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〈書評〉10人の皇妃で描くビザンツ1千年 『ビザンツ皇妃列伝[増補版]』

2026.06.01

〈書評〉10人の皇妃で描くビザンツ1千年 『ビザンツ皇妃列伝[増補版]』
身を売る踊り子から皇妃になったテオドラ、息子の眼を潰し、帝位を奪って史上初の女性皇帝となったエイレーネー、政略結婚のため、わずか7歳の頃に遠く離れたパリから来たアニェス=アンナ。以上の3人は、フィクションの登場人物ではなく、実在したとされるビザンツ帝国の皇妃である。本書『ビザンツ皇妃列伝』は、彼女らのような波瀾万丈の人生を生きた、ビザンツ帝国の皇妃10人の伝記集である。新しく2人の皇妃を追加した今回の増補版は、約30年前に書かれた本が持つ今なお色褪せない面白さを鮮烈に蘇らせている。

本書に描かれる、皇妃たちが生きた激動の人生は、まるでエンタメ作品で、ページをめくる手が止まらない。著者の語り口はとても親しみやすく、理不尽な世界を必死に生き抜いた1人の人間として皇妃を生き生きと描き出している。当時の男性歴史家たちが書いた「あいつは悪女だ」「とんでもない浮気者だ」といった悪意ある偏見に対して、当時の状況を考えたらそうするしかなかったのではと、著者は彼女たちの本音や人間味に寄り添う。また、史料に対する批判に基づきながら、皇妃らの人生を解き明かしていく過程自体も面白い。近親相姦の悪女と皇妃マルティナを非難する当時の史料を読み直し、創作部分を除くことで、心優しい彼女の姿を浮かび上がらせる過程は、まるで推理小説である。

本書は、皇妃の伝記を単に寄せ集めたものではない。ほぼ百年ごとに1人、計10人の皇妃を取り上げているため、ビザンツ帝国1千年の歴史を学ぶことができるようになっている。皇帝を中心に描かれてきたビザンツ帝国の歴史を見直す試みとして行われた、大学での講義が本になったものであるから、この見事な構成も当然と言えば当然である。

本書を取り上げた理由の1つも、まさにここにある。大学における歴史学の授業とは、どのようなものであるのかを特に新入生に知って欲しいのである。本書を読めば、史料を批判的に読み解くことで新たな側面を浮かび上がらせるという高校までとは違った歴史学に出会うことができるだろう。ビザンツ帝国が好きな人はもちろん、歴史学は退屈だと思っている人にむしろ読んでほしい一冊。(法)

『ビザンツ皇妃列伝[増補版] 憧れの都に咲いた花』
井上浩一著、白水社
2026年、2600円+税

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