〈書評〉幸せな結婚? 『傲慢と善良』
2026.07.16
普段評者は「顔」を見て買う本を決めることが多い。表紙を見て惹かれるものを感じたらあらすじを読み、面白そうと感じたら購入する。はずれを引くこともあるが、面白い本に出会えることが多い。本の「肩書」も重要だったりする。有名作家が書いた本なら、買っても損しないだろうなどと考えている。それとは別になにかピンと来るものがあったのだと思う。出会った瞬間に絶対に面白いだろうと直感し、気づけばこの本を持ってレジへと向かっていた。
39歳の西澤架が結婚を間近に控えたある日、婚約者の坂庭真実が忽然と姿を消した。彼女はなぜ姿を消したのか。姿を消す前にちらついていたストーカーと関係はあるのか。架が真実を探すべく関係者と会い、聞き込みを進めていくうちに彼女の過去が少しずつ明らかになってゆく。そして同時に架の傲慢さが露わになってゆく。物語が進むにつれ相容れないように思える「傲慢」と「善良」の境は曖昧になり、真実の秘密が明かされたとき、ついに両者は反転してゆく。
この本のテーマはもちろん「傲慢」と「善良」であるが、「結婚観」の切り口からも物語を捉えなおすことができる。登場人物それぞれが自らの結婚観を正しいと信じ込むあまり、軋轢が生まれてゆく。人生設計の一環として結婚を捉え、自らの意思で結婚を選択する者。親同士で決められたお見合い結婚を受け入れる者。自らに釣り合う「ピンとくる」相手を求めて、妥協する気がない者。自らの意思を見失ってしまう者。様々な結婚観が混在するなかで、彼らは結婚という「ハッピーエンド」に向かってもがき苦しむ。周りが結婚していく中、取り残されたものたちは、親の有形無形の圧や、「結婚するのが普通」といった社会的要請に追い詰められ、相手や自分に嘘をついてゆく。
本を読み終わったとき、自分がひどく疲れていることに気づいた。作品に入り込んでいくうちに、登場人物の傲慢さへと向けられていた非難はいつのまにか自らの方へと向けられている。自分に自信がない。自分は理想が高くない。そう言っておきながら、出会う人々に対して「ピンと来ない」などといった理由で対話すらしようとしない。まさに傲慢そのものである。身に覚えがある人もいると思う。晩婚化が進む昨今において、作品の中で語られる葛藤は決して他人事とは思えない。自分の未来が書かれている本のようにすら思えた。
傲慢さ、善良さと複雑に絡み合った嘘の先にあるのが、ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、ぜひこの本を読んで確かめてみてほしい。 (仁)
39歳の西澤架が結婚を間近に控えたある日、婚約者の坂庭真実が忽然と姿を消した。彼女はなぜ姿を消したのか。姿を消す前にちらついていたストーカーと関係はあるのか。架が真実を探すべく関係者と会い、聞き込みを進めていくうちに彼女の過去が少しずつ明らかになってゆく。そして同時に架の傲慢さが露わになってゆく。物語が進むにつれ相容れないように思える「傲慢」と「善良」の境は曖昧になり、真実の秘密が明かされたとき、ついに両者は反転してゆく。
この本のテーマはもちろん「傲慢」と「善良」であるが、「結婚観」の切り口からも物語を捉えなおすことができる。登場人物それぞれが自らの結婚観を正しいと信じ込むあまり、軋轢が生まれてゆく。人生設計の一環として結婚を捉え、自らの意思で結婚を選択する者。親同士で決められたお見合い結婚を受け入れる者。自らに釣り合う「ピンとくる」相手を求めて、妥協する気がない者。自らの意思を見失ってしまう者。様々な結婚観が混在するなかで、彼らは結婚という「ハッピーエンド」に向かってもがき苦しむ。周りが結婚していく中、取り残されたものたちは、親の有形無形の圧や、「結婚するのが普通」といった社会的要請に追い詰められ、相手や自分に嘘をついてゆく。
本を読み終わったとき、自分がひどく疲れていることに気づいた。作品に入り込んでいくうちに、登場人物の傲慢さへと向けられていた非難はいつのまにか自らの方へと向けられている。自分に自信がない。自分は理想が高くない。そう言っておきながら、出会う人々に対して「ピンと来ない」などといった理由で対話すらしようとしない。まさに傲慢そのものである。身に覚えがある人もいると思う。晩婚化が進む昨今において、作品の中で語られる葛藤は決して他人事とは思えない。自分の未来が書かれている本のようにすら思えた。
傲慢さ、善良さと複雑に絡み合った嘘の先にあるのが、ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、ぜひこの本を読んで確かめてみてほしい。 (仁)
『傲慢と善良』
辻村深月著、朝日新聞出版
2022年、810円+税
辻村深月著、朝日新聞出版
2022年、810円+税
