企画

複合原子力科学研究所を訪ねて 研究用原子炉KUR「最後の1週間」

2026.05.01

複合原子力科学研究所を訪ねて 研究用原子炉KUR「最後の1週間」

上から見たKUR。相当な高さであることがわかる

日本の大学が保有している研究用原子炉は3基。1つは近畿大に、残る2つは京大複合原子力科学研究所にある。吉田キャンパスから車で2時間ほど、大阪府南部・熊取町の丘陵地帯で、複合研は1960年代から研究の場として機能してきた。

今年4月23日、2つの研究炉のうちの1つ「京都大学研究用原子炉(KUR)」が運転を終了した。今回、編集員が運転終了直前の21日に熊取へ赴き、特別に原子炉内部を見学した。本企画では、幾重もの入域検査を越えた先に見た原子炉の様子を活写するとともに、原子炉の「青い光」をどのように継承していくのか、教員に話を聞いた。福島の事故がいまだ影を落とす日本の原子力産業、そして原子力研究が向かうべき先を考えるきっかけとしたい。(編集部)

目次

KURなき複合研の運営方針は
原子炉施設の中へ

KURなき複合研の運営方針は


62年の歴史に幕を閉じたKURでは、どのような研究が実施されてきたのか。また、運転終了の理由とは。KURの運転終了後、複合研はどのように運営していくのか。運転終了直前の4月21日、黒﨑健所長・教授(原子力工学・材料科学)、KURの管理責任者を務める堀順一教授(核データ・放射線計測)、同じく複合研の持つ原子炉である「京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)」の管理責任者を務める北村康則准教授(原子炉物理学)に話を聞いた。(晴)

がん治療に貢献


――KURではどのような研究が行われてきたのか。

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の研究開発が挙げられます。BNCTとは中性子とホウ素の核反応を利用したもので、正常細胞にほとんど損傷を与えず、がん細胞を選択的に破壊する治療法です。これまでにKURでは500例を超えるBNCTの臨床研究が実施されてきました。こうした成果を踏まえて、2020年には国内の2つの医療機関において小型加速器を用いたBNCTの保険診療が開始されました。最近では、ホウ素薬剤の開発のための実験がKURで行われています。

この他にも、X線ではなく中性子線を用いた物体の構造解析、試料中に含まれる微量元素の分析など、物理学・生命科学・工学をはじめ多種多様な分野の研究に用いられてきました。

――もう1つの原子炉であるKUCAとの違いは。

北村 KURは研究用原子炉の中では比較的規模が大きく、最大熱出力は5千キロワットです。1つのリソースで様々な研究を同時に実施できることは大きな強みですが、主たる使用目的が中性子利用であるため、炉心の構成を頻繁に変更するような設計にはなっていません。KUCAの最大熱出力は100㍗ですが、炉心を組み替えやすいという特徴があります。KUCAでは炉心の構成を系統的に変えたり、制御棒の位置を変更したりするなどして、炉心の最適化や安全性評価に関する研究が進められてきました。

ただ現在、KUCAは運転を一時的に停止しています。これまでは核兵器に転用可能な高濃縮ウラン燃料を用いていましたが、今後は低濃縮ウラン燃料に切り替える必要が出てきたためです。低濃縮ウラン燃料の導入には様々な安全審査を受ける必要があり、KUCAもこれらへの対応を進めている最中です。

研究規模は縮減せず


――KURが運転終了に至った理由は。

黒﨑 KURを運転すると発生する使用済み燃料はアメリカに引き渡すことが、過去に日米政府間で取り決められました。この取り決めの期限が今年5月であることが直接的な理由です。また、原子炉の老朽化や東日本大震災後の規制基準の厳格化なども背景にあります。

