉田寮の今後のあり方について」を発表。その中で、新棟からの退去要求を一部撤回し新棟入居の条件を提示しながらも、寮自治会の運営実態を「到底容認できない」とし、それ以降、京大は寮自治会を認めていない。

同月20日に寮自治会は現棟からの退去案を提示したものの、京大はこれに応じず、4月と翌年3月に寮生計45名を相手取って現棟の明け渡しを求める訴訟を起こした。24年2月の一審では寮生が一部勝訴し、耐震性の低さなどを理由に退去を求める京大の主張は退けられた。昨年8月には控訴審で和解が成立した。

昨年8月に大阪高裁で成立した和解では、▼寮生が現棟を25年度末までに明け渡すこと▼京大が5年以内に現棟の耐震工事(建替工事を含む)を終わらせるよう努めること▼京大は工事終了後に在寮資格がある寮生の再入居を認めること、などが決められており、これに従って寮生は3月末に現棟から一時退去した。4月14日には京大が現棟の建替方針を発表。これに対し吉田寮自治会は4月、「一切の話し合いもなく一方的に発出されたもので、受け入れられない」と反発したほか、学内からは、和解・確約との整合性や、方針決定プロセスを疑問視する声が上がっていた。一方、提訴時に学生担当理事を務めた川添信介氏(現・福知山公立大学長)は今月3日、本紙の取材に対して「危険な現棟から学生が退去したことは、ともかくもよかった」「現棟の建替は妥当」と京大の方針を評価した。

建替方針の説明


國府理事は説明会で、「現棟を建て替えずに補修することはもちろん可能」としながらも、吉田食堂の3倍以上に及ぶという現棟の「広大な敷地を寮生のみで占有するのは適切ではない」と主張。「現代の学生寄宿舎として相応しくするためには建て替えざるを得ない」とした上で、補修の見積もりをせずに建替を決定したと明かした。建替で生じるとされる敷地は「キャンパス空間の質的向上に向けて有効活用する」と述べ、現棟の今後のあり方を「寮関係者のみならず全学的な課題」と位置付けた。また、現棟の建替は吉田寮の機能を完全に失わせるものではないと強調。今後の計画として、和解条項内の「耐震工事(建替工事を含む)」について「5年以内の完了は努力目標だ」とした上で、年度内に状況を進展させる意向を見せた。

建替後の新しい寮施設について理事は、高層化などで敷地を縮小しつつ現棟と同規模の収容定員を維持できると説明した。京大は建替方針において「建築物としての歴史的経緯に配慮する」としているが、理事は「具体的には全く決まっていない」と述べ、配慮方法や新しい寮施設の構想については和解が成立した寮生との話し合いもあり得るとした。なお関係者への取材で、方針決定時の部局長会議で國府理事が、玄関などの象徴的な部分を移築する可能性を個人的に挙げたことが分かっている。

敷地の具体的な転用方法についても未定だとしつつ、緊急車両入構路の重要性に言及した。ただ敷地の転用は副次的な方針であり、建替の主目的はあくまでも寮生の安全確保だと強調した。なお、緊急車両入構路に相当する通路の確保は、09年に京大が寮自治会に提示した吉田南構内の整備方針案の時点で既に言及があり、19年に京大が発出した「吉田寮の今後のあり方について」では寮生の安全確保の「前提」とされている。

吉田南構内の地図。中央の黒い線が京大が提示する緊急車両入構路の案(説明会資料をもとに編集部作成)



和解・確約との整合性は


和解成立後に寮自治会・寮生と話し合いを持たずに発出された建替方針を「騙し討ち」とする批判に対して理事は「そう言う気持ちも分からなくはない」としつつも、「寮自治会を認めていないため寮自治会と議論することはできない」と説明。法務室職員は「和解は京大と個々の寮生との間で成立したもので、寮自治会との間で成立したものではない」として、寮自治会との対話の必要性を否定。加えて「和解協議の中で建替の可能性は被告寮生に伝えており、寮生も理解している」「不意打ちではない」と述べた。寮自治会は本紙の取材に対し、「建替はあくまで選択肢の一つ」とし、「当事者と意思疎通せずに決定事項にすり替えられることに強く抗議する」と回答した。

