文化

日常のなかの前衛芸術 「モダン都市生活と竹久夢二 ―川西英コレクション」

2026.06.16

3月28日から6月21日まで、京都国立近代美術館にて「モダン都市生活と竹久夢二―川西英コレクション」が開催中だ。本展は、大正初期から昭和初期にかけて活躍した詩人画家の竹久夢二の作品を扱っている。版画家の川西英コレクションからの出展であり、雑誌の挿絵や書籍の表紙、日用品まで幅広い作品を見ることができる。

展示室に入るとすぐに、楽譜の表紙に描かれる絵の多いことに気づく。大正期は、レコードや蓄音機が高価だったため、音楽を身近に楽しむ手段として楽譜が一般的だった。子供や女性を含む多様な人々が手に取ったであろう楽譜の表紙には、恋や別れといった身近な主題を描く夢二の絵がよく似合う。特に、数多ある楽譜のなかで「夢見草」という楽譜の絵が目を惹いた。笹藪の中にゆったりとくつろぐ婦人の浴衣姿と、アンニュイな表情が心にのこる。夢二の女性はどこか物思いにふけっているような魅力的なものが多い。楽譜は飛ぶように売れ、後に夢二が他の出版社の表紙絵を描くことにつながったという。

夢二は葉書や千代紙、手ぬぐい、風呂敷といった日用品のデザインも幅広く手掛け、大正3年には手掛けた物品を販売する「港屋草紙店」を東京日本橋に開いた。さながらロフトの先駆けだ。京都や大阪でも販売されたという。特に、千代紙のデザインは豊富で見応えがある。千代紙は小物を包んだり折り紙に用いられる紙のことで、広く庶民に親しまれていた。マッチ棒から苺までさまざまなモチーフが人々の生活を彩っていたであろうことを考えながら巡ると楽しい。

実のところ、夢二は初めは詩人になることを目指しており、 初期には投書を行っていた。しかし活動を続けているうちに、次第に絵が評価されるようになる。晩年に差し掛かって、自身の遍歴について「文字で詩をかくより形や色でかいた方が、私には近道のような気がしだして、いつの間にか絵をかくようになってしまった」と回想している。

絵に関しては、美術学校や画塾で学んだわけではない。また当時高尚なものと見なされていた画壇とも距離を置いた。それゆえか、夢二の美人画は展覧会において、「俗気紛々。見られたものではない」「芸術の誇りとするに足りない」など識者から批判を浴びた。主題ならびに彼自身が俗物であり、卑しいというわけである。

そのため夢二はしばしば前衛的であるとの評価を受けてきた。しかし本当は、前衛的であることは、奇抜であることを意味しない。前衛とは、「現状とは違う他のあり方」を提示する運動であって、新たに示されるものは一見地味であっても良いはずだ。夢二は当時の画壇と一線を画し、日常のなかに主題を求め創作を行った。画壇を否定し論争を仕掛けるのではなく、自ら良いと信ずるものを作りつづける姿勢にこそ一流の芸術家の貫禄がある。

本展を、現状否定ばかりに走りがちな現代美術に対する100年前からのアンチテーゼとみることもできよう。夢二の中に、本当の意味での前衛を見る。(鶴)

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