――KURの廃止措置の見通しは。

黒﨑 断定はできませんが、今後数十年で建物の撤去や放射性廃棄物の搬出は完了すると見積もっています。KURの跡地利用はまだ検討中です。

廃止措置の課題は、放射性廃棄物の処分についてのものです。日本では、発電用原子炉から出た放射性廃棄物は、低レベルのものであれば処分場があり、高レベルのものも現在最終処分場の選定作業が進められています。しかし、研究用原子炉から出た放射性廃棄物の処分場はまだ十分に整備されておらず、今後、国レベルできちんと決めていく必要があります。

――KURの運転終了が複合研の研究や組織体制に与える影響は。

黒﨑 KURは複合研のシンボルですし、運転終了は正直痛手です。ですが、KUCAは引き続き運用していきますし、複合研が所有している各種加速器で実施できる研究も多くあります。また現在、福井大や日本原子力研究開発機構(JAEA)(*)と共同で、福井県敦賀市の「もんじゅ」(*)の跡地に新しい試験研究炉を建設する予定で、向こう10~15年での完成を見込んでいます。新試験研究炉が完成したら、一部の研究者が敦賀で研究することはあるかもしれませんが、基本的には熊取で研究を続けます。KURの廃止措置もあるので、人員削減を行う予定もありません。

KURで実施していた人材育成についても、KUCAや他の施設をベースに実施していくことは十分可能だと思っています。

(*)JAEA
原子力関連の研究・技術開発を行う国立研究開発法人。本部のある茨城県東海村は1957年に日本初の原子炉が設置されて以降、多くの原子力関連施設が立地している。東海村では99年に「JCO臨界事故」が発生し、日本の原子力施設で初めて放射線被曝による死者が出た。

(*)もんじゅ
次世代原子炉の開発を目指し、1991年に運転を開始した研究用原子炉(高速増殖炉)。95年にナトリウムの漏洩とそれに伴う火災事故が、2010年に炉内装置の落下事故が発生したことなどを受け、16年に廃炉が決定した。現在、廃止措置を実施中。

黒﨑所長=4月21日、複合研所長室



人材育成を継続


――複合研と熊取町の関わりについては。

黒﨑 60年以上前に我々を受け入れてくれた熊取町には、本当に感謝しています。関係はとてもよく、私自身町長とは意気投合していますし、複合研が町の将来計画においてどのような役割を担うかなど、事あるごとに話をしています。町が駅前にビジネスホテルを誘致してくれたおかげで、複合研の関係者が滞在しやすくなるなど、町の施策にも恩恵を受けています。複合研も町おこしに協力していきたいと思っています。

――他の研究機関と異なる、複合研ならではの利点は。

北村 自由な発想を持って研究にあたれる点だと思います。以前勤めていた研究機関は優れた施設を持っている反面、チーム単位でのプロジェクト研究が主で、個人研究はしづらい面もありましたし、東日本大震災で研究施設が被害を受けてしまいました。複合研の設備は多少JAEAより劣っているかもしれませんが、より自由な発想で研究を計画できますし、設備の使い勝手がいい。大学として研究炉を持っている複合研ならではの利点だと思います。

――最後に、KURが運転終了を迎えるにあたっての思いを。

黒﨑 運転終了を間近に控え、改めてKURの偉大さを実感しています。KURは長年にわたって研究所のシンボルであり、多くの研究者をつなぐ中心的な存在でした。このKURが運転を終えることは、研究所にとって非常に大きな出来事です。ただ、私はむしろ、これを研究所が生まれ変わるための大きなチャンスだと思っています。ポストKUR時代においても、原子力、放射線、中性子科学の分野で世界をリードする、ここにしかない研究拠点を目指していきたいと思います。

管理の責任者として、KURが無事に運転を終えることにほっとしています。KURは教員・技術職員・事務職員などの全所員が一丸となって運転・管理してきました。また62年間運転を継続できたのは、多くの研究者の利用や地元の皆様のご理解があったおかげです。KURに携わったすべての関係者の皆様に心より感謝を申し上げたいです。今後も多くの方のご理解、ご協力を得ながら、廃止措置や人材育成、研究を進めていきたいと思います。

