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〈展示評〉社会不安の中での革新的な創作 「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」

2026.07.16

〈展示評〉社会不安の中での革新的な創作 「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」

《運動失調―エイズは楽しい》(デレク・ジャーマン 1993年 テート美術館)

1980年代後半から2000年代初頭にかけて制作された実験的な英国美術を紹介する「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」が京都市京セラ美術館(左京区)で開催中だ。保守的なサッチャー政権以後、緊張感や閉塞感が高まる英国社会で活動したヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBA)たちの革新的な創作が並ぶ。社会が個人にもたらす痛みや偏見、そしてそこから生まれる静かな抵抗が映し出された作品が特に印象的だった。

スポットライト作品《なぜ私はダンサーにならなかったのか》(作:トレイシー・エミン)は、作者が、女性を性的に消費し侮辱するまなざしによって受けた屈辱から、自らを解放していく過程を告白した映像作品である。思春期に複数の大人の男性と床を共にしたエミンだったが、15歳の時にディスコダンスに出会ってから熱中し、英国選手権に出場する。しかし、会場には、過去に関係を持った男性が集まり、彼女を「slag(あばずれ)」と侮辱する。エミンはダンスフロアから逃げ出し、町を出た。作品では、こうした過去の告白に続いて、関係を持った男性たちの名前が読み上げられ、制作当時のエミンが満面の笑みで力強く踊る姿が映し出される。傷ついた過去を自ら語り直すことで、過去に打ち勝ち自らの尊厳を取り戻していく姿が印象的だった。

続くセクション「現代医学」では、強烈な色で覆われた《運動失調―エイズは楽しい》(作:デレク・ジャーマン)が目を惹いた。作者のデレクは同性愛者であることを公表していた。この作品は、エイズを発症し、視力や平衡感覚、筋力を奪われながらも指で直接絵の具を塗りたくったものだ。どろりとした赤色の下地の上に、濁った緑・黄・灰色が塗り重ねられており、中央部には「AIDS I S FUN」という言葉が浮かび上がる。本作品が発表された1993年当時、エイズの医学的理解と啓発は進んでいた一方、感染者や同性愛者への偏見はなお根強かった。病気や差別に支配されることを拒み、表現することで自己をつなぎとめるデレクの強さが伝わる作品だった。

セクション「家という個人的空間」では、展示室の一角に再現された無機質な台所空間が存在感を放っている。インスタレーション作品《家》(作:モナ・ハトゥム)である。ワイヤーで囲まれた空間では、テーブルの上に鋭い銀色の調理器具が置かれ、その間を流れる電流の音が「ビビビ」とわずかに響いている。安らぎの場であるとされる家や台所空間が、骨の折れる家事労働を当たり前のように押し付けられていた女性たちにとっては、閉塞的で居心地の悪い空間であることが訴えられている。社会では無意識に目を背けられてきた事実を鋭く暴き出すように展示している点が印象的だった。

これらの作品は、伝統的な規範が支配する社会の中で、周縁へ押しやられた人々が受けた痛みをはねかえそうと戦っている。今回紹介したテーマ以外にも、人種や階級、セクシュアリティの問題など異なる抑圧や規範に対して、多様な表現を通して問いかけている。(絃)

《家》(モナ・ハトゥム 1997年 テート美術館)

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