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〈映画評〉どこか懐かしい「破滅の物語」 『ユマカウンティの行き止まり』

2026.07.16

〈映画評〉どこか懐かしい「破滅の物語」 『ユマカウンティの行き止まり』

舞台となるダイナー。名物は「ルバーブパイ」 © 2024 The Last Stop in Yuma County LLC.

アメリカ南西部・アリゾナ州のユマ郡。砂漠のど真ん中にぽつんと佇むガソリンスタンドへ、ナイフ売りの男が給油のために立ち寄る。ガソリンは売り切れており、給油車を待つ間に隣のダイナーへ向かったものの、同じく給油のために立ち寄った銀行強盗2人組が現れ、ウェイトレスと共に人質に取られてしまう。強盗は給油車の到着を待つ間、ウェイトレスに「普段通り営業しろ」と命じたものの、癖の強い客が次々入店し、事態は予想外の方向へ転がっていくことに……。

本作のポスターには「タランティーノ×コーエン兄弟の衝撃、再来!」との文字が躍るが、現代アメリカを代表する巨匠たち──クエンティン・タランティーノ、またジョエルとイーサンのコーエン兄弟──の作品をいくつか観てみると、本作の「換骨奪胎」ぶりが見えてくる。例えば「ダイナーで起こる人質事件」という場面設定はタランティーノの『パルプ・フィクション』(1994)から着想を得たと思われるし、劇中で登場するカップルは『パルプ』の強盗2人組を意識させる人物造形だ。物語前半を彩る淡々とした会話劇も、タランティーノ作品に似た味わいがある。一方、中盤以降を支配する砂漠の荒涼とした風景と緊迫感は、コーエン兄弟の『ノーカントリー』(2007)を思わせるし、小さな出来心がドミノ倒しのように災厄を招く展開は『ファーゴ』(1996)を彷彿とさせる。こうした往年の名作との類似点は、悪く言えば本作の「既視感」の根源ではあるものの、新作なのになぜか懐かしい、独特の雰囲気を醸し出すことに一役買っている。

もう一点本作の魅力として挙げられるのは、平凡な人間が転がり落ちるように地獄へ突き進んでいく、「破滅の物語」としての完成度だ。ナイフ売りの男はダイナーで給油車を待つだけだったはずが、人質事件に巻き込まれ、中盤以降は滑稽なほど悪手を重ねていく。ある保安官は、突如身内が事件に巻き込まれ、復讐の炎をたぎらせた結果、自ら破滅へと向かってしまう。「善良な市民」だったはずの2人が、糸で操られたように終わりへ導かれていくさまは、多少できすぎた展開のきらいもあるとはいえ、最後まで観客を引き付ける力強さを持っている。

このように本作を論じると、往年の名作に精通した映画マニアしか楽しめない作品、あるいは悲惨な展開が連続する陰鬱な作品と思われる方もいるかもしれないが、評者のような「にわか」でも、上記作品群を観ずとも十分気楽に楽しめた上、前半のどこかドライな会話劇のせいか、作品全体の雰囲気は意外にも軽やかであることを付言しておこう。悲惨なはずの結末を観て、カタルシスさえ覚えられるほどだ。「予測不可能の『最悪』エンターテインメント」とは本作のキャッチコピーだが、新しいのに懐かしい、そして「最悪」なのに後味が悪くない奇妙な味わいが、本作の唯一無二の魅力といえるだろう。(晴)

原題 The Last Stop in Yuma County
監督・脚本 フランシス・ガルッピ
配給 KOOKS FILM
出町座で7月10日(金)より公開中
上映時間 90分

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