北村 原子力の未来は完璧なバラ色とまでは言えませんが、優秀な人材を輩出していきたいという思いは変わらずあります。まずは原子力について興味を持っていただければ嬉しいです。KUCAについても、運転を再開できるよう力を尽くしていきたいです。

――ありがとうございました。(聞き手:晴・史・燕・轍)

堀教授=同所



北村准教授=同所


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原子炉施設の中へ


KURとKUCAは、約32万平方メートルという広大な敷地内に多数の実験施設を構える複合研の施設の中でも、とりわけ象徴的だ。が、そもそも2つの施設では何を行っているのか。その安全性はどうか。本取材では特別な許可を得て、堀教授、北村准教授の案内で、KURとKUCAを見学した。普段はお目にかかれない2施設の内部に迫る。(轍)

ラストラン目前の巨大原子炉 KUR


堀教授の案内のもと、KURがある建物へ。黒﨑所長も同行した。

線量計を首にかけて、建物内に足を踏み入れる。身分証明書を用いた入念なチェックを受け、にわかに身が引き締まる。奥に、原子炉の運転状況を表示したパネルが見えた。

長い廊下を進み、原子炉のある部屋につながる扉にたどり着く。この扉は二重扉となっており、間の部屋で気圧を調整する。万が一の場合に放射性物質がこの部屋から漏れることがないよう、原子炉のある部屋は他の部屋より気圧が低くなっているという。なお余談だが、扉を開く際に某コンビニエンスストアの入店時の音が鳴っていた。

2つ目の扉を開けると、さながら一つのビルのようなKURの巨躯が眼前に現れる。堀教授の説明によると、KUR全体(建家)は直径28メートル、地上22メートル、地下7メートルの円筒型で、直径2メートル、深さ8メートルの円筒型のプールの周囲をコンクリートで覆っている、という構造。プール底部に炉心があり、ここで燃料を核分裂させて中性子を得ている。運転中は核分裂反応により膨大な量の熱が発生するため、1時間に約900キロリットルもの水を循環させ冷却しているという。

KURの外観。「研究所のシンボル」と黒﨑所長



では原子炉内では、どのように安定・安全に核分裂反応をさせているのか。原子炉は臨界状態、すなわち生じる中性子と失われる中性子の数が一定であることで核分裂連鎖反応が維持されている状態で運転するが、この中性子の数を調整するために用いるのが「制御棒」である。制御棒は中性子を吸収しやすい性質をもつホウ素を含んでおり、炉内の中性子の数が過剰になった場合、KURの上部に設置された制御棒駆動機構によって制御棒を炉心に挿入し中性子の数を減少させる。

制御棒。実際は電磁石で吊り下げており、停電時には炉内へ自由落下で投入される



安全面では、冷却系の配管などに問題が生じた場合に備え、別の手段で水を流入させる緊急注水系を備える。また、空気の流れも厳密に管理しており、建家が鉄板で覆われていることで気密性を保っているほか、いざというときは排気系を水で封じて空気が外部に漏れないようにする。

階段を上がって右手に、スイッチやモニターがいくつも並んだ制御室がある。ここでは主に技術職員が、炉内の中性子の数や水の温度などを監視し、制御棒の操作などを行う。京大全体の220名の技術職員のうち29名が複合研に属しているというから、原子炉を安全に運転するためにいかに人手が、そして専門知識が必要かということがわかる。

職員が二交代制で常駐しながら、KURは火曜日の朝に起動、木曜日の夕方に停止、という運転パターンで稼働してきた(*)。取材したのは火曜日。「62年間で最後の週だから」と、黒﨑所長は感慨深げに語った。

(*)初の臨界時からずっと同様であったわけではなく、以前はより長い時間(現在の3倍ほど)運転していたこともあるという。使用するウランを高濃縮から低濃縮へ切り替えた2010年以降は、この程度の運転を続けていた。

