文化

AI時代の知性のゆくえを考える 市立芸大・谷川氏「知の範囲広げて」

2026.05.16

AI時代の知性のゆくえを考える 市立芸大・谷川氏「知の範囲広げて」

投票システムを使って観客と交流する谷川氏(右)と塩瀬氏

4月19日、百周年時計台記念館にて公開講座「京大知の森」が開かれた。「知の森」は京大の知を学内外の人に発信することを目的に2023年から開催されている。6回目となる今回は「AI時代の『知性』と『衝動』 京都大学でどう学ぶか」をテーマに据えた。京大卒業生で京都市立芸術大講師の谷川嘉浩氏と京大総合博物館教授の塩瀬隆之氏が登壇し、講演と対談を行った。

谷川氏は講演で、学びには「衝動」こそが大切だと説いた。ここで言う「衝動」とは、抽象的な「モチベーション」や「やる気」とは異なり、「感情的な熱烈さとは関係なく自身の固有性に根差した、時に不合理な意欲」と定義される。谷川氏は「自己の外にある活動や職業を対象にやりたいことを見つけようとすると、自分の手近なものしか答えられない」と指摘。「我々は自分が知っている・想像できる範囲のことしかやりたいと言えない」としたうえで、知の範囲を広げていくことが重要と語った。衝動の見つけ方については、「善なるものを招き入れる」ためにとりあえず行動を起こしてみると良いとした。

また、谷川氏は将来の夢など世間が期待する問いに振り回されないために衝動が大切だという。「『本当にやりたいこと』を考えると、わかりやすく感情を掻き立てるものを選びやすくなるが簡単に動く感情を頼りに選択して良いものだろうか」と聴衆に問いかけた。

続いて塩瀬氏は、自身の研究の興味の変遷と総合博物館で企画展示を行う際に心掛けていることなどを語った。

システム工学やインクルーシブデザインを専門とする塩瀬氏は、ロボットにとって一番難しいのは問いかけて人の話を聞くことだという。ロボットは聞くふりはできても、相手に深く関心をもつことができないため、聞き上手になるのは難しいという点に気付き、コミュニケーションの成り立ちに興味を持つようになったと語った。

また、「AIが人の仕事を奪うのか」という問いについては、「AIが人の仕事を奪うのかという問いは、江戸時代で言うと馬は飛脚の仕事を奪うのかというようなもの」と笑いを誘い、「AIに負けない人材を育てよう」と無茶な競争をするより馬に乗る方がいいと持論を説明した。その上で、仕事を「奪っている」のはロボットではなく、それを拒絶しない社会だとして、あくまでどう使うかは人間の側に委ねられているとした。

京大の「自由の学風」については、何を研究し突き詰めるかについて他者の評価や解釈による干渉を受けないことを指すと説明し、「自由な学風」とは目指す場所が違うとした。総合博物館での仕事の裏話からも京大の研究者の「衝動」が伝わった。例えば、鉱物の研究者は重い石をリュックに入れて毎日持ち運んでおり、大変ではないかと声をかけると、「これは私の好奇心の重さだから苦ではない」と答えたというエピソードに会場は興味深く聞き入った。

その後、質疑応答を交えた2人の対談では、「レールを外れる衝動」について考え始めたきっかけを問われた谷川氏が「将来の夢から逆算していくのは今を消化試合にしているのではと思い、もっと今を楽しめる方がいいと思った」と語った。すると塩瀬氏も「将来のため」「役に立つから」という理由で子供が未来を選ばなければいけない社会に疑問を感じると言い、「変化してこそ成長なのだから、将来の夢に縛られることほど無駄なことはない」と言い切った。谷川氏も、教育する大人は相手を思っているように見せかけて、実際は自分の不安を押し付けて処理している可能性があることを覚えておくべきだと語った。

会場には546人の観客が集まり、自身の衝動と進む道に思いを馳せるとともに、熱心に演者の話に耳を傾けていた。(悠)

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