訴訟前から寮自治会は、京大執行部の学生担当との間で確約書を作成してきた。確約書では▼寮関係事項の決定に両者の話し合いや合意を求めること▼現棟の補修が有効手段だと両者が認めること、などが記載されている。川添氏は18年、学生担当理事として「確約書は、京大の正式な機関決定を経ずに異常な団体交渉で署名されたもの」「確約書に拘束されることはない」と主張。一審判決では、この主張は退けられ確約書の有効性が認められたが、法務室職員は今回の説明会で「一審判決には問題がある。控訴した時点で法的拘束力はない」とし、確約書の有効性を否定した。また、川添氏は今月3日の本紙の取材に対し、18年の主張を保持する見解を示した。

京大と関係者への取材で、建替方針は4月14日の部局長会議と役員会で可決された後、教授会や寮に関する事項を扱う学生生活委員会での審議を経ずに即日発表されたことがわかっている。本紙の4月の取材において複数の教員が、「委員会の審議・熟議を経て部局長会議に諮るべき」「委員会で審議しないことは理解に苦しむ」と批判していた。

理事は説明会で、「方針決定や敷地活用は、大学が自らの責任において判断すべき」とした上で、「部局長会議、役員会という『全学会議』を経て、大学として主体的に意思決定をした」と説明した。関係者によると、5月の教育研究評議会で國府理事が、「敷地の活用方針は全学的な問題で、学生の補導を担う学生生活委員会の管轄ではない」と説明したという。

本紙の取材に対し川添氏は「学内合意を形成しながら総長が決定する方が妥当だという見方は可能」としつつも、「長期にわたる議論の推移を考えると、学内の合意形成は極めて困難であり、今回の総長の決定はやむを得ない」と建替方針の決定を擁護した。

新棟の扱いは


新棟への居住の条件は19年の「あり方」に提示されているが、理事は「条件を満たす学生は19年時点では現れなかった」と述べ、この方針は今後も京大の方針の基礎になるとした。京大は「あり方」以降、寮自治会を認めておらず、本紙の取材に対して「吉田寮を不法に占拠する者達」と表現している。

寮自治会は本紙4月1日号の取材で、「あり方」にある新棟居住条件のうち、▼水道光熱費を含めた寄宿料の一括納入制から個別納入制への移行▼寮生による入寮募集の禁止、に注目。個別納入制への移行により入寮時期の区分に基づく寄宿料の値上げが容易になるとして、全ての寮生が同じ負担のもとで同じ福利厚生を利用できるべきだと主張している。

一方の京大は説明会で「個人が利用量に応じた水道光熱費を支払うのは当然」とした。入寮募集については、「大学の寮であるため、京大が入寮者を決めるのは当たり前」とした上で「入寮名簿にない人の居住実態が見られるなど、寮自治会による入寮名簿に信頼性がない」として問題視した。

敷地転用について全学アンケート 建替の是非は問わず


京大は28日、全学生・全教職員を対象にした「吉田寮現棟敷地活用に関するアンケート」をグーグルフォームにて開始した。アンケートは建替後に生じるとされる敷地の転用方針について学内の意見を徴収するもの。建替方針が前提にあり、方針の是非を問う設問はない。回答期日は10月16日。

設問は大きく3つに分かれており、▼新しい寮施設に求める機能・設備への意見▼新しい寮施設以外に求める施設・設備への意見▼敷地転用方針への意見、を募っている。回答には大学付与のグーグルアカウントが必要だが、個人を特定するためではなく、1人1回答とするための設定だという。國府理事は、回答結果を分析後に公表する可能性に言及し、分析後に2回目のアンケートを実施する意向を明かした。

なお、京大は今回のアンケートの趣旨、設問、選択肢を外部メディアに公開することを禁止しており、記者からの公開要求にも応じなかった。京大は、アンケートは学内向けであり、外部からの影響により回答や京大の意思決定において中立性が損なわれることを防ぐためと説明しており、公開の可否は締切後に判断するとしている。

寮自治会は本紙の取材に対し、アンケートを「建替を前提とした上で、選択肢も誘導的」として撤回を求めている。

関連記事