制御室。運転中は運転当直員が常駐している。当直員には常に3人以上の職員を割り当てている



原子炉の上には、炉内を覗き込めるように穴が空いていた。ここから見えるのは、チェレンコフ光と呼ばれる鮮やかな青白い光だ。編集員らは、自動で制御される微調整用の制御棒が動く音を聞きつつ、この穴から貴重な光景を目に焼き付けた。

上から覗き込んだ様子。まさにこの中で、核分裂が起きている



チェレンコフ光を覗き込む編集員。付近のケーブルに触れてはいけないため腰が引けている



中性子を「利用する」施設も併設されている。階段を下りて向かったのは、「中性子イメージング」を行う施設。X線でなじみがある透過画像を、代わりに中性子線を用いて撮影する。中性子が通りやすい部分は白く、通りにくい部分は黒く写し出されるのはX線と同じだが、X線は金属を透過しにくく、プラスチックや液体などを透過しやすいのに対し、中性子は金属を透過しやすく、プラスチックや液体などによって遮蔽される。そのため、両者を見たいものによって使い分けるのだ。

取材時に行っていたのは、貝の化石に対する中性子イメージング。この施設を案内してくれた熱エネルギーシステム研究分や大平直也助教によると、従来古生物学では化石の内部の観察にX線を用いていたが、中性子を使うことで異なるコントラストの画像が得られ、新たな発見につながることが期待されるという。

中性子イメージングにより貝の化石の内部を撮影している



「原子炉研究のための実験と人材育成」の場 KUCA


続いて、KUCAの管理を統括する北村准教授の案内で、KUCAを見学した。

KURと同様、厳しい身分確認が求められる。加えて、事前申請した者以外には、スマートフォンなど撮影できる機器の持ち込みは不可となっていた。金属探知機まで使用する入念さだ。セキュリティの観点からKUCAはより厳格に管理されているという。

KURに比べてはるかに出力が低いKUCAは、炉心の組み替えが容易であり、原子炉そのものを研究する原子炉物理学という分野の基礎実験を行う施設という立ち位置だ。また、燃料の扱い方や原子炉の運転操作などを学ぶ学生実験を数多く行ってきた。全国から受け入れた学生の数は4千名以上に上るという。今回は原子炉実験と人材育成の場である、A、B、C架台と呼ばれる3基の集合体を見学した。

KUCAの外観。十二角形の特徴的な建物



KUCAのちょうど中央部から、それぞれの集合体がある区画に入れるが、入口は分厚い壁に阻まれている。床ごと回転して壁が動くことで、C架台への入口が現れた。

C架台は直径・深さ約2メートルのアルミニウム製の円筒で、中に燃料体などをはめ込む格子板が備わっている。見た目は大きな寸胴鍋のようだ。出力が低いため遮蔽体は設置されておらず、炉心がむき出しになっている。このタンク内を水で満たし実験を行う。専ら水を減速材に用いた実験に使用する集合体だという。

A、B架台はほぼ同様の構造を持ち、アルミニウム角柱がずらりと並んだ光景が目を引く。ポリエチレンなどの固体を減速材に用いた実験に使用する集合体である。格子板に立てる燃料体は、アルミニウム角柱に燃料角板、黒鉛、減速材角板を重ねて詰めたもの。角柱内の減速材の素材や並べ方を変え、炉心の特性を調べるといった実験が行われる。

KUR・KUCAの施設から出る際、専用の装置を用いて、汚染がないことを確認した。また冒頭に触れたとおり、両原子炉の見学の間、常に線量計で放射線量を測定した。いかに安全性を担保しながら原子炉を有用に運転していくかという、両原子炉が直面してきた主題の一端を感じとった取材となった。KURの運転終了という一つの区切りを迎えた複合研だが、KURの廃止措置やKUCAの運転再開など、今後も様々な課題に向かう。

KUCAのA架台。アルミニウム角柱が並ぶ



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